貿易都市攻略戦
数日後。
ライジア王国、貿易都市リ・ヘイダ。
北側は城壁、南側は海に挟まれたこの都市は鉄壁の防御を誇っている。
魔族領に近い事もあって、軍事拠点としての役割も果たしている。
この都市にもスラン王国での悲劇について広まりつつあった。
王都の壊滅。
王国中を襲う悪魔の軍勢。
そして悪魔達が口々に言っている"主神"と言う存在。
スラン王国外での被害はなかった。
今の今までは。
悪魔の軍勢がこちらに迫っていると言う情報が入ったのだ。
半牛半人の悪魔が6体。
人型の山羊風悪魔が1体
それに付随する異形の獣達、恐らく500前後。
これらが貿易都市に向けて進軍していると報告があった。
都市側は迎撃体制を敷いて、城壁の内側に2000人の兵士を配置した。
それとカーマダイン家と特級冒険者達も招集された。
「ほぅ、まさか魔族ではなく悪魔を相手取る事になるとはな」
城壁の上に立っていた1人の初老の男がそう言った。
身体中に古傷を持つ男で、歴戦の戦士といった出立ちだ。
彼は、ギル・カーマダイン。
傭兵一族、カーマダイン家の副当主だ。
万が一、魔族の侵攻があった際の予備兵力として、多額の依頼料を払い何人かのカーマダイン家をこの都市に在中させていた。
それ以外にも何人かの猛者らしきもの達の姿がある。
同じくカーマダイン家の傭兵が他3人。
そして特級冒険者パーティー"銀の息吹"のメンバー3人。
合計7人だ。
彼らがこの都市の最高戦力達だ。
「あの悪魔強い」
「あの牛もどき、多分私達と互角だね」
双子の姉妹がそう言い合った。
外見的には10代前半くらいに見える。
彼女達は、ロロ・カーマダインとララ・カーマダインだ。
相手の強さを正確に計り知る異能を持っている。
だが、姉妹二人がお互いに近くにいないと発動できないと言う制約がある。
「兵力は互角ってとこか」
そう言ったのは、斧を担いだ青年だ。
名前はベリア・カーマダイン。
「あの山羊はもっと強い。ギルじい様と互角」
ロロがそう分析する。
「なら俺があの山羊野郎を相手しよう」
ギルはそういうと、剣を手に持つ。
「他の牛型は一人一体ずつで処理するか」
今度は銀の息吹のリーダーの男がそう言った。
彼の背後には魔法使いと戦士が控えている。
「なら決まりだな、死ぬなよ冒険者」
「そっちこそ、傭兵さん」
ギルとリーダーはお互いの視線を合わせる。
次の瞬間。
悪魔達が一斉に動き出した。
それと共に、壁越しに弓矢が放たれる。
数百名の弓兵による一斉射撃だ。
塊となって迫ってくる魔獣達に容赦なく矢が降り注ぐ。
だが、耐久力が高い魔獣達の前には決定打にはなり得ない。
「
"銀の息吹"の魔法使いが杖を振ると、地面に向かって一直線に落雷が堕ちる。
何体もの魔獣を焼き殺すが、まだまだ足りない。
「
「
ロロのララが魔法を放つ。
無数の氷の塊が、魔獣を何体か仕留める。
灼熱の炎が複数の魔獣を焼き殺す。
だが。
「数が多い」
「ていうかあの獣みんなそこそこ強い」
生半可な攻撃では、魔獣を一撃で仕留めきれない。
魔力量的にも、魔法で全てを殺し切る事はできない。
唯の歩兵がこの圧力を耐え切れるかどうか。
魔法と弓矢で暫く迎撃を続けるが、先頭を突っ走ってきた悪魔達が壁際まで迫っていた。
「うおおおおお!!」
壁をよじ登ろうとする牛型にロロとララが魔法を叩き込む。
「
「
それに続くように、魔法使いが落雷を牛型悪魔の頭上に降らせる。
「うおおおおぉ!!」
だが牛型は、雄叫びを上げて再び壁をよじ登ってくる。
「この牛、硬い」
「でも効いてる、倒せなくはない」
ロロとララは再び魔法を放つ。
「くそ、この牛野郎!」
ベリアと牛型は壁の上で対峙する。
だが他5体の悪魔達もいる、一体だけの相手はできない。
「人間ヨ、主ノ望ミダ。ココデ屍ニナレ」
山羊悪魔が、カタコトの言葉を発する。
「悪魔が主を語るなよ......紙でもご馳走するぞ、食用肉」
ギルはそういうと、山羊悪魔の前に立ち塞がる。
(こいつ、俺以外の奴ではまるで歯が立たないだろう......俺がどうにかするしかない)
ギルは確信していた。
この山羊は他の悪魔達よりも一回り強い。
これもシリウスが創造した悪魔で、レベルは70だ。
この世界なら、一国の最上位層の強さだ。生半可な者では勝てない。
そしてタイマンで勝ち筋があるのは、ギルだけだ。
「食用ハオマエダ、痴レ者」
「ごちゃごちゃ抜かすなよ」
ギルと山羊はお互いに踏み込む。
「お前ら、絶対に負けるなよ!」
「わかってるぜ、リーダー!」
銀の息吹の面々も、牛型と対峙する。
山羊の拳とギルの剣がぶつかり合う。
ギルは衝撃で後方に吹っ飛び、山羊の拳の肉が削げ落ちる。
「なんて馬鹿力っ。無駄なく一直線に力を入れたはずがこれか」
「肉ヲ切ラレタ、力ノ使イ方......良ク出来テル」
ギルと山羊はお互いに、近い実力同士だと認め合うしかなかった。
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