前哨戦ー2



シリウスは焦土メギド発動後、サリスに命令を下す。




「サリスには中庭を頼むーー我は大広間にいる勇者を仕留める」



「わかりました。では、私はひと足先に」




サリスはそういうと、一気に降下して王宮の中庭に降り立った。




サリスは、腐ってもレベル88。



この世界では最高峰の戦力。




サリスを倒しうる危険性としては勇者だけーー。




その始末はシリウスの仕事だ。




暫くの間高揚する自身を深呼吸で落ち着かせる。




シリウスはそのまま、飛行魔法を解除して頭から王宮に落下していく。




大広間の天井をぶち破って、体を一回転させ足から着地した。




その衝撃で、足元にいた数人の人間が細切れになって生き絶えていた。




辺りには静寂と動揺が広がる。




「何者だ、捕らえよ! 衛兵!!」




一人の貴族の男が、声を荒げる。



シリウスが軽く腕を上げると、その男は木っ端微塵に粉砕する。



宙に赤い飛沫だけが舞っていた。



「何者!?」


「この元凶か?」




シリウスの周りをラナ、ガラル、ファビが取り囲む。


シリウスは風格からしてこの三人が勇者パーティーだと察する。



心眼を発動すると、三人のレベルは。



ラナ、77レベル ガラル、70レベル ファビ、67レベルとなっている。



確かに強い。


この世界なら最強格と言って良い。



だが。



シリウスの敵ではない。




シリウスは他にらしい人材がいないから探す。



リーノのレベル81 恐らくこれも勇者パーティーの一人だろう。




そしてーー。



やけに顔色の悪い男がこちらを見つめている。



勇者ソーマだ。




「シリウス......な、なんで!?」



まさか、最悪のパターンが真実となってしまった。



なぜ自分以外のプレイヤーが転生してきているのだ。



転生してきた事実はいいとして、シリウスはこれをリアルな世界だと実感していない可能性がある。


いや、これがゲームではないリアルだと対話で理解してくれないと困る。




「シ、シリウス!!」




ソーマが叫びと同時に、シリウスは彼に対して心眼を発動した。




ソーマ レベル100。




「100レベル? それに私の名前を呼んだ?」



シリウスは念の為心眼を使って、職業を解析する。



どうやら100レベルの純戦士らしい。



それに自分の名前を叫んでいたーー。



もしかして。





「あの女、ソーマの知り合い?」



ラナが問いかけてくる。




「ああ、俺の元住んでいた世界にいた戦闘狂だ」



ソーマと同郷の存在ーーそれだけで目の前の女がどれだけ強者かを察する。



「勝てるの?」


「勝ってみせるーー」




ソーマはそうとだけ言い残し、シリウスの前まで出る。




「ここはゲームの世界じゃない、本当にみんな生きている現実なんだ......頼むから人殺しはするな」



その発言を聞いたシリウスが、にんまりとした笑みを浮かべる。




「大前提、我は人殺しをしたいのではない......厄災になりたいのだ。この世界は紛れもない現実ーーもう虚像の世界で紛らわす必要もない」




この言葉の意味。



実質的な宣戦布告。



堂々と回りくどく、人殺しをすると宣言した。




「やはり、話が通じないサイコ野郎かよ!」


「野郎ではなかろうて」




ソーマとシリウスは相対する。




ソーマの目に映る少女はあまりにも綺麗だった。



どれほどをキャラクリに費やしたのだろうか。


これほどの美形、相当時間をかけなければできないだろう。



「この子をお願い、遠くに逃げて」



リーノは近くにいたメイドに子供を預ける。



「わ、わかりました!」



メイドは子供を受け取ると、そのまま大広間の外に走り出した。



リーノはソーマの横に並ぶ。



「リーノ、お前あの子と一緒に逃げろ!」



リーノは首を横に張った。



「このパーティーのまともな回復担当は誰だと思ってるの? 私がいなければ今頃魔王に殺されてたでしょ」



確かにリーノの言う通りだ。


このパーティーの回復役は、彼女しかいないだろう。




「二人で生き残って、あの子と一緒にこれからも生きていくーーそれだけでしょ?」


「......っそうだよ、そうだよな!」



そう言われれば、リーノを追い返す気になどなれなかった。




辺りの人々が身の危険を感じて、殆どが大広間からはけていった頃。




勇者パーティーは、シリウスと相対する正面に立っていた。



各々が、念の為に持ち込んでいた武器を手に取っている。




「来ないのか?」



シリウスは小首を傾げる。




「ふんっ、なら俺がっ」




シリウスの発言に、ガラルが反応する。



壁に立てかけておいた、大剣を手に取るとそれを思いっきり振りかざす。



「くんっ!!」



シリウスを切った。



そう思ったのだが、大剣はそのまま地面に突き刺さり、巨大な亀裂が床を引き裂いていた。




「いない?」




先程までいたはずのシリウスの姿がない。




「動きが読みやすい!まぁ、人間でこの怪力は評価に値するが」




背後から聞こえた声を頼りに背後を振り向くとそこにはシリウスが立っていた。



「なっ」



シリウスが、ガラルの背中に軽く触れる。


それと同時に彼の身体に、横方面に凄まじい衝撃が走った。



ガラルは、広間の柱もろとも破壊しながら吹き飛んでいく。




「くそっ!!」




間髪入れず、ソーマの斬撃が降り注いでくる。



その踏み込みは、シリウスでも完全に目で追えなかった。



(早いっ、さすが100レベルの戦士......)



神盾イージス



シリウスは咄嗟に結界を展開する。



神盾イージスは防御系魔法の最上位に位置している。



大抵の魔法と、生半可な斬撃の全てを無効化できる。




だがーー





その結界は、ソーマの剣により破られる。



純粋な戦士ーーそれも一切のスキルと魔法を使えない代わりに、パワーを一点に極めるキャラ構成。



最上位の防御魔法も容易く蹴散らしてしまう。




「っ!?」




ソーマの剣が、シリウスの腹部に突き刺さる。




それと同時に凄まじい激痛が走った。




聖槍ホーリーランス!」




シリウスから放たれた光の槍を、ソーマは咄嗟に噛んで受け止める。




だが、その衝撃は凄まじく光の槍が弾け飛ぶと同時に後方に大きくのけぞった。




回復ヒール




その隙に回復魔法で咄嗟に傷を塞ぐ。




(痛いっ、やっぱりゲームじゃない......本当に笑えないくらい痛い)




だが。



なぜだろう。




口のにやけがとまらない。




そうだ。



きっとこの感覚をずっと求めていたのだ。



命を奪い合うこの感覚。




ずっと、ずっとーーきっとそれの代償行動がアンノウンワールドでのPKだったんだ。




シリウスーーもとい芹は自身の本質を理解していく。




吹き飛ばされたソーマは体勢を立て直す。




(シリウスの圧倒的強さは、援護する使徒たちがいたからだ。今のやつにはそれがいない......正気はある!)




シリウスは純粋な魔法使いだ。



純戦士の自分とは対極の存在と言える。



しかし、シリウスは魔法使い特有の欠点をNPCの援護で補っていた。




それがない今なら、パワーと数でゴリ押せば倒せるはずだ。





「うおおおぉ!!」



その時だ、シリウスの背後から大剣が振り下ろされる。



シリウスはそれを華麗に避ける。




そこにいたのは、血塗れのガラルだった。




「死んでいなかったかーーたかだか70レベルが、随分と頑強だな」



「何をわからぬことを!!」




ガラルは大剣を再び振り下ろしてくる。



シリウスはそれを「神盾イージス」で防いだ。




深淵の剛腕アビスハンド



シリウスの周囲に、胴体程ある黒いオーラを放つ腕が何本も出現する。




「握り殺せ」




そう命令を下すと、ガラルを潰そうと一斉に襲いかかった。




「うおおらあぁ!!」



ガラルは剛腕を振り払おうと、大剣を振り回すが、剛腕はするりとすり抜けて身体中に巻き付く。




「まずい......火炎イア・シュルハ!」




ラナの腕から、炎の塊がシリウスに向かって放たれる。



ラナが使うのはこの世界オリジナルの魔法だ。



「この世界の魔法か、ならばっ!」




シリウスは、ラナに向かって手を掲げる。




獄炎ヘルフレイム




真っ赤な炎がレーザー状に放たれる。



それとラナの放った火炎球は空中でぶつかり合った。




結果はラナの火炎球は、容易く粉砕されそのまま獄炎ヘルフレイムはラナに一直線に向かっていく。


   


「防炎、耐火、生命上昇、痛覚鈍化っ!」



それを避けきれないことを悟ったラナは咄嗟に、自身に付与魔法を唱える。




「うぐっっ!?」



熱線がラナの左肩に直撃する。



肩から下の腕全てが吹き飛ぶ。



それと同時に、ラナの身体中に燃え移る。




放水ヴェンタ!」



ラナは咄嗟に、魔法を唱えて上から水を降らした。



「くそっ、が!!」



ガラルは、無数の腕に握りつぶされて血飛沫をあげる。



ぴくりとも動かなくなり、シリウスは彼の死を確信した。





「お前、よくもおぉ!!」




激昂したソーマが突っ込んでくる。





神盾イージス




シリウスは咄嗟に防御結果を展開するが、それを容易く破壊して、突っ込んでくる。




だが、勢いはある程度殺せた。




獄炎ヘルフレイム




ソーマを熱線が襲う。



咄嗟にそれを剣で受け止めたが、後方に激しく吹っ飛ばされる。



剣に弾き飛ばされた熱線は、空中に反射する。




天井に綺麗な焼け落ちた穴が形成された。





「お前、ガラルの代償は高くつくぞ!」




ソーマはそう言って、再び剣を構えて戦闘体制に入る。



流石は100レベルの戦士だ。


 

この程度の攻撃では、仕留められない。



「代償とやらは払わせられるのか?」




シリウスはにんまりとした笑みを浮かべる。

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