貿易都市攻防戦ー2



ギルと山羊はお互いに踏み込む。



山羊とギルの拳と剣が激しくぶつかり合う。


山羊の拳がぐずぐずに崩れていき、対するギルの剣も刃こぼれが目立つ程に傷ついていく。




「なんという馬鹿力ーーだが」




ギルがそういうと、剣の先から魔力の塊が放出される。



それは山羊悪魔の心臓を貫いた。




「これは、剣の先から圧縮した魔力を放つ"魔術"だ」



魔術。



この世界特有の技術体系だ。



武器や道具を媒介にして、魔力を圧縮したり、分離したり、放出したり操作ができる。



魔法のような多様性や威力はないが、魔法の適性のない戦士でも扱える。




「コノ世界ノ技術カ、興味深イ」




心臓を撃ち抜かれた山羊の悪魔は、平然としていた。



身体の構造が人間とはまるで違う。



この程度では、致命傷にはならない。




「スキルーー炎海」




山羊は口から辺りを覆い尽くすほどの火炎を吐き出した。




「くぉ!」



ギルはそれを空高く跳躍して回避する。



「スキルーー勇者の使う秘技か!?」



山羊はスキルと言っていた。


それが勇者の使う技と似たものかは不明だが。




空中に浮かんでいるギルに山羊の拳が振り下ろされる。



「っ!?」



もろに直撃したギルは、激しく後方に吹き飛んだ。



だが、彼も一流の傭兵だ。



吹き飛びながらも、体勢を整える。



「片腕がいかれたかっ!」



片腕を動かせない。



おそらく、骨が折れてしまっているのだろう。




「だが、それで怯んで戦場を生きれるものか!」




ギルはお構いなしと、悪魔に突っ込んでいく。



振り下ろされてきた拳をギルは、間一髪で回避する。



「幻刃」



彼は魔力で、刃を複数生成する魔術を使用する。



腹部を切りつけられた山羊悪魔の身体に時間差で魔力による斬撃が加えられる。



だが、これもまた決定的なダメージにはならない。



「スキルーー砲炎」



そういうと山羊悪魔の口内から熱線が放たれる。



それをまたギリギリで回避する。



とは言ったものの肩の皮膚が焼け焦げてしまったが。



再び両者の拳と剣が何度もぶつかり合った。



真に二人の実力は互角だ。



しかし、片や人類の上積み戦力、もう片方は量産型。



個として互角でも数で圧倒的に負けている。




(でも、このままならば勝ち目があるな)



ギルは辺りを見渡した。



ロロとララはお互いに連携して悪魔を相手だっている。



ベリアも推されながらも、なんとか持ち堪えている。



冒険者パーティーは、その連携力により牛型悪魔を押しつつあった。





だが、その瞬間。



彼らの目の前に物々しい巨大な門が現れる。



それは、シリウスの召喚魔法によるものだ。




そこから何体もの悪魔が姿を現す。


全てが山羊悪魔と牛型悪魔だ。




合計で20体前後はいるだろう。




「戦闘時ニソッポヲ向クナ」



よそ見をした瞬間にギルの身体に拳が振り下ろされる。



そのまま吹き飛ばされて、ギルは確信する。



援軍を呼ばれたこの状況では勝てないと。




「カーマダイン家の者、撤収!! この都市捨てて逃げるべし」




ギルは大声でそう叫んだ。



所詮は金目当ての傭兵だ。不利になれば当然逃げる。




「ちょ!!」



冒険者達が状況を飲み込めない様子だった。



カーマダイン家も所詮は傭兵。



戦士のような誇りも律儀さも持ち合わせてはいない。



戦場の守銭奴。




だが、不利になる状況などカーマダインの名のもとには一度しかなかった出来事だった。

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