前哨戦

   



時を遡ること2年、シリウスーーもとい芹がこの世界に転生してきた時の出来事だ。




この大陸の最北にある人間の国。



その中でも精霊神信仰が強い、神聖リユニオン帝国の魔法都市ランティア。




1000年もの歴史を持つこの古都の上空には、12の巨大な魔法陣が浮かんでいる。



これは、"刻針"と呼ばれる起源不明の魔法陣だ。




この時計風の魔法陣は、この世界で最も強い猛者を紋章が強さ順に自動で表示されると言うものだ。

 


時計の数字のように、頂点を第一位として右回りで強さ順に並んでいる。




強い順に上から、以下の"並びとなっていた"。




Ⅰ大剣聖 ミリアドの紋章


Ⅱ龍帝 ケサミの紋章


Ⅲ 魔王軍の副将 ムファレーザの紋章


Ⅳ 正体不明の紋章


Ⅴ 不滅の魔女 ヴァリスの紋章


Ⅵ 殲滅王 リヴァイアの紋章


Ⅶ 魔王を倒せし勇者 ソーマの紋章


Ⅷ とあるエルフの紋章


Ⅸ 黒曜龍の紋章


Ⅹ 髭老龍の紋章


Ⅺ 新魔王 フレイアの紋章


Ⅻ 正体不明の紋章






これが、この世界で最も強い強者達だ。



かつてはこの第一位に魔王 スカラヴェラが君臨していた。



しかし、勇者に撃破されたことにより、時計は崩れ並びが変わった。



その結果として、第一位の座を大剣聖に譲った。





だが、その日だった。




突如として、第一位にあるべきミリアドの紋章がなくなっていた。



新しく第一位の座にあったのは、見覚えのない紋章ーー。




魔法学者によれば、紋章には"転生" "神格" "悪性"を現す三つの要素が確認できたとのことだ。




異世界より邪神が召喚されたのではないかと言う説も飛び交っていた。





中には、千年前に異界より召喚されたという"白雪の邪神" なのではと言う声もあった。





この懸念は瞬く間に大陸中に広がった。


 


そして二年後のあの日ーーその不安の種は炸裂したのだった。










✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎








スラン王国 王都 スラリア




異世界より呼ばれた勇者 ソーマの出発のこの地で、戦勝祭が毎年行われていた。




王宮の大広間では、貴族や他国の高官、王族や魔王軍討伐への功績者、そして勇者一行の姿があった。



豪勢な食事が並べられ、合奏団によるゆったりとした音楽が広間中に響き渡っている。



仮初ながらも魔王の脅威が去って、明るい未来が訪れたーーそれを祝う式典だ。




「一年ぶりだね、ソーマ」



大魔法使いーーラナは、人の波を掻き分けてある二人の人物に声をかけた。


彼女は、三年に勇者と共に魔王を撃破した勇者パーティーの一人だ。




「あら、ラナ久しぶりね」


「本当に久しいな、たまには家に遊びにきてくれればよかったのに」



それに答えた二人は、勇者ソーマと聖者リーノだ。



リーノという女は、腕の中に小さな赤子を抱きしめていた。



「子供生まれてなんだ......めでたいね」


「そうよ、マイルって言うのよ」



ラナはソーマとリーノの子供を近くでまじまじと見つめる。



「ソーマに似てない......」


「失礼だな、ちゃんと二人の子供だよ!」



ソーマはラナの肩を優しく叩いた。



「でも、ラナも元気そうで良かったよ」


「まぁ魔王討伐の功績で宮廷魔術師筆頭の座を貰ったし、楽させて貰っているよ」



ラナは間違いなく、王国最高の魔術師だ。その役職に誰も文句はない。



多少サボりぐせが酷いが。




「ソーマは今は冒険者してるんだっけ? 働かなくなって報奨金で生きてからでしょ」


「でも困ってる人助けたいって言うか、自分にできることをしたいんだ、せっかく人よりも強いんだからやれることやらないとな」



「本当にお人よしよね」と言ってリーノはつぶやいた。



「にしても、リーノは性格丸くなったよね 昔は口調がもうちょっと荒々しかった気が......」


「子供できたからかしらね」


「昔は、この"三下が殺してやるわ" "死にたいの? 何へましてるの?" "馬鹿くさいからやめなさい"とか言われたし」


「それは貴方が面倒ごと起こすからよ」


「面目ない......」



ラナは頭を下げる。





その時だ。




「ソーマ達、ここにいたんか」


「探しましたよ」




背後から二人の男が声をかけてくる。



筋骨隆々の大男ーーガラル。


召喚術師のファビ。





彼ら含めた5人が勇者パーティーだった。





ガラルは、ソーマと共に冒険者をやっている。


ファビは世界各地を旅していると言う。




今は子育てでリーノが離脱しているが、そのうちソーマとガラルの冒険者パーティーに合流するだろう。



(懐かしいな......)



このメンバーが揃うのも久しぶりだ。




「ラナとファビは久しぶりだな、お前だけだぞ、顔をあんまり合わせんのは」



そうガラルが声をかけてくる。



「仕事柄宮廷からあんまり出られないだよ......」


「まぁ仕方ありませんねーー私は世界中回ってますしね」


「んなこと言ってないで、もっと顔を合わしてくれよ、寂しいぜ」



このガラルという大男は、見かけによらず寂しがり屋だ。






「にしても、刻針の序列一位に謎の紋章が現れたってしってるか?」


「勿論、有名な話だしな」



これが表しているのは、この世界に何か強大な存在が現れたという事実だ。


今のところ動きはないが、警戒は必須だろう。

  



「大剣聖ミリアド以上の強者か......」





ソーマは元々アンノウンワールドのプレイヤーだった。






車に轢かれて、気づけばゲームのキャラとして転生していた。



そこまでガチ勢でもなかったが、一応は100レベルの大台に乗った純戦士職だ。




その中でも明確に自分よりも圧倒的な格上だと思った相手は二人。



魔王と大剣聖だけだ。




その時だ、辺りを炸裂音が襲う。



恐らく外からだ。




ソーマは咄嗟に窓から外を見る。




一見何も見えないが、目を凝らしてみると街全体を黒い炎が包み込んでいた。





「これは......なん、だ? 王都中を覆っているのか」


「黒い炎......まるで地獄の」



周りの人間は唖然として、その光景を見ていた。




ソーマはふと一つ心当たりを思い出す。




アンノウンワールドの"戦略級魔法"



焦土メギド




わずか10人のプレイヤーしか使えないという激レア魔法だ。



その効果は地獄の炎で、一つの都市全体を対象に包み込んでしまうというものだ。



この光景はそれにそっくりだ、というよりかはもはやそれしかない。




「この世界にアンノウンワールドの魔法を使えるやつなんていない......」



この世界にはアンノウンワールド関係の魔法やアイテムは存在していない。


むしろ自分という存在がイレギュラーすぎる。




その時、ソーマの脳内に最悪の考えが浮かぶ。



この焦土メギドを愛用していたプレイヤーが一人いる。




プレイヤーとNPCを殺し回ることを生き甲斐としていたあの超有名害悪プレイヤー。



圧倒的プレイスキルで、何人ものプレイヤーを同時に撃破し、戦況の不利を見極めて撤退する潔さを持ち合わせていたあのーー。





シリウス。




彼女を倒すためだけのクランも結成されていたほどだ。



もしゲームでの精神性で、この世界に来ていたとしたら。




考えるだけで悪寒が走る。





「申し上げます!」




その時だ。



一人の衛兵が扉を開けて広間にやってくる。



相当焦った様子で、息も絶え絶えだ。




「中庭に侵入者が現れました!!」


「数は?」



ソーマは冷静に問いかけた。




「侵入者は......一人です」





一人。




あのシリウスもソロプレイヤーのフレンドなしという変人だった。



仲間と冒険をして、世界を思うままに遊び尽くす。



この運営のコンセプトを真っ向から否定するようなあの女。




ソーマは嫌な想像が頭から離れなかった。

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