前哨戦ー3




獄炎ヘルフレイムをまともに食らったラナは、地面に倒れ落ちていた。



身体中が熱く、苦しいほどに痛い。




左手がなくなっている。



幸い肉が焼かれて、出血がないのが救いだ。



恐らく、上半身に酷い火傷を負ってしまっているだろう。



ラナの視界の隅では、ソーマとシリウスの激しい乱戦が繰り広げられている。




ファビも何体もの魔獣を召喚しているが、二人の激戦に、自身の魔獣を突っ込ませても無駄になるだけと理解している。



恐らく、隙をついて陽動として魔獣を放つつもりだろう。




「ラナ、今すぐ治療するわ」



その時だ。



リーノがラナのそばに駆け寄った。





「主よ、私が命をかけらを持ってして、かのものに祝福をーー」




リーノが祝詞を口にする。




彼女は神官だ。


神に祈りを捧げて、その能力を模倣すると言うものだ。




リーノが使った祝詞は、欠損部位の修復と体力の回復だ。



しかし、ラナの怪我は一向に回復する気配がない。




それもそのはずだ。



ラナの受けた獄炎ヘルフレイムは、使用者のHPを10%を消費することで、発動する特殊な魔法だ。



課外範囲は狭いが、それ相応に強力な火力。



そして、この熱線で一定以上のダメージを受けると、リスポーンするまで回復魔法とバフ魔法、状態異常解除ができなくなる呪いを付与する。




ゲームと違い、現実で死んでリスポーンするなんて無理だ。



つまりは、この魔法で大ダメージ喰らった相手は、もう二度と怪我や欠損部位が治る事はない。




「なんで、私の祈りが効かないの?」




あらゆる異常状態、肉体の欠損を全治させる神の祝詞が効果を発しない。


リーノはかなり動揺していた




「多分、呪いか何か......それよりガラルは」



ラナは痛覚を鈍らせる魔法を付与していたため、至って冷静だった。



「ガラルはもうっ」



ラナがガラルの方に視線を向けると、身体中をぐちゃぐちゃに粉砕された彼が横たわっていた。



どう見ても死んでいる。




あのフィジカルモンスターのガラルがやられた。


怒りや悲しみよりも、頭の理解が追いつかない。




「ガラル」



9歳で魔王討伐の旅に出て、8年。



魔法使いの神童と崇められ、幼いながらも第一級の戦力として魔国連合軍と戦い続けていた。



その人生の半数を共に過ごしてきたガラルは、容易く殺されてしまった。






そして、その場にいるすべての人間はすでに悟っていた。





この女シリウスは魔王よりも強いとーー。





「ガラルの仇はここで絶対に討ち取る」



ラナは覚悟を決める。



身体の事などは後に考える。


そうじゃなきゃ今はもうーー。





ラナは、残った左腕をシリウスへと掲げる。

  



シリウスとソーマは近距離での熾烈な接近戦を繰り広げていた。




「魔法使いに純戦士が打ち負けるとはな」


「黙れ! この人でなしがっ!!」



ソーマの斬撃を容易く交わして、横から見慣れない魔法をソーマに撃ち込んでいく。



近距離戦では魔王ですら、凌駕するあのソーマが劣勢に陥っている。




ラナの腕の中には、眩く光る球体が形成されていく。




法則崩しの榴弾セア・ウ・バージェス




それが、凄まじい勢いで射出される。



それはシリウスの腹部の辺りを捉えていた。




「まためんどうなっ」




その球体は、シリウスが咄嗟に展開した防御結界は容易く突き破る。



それがシリウスに当たる直前に大爆発を起こした。



「くっ!?」



ソーマはその大爆発を、バックステップで間一髪で回避する。



あたりの窓ガラスの全てが衝撃で割れ、床にはクレーターが形成されていた。




だが、その中心部には五体満足のシリウスが立っていた。



「あの結界を突き破るのは驚異的だが、火力が足りない。我は殺せんぞ」


「化......もの」



今の魔法は、魔王にもある程度のダメージを与えた。


それどころかワイバーンやトロール程度なら消し炭にできる火力があるはずだ。




それなのに、シリウスにはかすり傷程度しかダメージを与えられていない。





「いまだ、やれ!!」




シリウスとソーマの間に少し距離ができたのを把握したその時。



ファビの召喚した魔獣達が一斉に襲いかかる。





「スキル共有の呪いーー魂喰らいソウルイート




しかし、シリウスの禍々しい霧に飲まれていき、魔獣達はバタバタと倒れる。



だが、一体の魔獣だけは倒れていなかった。




「ほう......80レベル相当と言ったところか」



その魔獣は所謂キマイラと呼ぶ物で、幾つもの動物が組み合わさった姿をしている。



明らかに他の魔獣よりも一回り大きかった。




「うあおおおぉ!!」




魔獣は雄叫びを上げて襲いかかる。





石柱ロック・アルク



だが、シリウスの召喚した石の突起物に腹部を突き破られ、絶命する。





「70レベル相当ってとこか......」




驚異にはならないが面倒だ。




炎槍ファイアーランス




シリウスは炎の槍をファビに向けて投擲する。



それは凄まじい速度で吹き飛んでいく。



「くそっ!!」




ソーマがそれを防ごうと咄嗟に動いたが、間に合わなかった。




炎の槍は、ファビの頭を見事に吹き飛ばした。




「お前ぇ、くそがあぁぁぁ!!」




激昂したソーマがこちらに襲いかかってくる。



転移テレポート



シリウスは転移魔法を発動させ、リーノの前に出現する。



不可逆呪剣フランベルジュ



漆黒のオーラで形成された波打った剣が出現する。



「嘘っ!?」


「回復役を潰すのは常套っ」



その剣で、リーノの首を斬り落とす。




「何......をっ」




その光景を見ていたソーマは、言葉を失った。



最愛の人を、妻を、共に冒険してきた仲間を容易く殺された。



ソーマの中で何かが崩れ去った。




「この悪魔っ!!」




ラナが魔法を放とうとする。




石弾ロック・バレット




だがそれよりもシリウスの魔法発動の方が早かった。



幾つもの鋭利な石弾が放たれていく。




ラナの右目、腹部、足を石弾が貫いていく。




「うぐっ!?」



ラナはその場に倒れ伏せる。




「やっと二人きりになれたな、勇者っ」




シリウスは辺りを見渡して、ソーマに邪悪な笑みを浮かべた。

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