絶望



朦朧とした意識の中、暗闇で声が聞こえてくる。




   




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「この魔法使いーー本当に生かすんですか?」



「ああ、生きてもらう」





あの悪魔のような女の声だ。



もう一人の声の主はわからない。








それから長い間気を失っていた。




ラナは目を覚ます。



辺りは酷い惨状だ。




「ファビ、ガラル、リー、ノ?」



ずっと一緒に戦ってきた仲間たちの無惨な亡骸。



「ううっ」



吐き気が込み上げてくる。




ラナは身体をゆっくりと起こす。





痛い。



全身が軋むような激痛が走る。



片腕の感覚がない、視界が狭い、片目も潰れている。



その痛みが全て現実だと突きつけてくる。





リーノは痛む身体を無理矢理動かして、大広間から出る。



廊下には死体がどこまでも転がっていた。



中には見覚えがある顔もあった。



「みんな......なんで、なん、で、なん、で、なんで......」



頬から涙が床へと落ちる。



涙は地面にできた血溜まりに飲み込まれていく。



廊下に置かれた鏡に映る自分の姿は悲惨なものだった。



片腕と片目の欠損、上半身から首元までの酷い火傷。


なんで生きていられるのか分からない。





暫く放心状態で廊下を歩き続けた。






ラナの視線にあるメイドの死体が映った。



あの時、ソーマとリーノの子供を抱いて逃げたメイドだ。



その瞬間、嫌な予感がラナの頭をよぎる。



そしてそれは的中してしまう。



「う、嘘っ」




窓際に二人の赤子の頭が置かれていたのだ。



間違いないソーマとリーノに見せてもらったあの子だ。



「なんっ、で」



ラナはその場に跪いてしまう。



「うええぇっ!!」




ラナは思わず胃の中のものを全て吐き出してしまう。



ラナの吐瀉物と床の血液が混ざっていく。




「もう、無理っ.....」



ラナは近くに落ちていたナイフを拾い上げる。



「こんなの耐えられない......みんなの、ところにっ」




ラナはそれで自分の喉を突き刺そうとした。



「自死は良くないですわ」




その時だ、背後から声をかけられ手が止まる。




ラナが振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。



「ご機嫌ようーーラナ様」




そこにいたのは国王の愛娘にして、第二王女のサラティアだ。


ブランドの長い髪、王族らしいそして綺麗に纏められたドレスを身に纏っている。




「良く、ご無事でっ」



ラナはすがるように、サラティアの足元に近寄る。




「なにか勘違いされているようですが、私は貴方に言伝にきまして」



ラナは不思議そうな表情を浮かべて、サラティアに視線を向ける。




「ずっと私は不満でして......どうせ政略結婚で好きでもない男に嫁がさせる未来など」



そうにんまりとした笑みを浮かべた。




「だから、悪魔に魂を売りましたの」


「どういう、こと?」



ラナは彼女のいうことが理解できなかった。



「私はこうなることを前々から知っていましたわ」


「っ!?」



ラナの頭に雷が落ちたかのような衝撃が走った。



「今の私はシリウス様が配下、守護聖典。ひすいの聖典......」



サラティアはそうとだけ言った。




「くっ!!」



ラナは咄嗟に魔法を放とうとする。



「今は貴方と戦う気はないの、矛を収めてくださる?」




だが、サラティアのその言葉に手を下ろしてしまった。




「貴方をあの方が生かしたのはこの惨状を広める生き証人として......せいぜい死なないでくださって」



「ま、まっ!」



サラティアはそう言い残すと、突如として姿が消えた。



そこに残ったのは死にかけのラナと惨殺されたら死体の山だ。




「ふ、ふざけるなぁ!」



気づけばくだらない自殺願望なんて消えていた。


代わりにあるのは、凄まじい殺意だ。



「生きる......絶対に生きる」




この恨みを晴らさないで、死ねるわけがない。




「絶対に殺してやる」



そう、命に変えてでも。

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