勇者VS半神



「お前だけは生かしておけない......魔王なんかより邪悪だ」



ソーマはシリウスを睨みつける。



「こい」



シリウスはフランベルジュを投げ捨てる。



それはシリウスの腕から離れた瞬間、光の粒子になって消える。




相手は100レベルの戦士ーー打ち合いでシリウスが勝てる相手ではない。




「殺してやる」




ソーマはそう言うと地面を蹴り上げて突っ込んでくる。



神盾イージス



シリウスが咄嗟に展開した防御結界を容易く破壊する。



だが、そもそも避けれない攻撃ではない。




「スキル、速度上昇、赤字速度領域レッドゾーン!!」


  


しかしソーマは、本来純戦士が使えないはずのスキルを使用した。




その瞬間、ソーマの速度は音速を超えるーー。



轟くような大音響と衝撃派が生まれる。




そのまま見事にシリウスの心臓を貫いた。




「うっ!! な、なんでスキルを!?」


「この世界で特訓したら習得したんだ!! さぁ死んでくれ!!!」




やはりアンノウンワールドの法則が通じないこの世界では、このようなイレギュラーが起こりうるのだろう。




純戦士ーーそれも100レベルの伸び代無しが本来はスキルは覚えようがないのだ。




「うおおあぁ!!」



ソーマはそのまま剣を縦に引き裂こうとする。



だが、



大衝撃ヘビー・クラッシュ




シリウスが咄嗟に唱えた魔法により両者の視界が真っ白になる。




衝撃と爆発音。




両者は数百メートル飛ばされ、市街地に落ちた。





そこは真っ黒な炎が辺りを包み込む地獄のような光景だった。



全ての人間が、炎に飲み込まれ溶け死んでいた。


稀に呻き声が聞こえてくるが、短い命だろう。




回復ヒール




シリウスは回復魔法を使い、傷口を塞ぐ。




危なかった。



体感でHPの半分は持っていかれた。



流石は純戦士だ。魔法使いの紙耐久では正面からやり合うのは得策ではない。




その時だ。




遠くから凄まじい勢いで足音が迫ってきているのを感じる。




恐らくソーマだ。




反対側に数百メートル飛ばされたのに、もう距離詰めてきていたのだ。



流石は純戦士ーーと言ったところか。




「死ねぇ!!」




黒い炎を掻き分けて、ソーマが飛び出してくる。




「スキルーー神罰」




シリウスはスキル神罰を発動する。



これは種族が神格専用のスキルシリーズの一つだ。



様々な必中効果を何パターンからか選択できるが、今回はフリーズを選んだ。



「っ!?」




ソーマの動きが固まる。




このフリーズ効果は、を3秒間動きを確定で止めると言うものだ。



その代わり、クールタイムが1000分と非常に長い。



聖神槍ロンギヌス




シリウスは魔法を唱えると、怪しく輝く槍が出現する。



それでソーマの心臓を貫いた。





「神の領域たる私ならば、心臓程度潰されても即死はせんーーだが、人間ならばそうはいくまい」




ゲームなら、心臓や頭を狙えば会心率1.25倍で上乗せダメージを喰らった。



しかし現実であるこの世界で心臓が潰れれば当然死ぬ。




「くそっ......がぁぁ」




ソーマはその場に倒れ伏せる。




「第一、純戦士は強さの上限が概ね決まっている。そもそもの面白みもセンスもない職業......100レベルでも弱い方だーーその勇気は褒めたものたが」




勝ちを確信したシリウス、無駄なことをつらつらと口に出す。




対するソーマはシリウスの言葉には耳を傾けていなかった。





彼の脳裏に浮かんでいたのは、転生前の記憶、大切な仲間との記憶、そしてーー妻との短い幸せな日々だ。





「ご、ごめん......ごめん、ごめ......」




ソーマはその命が終わる時まで謝罪の言葉を述べていた。



だんだんと声が小さくなり、やがて完全に聞こえなくなる。





勇者はここに命を落とした。





それを見届けたシリウスは満足げな表情を浮かべる。




(後は、ほどほどに生存者を作ってこの惨状を広めて貰おうかな......良い挨拶がわりになるんじゃないかな)




そういえば、あのラナとか言う魔法使いはまだ息があったはずだ。


生かしてやって生き証人にでもしてやろう。




「さて、サリスの様子も見ないと」




シリウスは王城の方へと歩みを進める。

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