新世界ー2
シリウスは盗賊達のアジトになっている洞窟の前まで訪れていた。
洞窟の前には二人の見張りがいる。
シリウスは堂々と前へと出る。
折角だ。
アンノウンワールドのスキルや魔法をどれだけ使えるのか試してみよう。
「あ? 誰だお前っ?」
盗賊の一人が此方に気付いたようだ。
「
シリウスが手を掲げると、魔法陣がその正面に展開する。
そこからドス黒い霧が姿を現し、見張りの一人を包み込んだ。
「あっ......」
黒霧により身体を蹂躙され、魂が抜け落ちかのように倒れて絶命する。
「て、敵襲っーー!?」
もう一人の見張りが、声を荒げながら洞窟の中へと逃げようとする。
「
しかし、シリウスの唱えた呪文により足元に出現した暗闇の中に吸い込んで消える。
「やっぱりゲームと同じ魔法が使える......」
恐らくだが、ステータスもシリウスなものと同じになっているだろう。
シリウスは魔法と召喚術特化で、物理攻撃や防御力はてんでだめだ。
シリウスはスキル 心眼を発動する。
このスキルは、相手のレベルなどを看破できる。
倒れ込んでいる盗賊のレベルを確認すると、レベル6だとわかる。
この程度しかいないならば、物理面が弱かろうがなんとかなる。
なんせシリウスのレベルは、110。
レベル上限の100から、課金により上限越えの110まで育て上げたのだ。
シリウスは、洞窟の中へと歩みを進める。
途中何度も盗賊達が襲いかかってきたが、シリウスの魔法で一撃で殺害してしまった。
レベルはやはり、どんなに高く見積もっても10以下。
正直話にもならない。
盗賊を何人殺した頃だろうか、気づけば最奥まで辿り着いていた。
中にはテーブルや蝋燭、棚などの家具が置かれており、洞窟の中とは思えないほど快適そうだ。
「な、何者だ、お前えぇ!!」
部屋の奥には、盗賊の頭目らしき男がいた。
それを取り囲むように数人の盗賊達がいる。
ここ以外の盗賊達は、皆殺しにした。
恐らく彼らが最後だろう。
「目的は金か!? いくらでもくれてやる、頼むから見逃してくれ!!」
巨漢から放たれたとは思えないような情けないセリフだ。
「我はそんなものに興味はない、ただの戯れだ」
本当は金目のものに興味あるけどね。
シリウスは心眼で一応頭目のレベルを確認する。
伝わってきた情報は、頭目の男のレベルは13。
他よりほんのり強い、そうほんのり。
「暇つぶし感覚で人を殺すのか!? この得体のしれないクソアマが!!」
頭目の男はそう吠える。
「お前は虫を潰すときに、何か思うことはあるか? 我の前では虫も人もそう変わらなぬ」
「くっ......」
シリウスが前に一歩進むと、頭目達は洞窟の隅に追いやられていく。
「や、やれ!」
頭目が叫ぶと、クロスボウを持っていた男が矢を放った。
シリウスに矢が直撃する。
しかしーー。
その矢は、シリウスを傷つけることなく反射して、放ってきた男の頭に矢が突き刺さった。
これはシリウスのパッシブスキル オールカウンターだ。
レベル30以下の存在からの魔法、物理、飛び道具による攻撃のオート反射ができ、レベル50以下においては、攻撃の完全中和が可能になっている。
「な、何が起こった!?」
「いま、あの女に矢を放ったはずだぞ!?」
盗賊達の間にどよめきが走る。
シリウスはその光景に少しの高揚感を覚える。
そのまま、スキル "共有の呪い"を発動する。
このスキルは半径100メートル内にいる任意の存在に、魔法によるデバフが全体攻撃化すると言うものだ。
「
そして今シリウスが与えるデバフは、"死"だ。
男達は黒い霧に全身を包まれて、その場に倒れ伏せる。
しかし、レベル差が50以上の開きがあれば確定で殺害ができる。
つまりシリウスにとって、レベル60以下はこの魔法で瞬殺できてしまう。
「さてと」
盗賊達を殲滅し終えたシリウスは辺りを見渡す。
折角だ金目のものでも貰っておくとしよう。
「
シリウスが召喚魔法を唱えると、数台の小さな悪魔が姿を現す。
「目星しいものがないか探れ」
そう命令すると、悪魔達は洞窟中に散っていく。
彼らは、テーブルや木箱、樽などを片っ端からひっくり返していく。
ある木箱をひっくり返したとき、ジャラジャラと銅貨や銀貨がこぼれ落ちた。
「やっぱりあった......」
シリウスは悪魔達が運んでくる貨幣を、掌に浮かべた漆黒の穴へと収納していく。
これは、収納魔法の
この魔法は無制限にアイテムを保管することができるなかなかに優秀な魔法である。
そのときだ。
一体の悪魔が大きな樽をひっくり返した。
樽の蓋が外れると、中から人の死体が出てくる。
損壊具合が酷く男が女かすらもわからない。
「うわっ」
恐らくだが、盗賊達が殺した人間を樽に詰めて処理していたものだと思われる。
悪魔達はお構いなしに樽を次々に倒していく。中に入っていた人間が、何人も顔を覗かせる。
「そんなものひっくり返さなくていいからっ」
だが、悪魔達はお構いなしに樽をひっくり返していく。
そのときだ。
ある樽の中から随分と状態の良さそうな人間が、樽の中から転げ出てくる。
青と緑のオッドアイの瞳を持つ、黒髪の少女だ。
年齢は15歳前後だろうか。
随分と嬲られたのだろうか、身体中には酷い傷が見受けられる。
あざと出血もひどい。
「あっ......あ」
まだ息はあるようだ。
虫の息だが。
シリウスは少女に、近寄る。
彼女も鬼ではない、気まぐれで助けてやってもいい。
「
シリウスは少女を抱き上げる。
回復魔法を唱えると、彼女の傷はみるみると回復していく。
身体中の痛みがみるみると緩和され、少女は驚いたような表情を浮かべている。
「......名前は?」
シリウスが問うと、少女ゆっくりと答えた。
「サリスーー」
そうとだけ、答える。
「綺麗......神っ、さまっ?」
サリスと名乗った少女は此方をじっと見つめてくる。
その問いに、少しばかりシリウスは笑みを浮かべた。
実際のところ、シリウスの種族クラスは"半神"だ。
サリスの言うことは、外れてはいないのだ。
"人間"から、期間限定の高難度クエストで手に入る"進化の秘宝"というアイテムを使って、"半神"にクラスアップしたのだ。
本来は、種族クラス"純神"にしてもよかったのだが。
総合的に神格系種族はデメリットが多く、その観点から、ある程度神格系の恩恵を受けられ、デメリットが少ない"半神"を選択したのだ。
「神かーーまぁ堕天だが」
折角だ。
実験を兼ねてにこの子を、使徒にしてみよう。
アンノウンワールドでは、神格系の種族クラスの特徴として、専用の高レベルのNPCを配下にすることができる。
そのような味方NPCは、総じて"使徒"と呼ばれている。
当然、"半神"であるシリウスも"使徒"を5体まで配下とすることができる。
使徒化したNPCは、プレイヤーへの絶対服従、肉体操作・変貌・変異系の魔法・スキルを優先的に習得、プレイヤーレベルの80パーセントを上限にした大幅レベルアップ、パッシブスキル自動HP回復、設定上の不老化。
と言った恩恵がある。
ゲーム時代のシリウスは、5体の使徒達をフルでサポートに回すことで、複数人のプレイヤーと渡り合うことを可能にしてきた。
レベルに関しては、プレイヤー本人の80パーセントーーシリウスの場合はレベル88までどんな雑魚も向上する。
流石にこのレベルでは、100レベルプレイヤーと殴り合うのはかなり厳しいが、戦闘補助では十分すぎる。
「お前が我の配下になると言うのなら、助けてやろう......死か従属か、好きな方を選べばいい」
サリスは力無くコクリと頷いた。
「死に......たくっ、ない」
確かに、微かな声だったがそう言った。
「なら良い、我の力の一片を与えてやる」
守護聖典ーーシリウスもとい芹は、使徒達の事をそう呼称していた。
シリウスを守護(援護)と、なんとなくかっこいい宗教用語ーー聖典という言葉を掛け合わせた造語だ。
なんとかなく、当時は、四天王的な最高幹部感が出ててかっこいいとおもっていた。
「新たなる守護聖典ーーお前には
五人の守護聖典には、それぞれ蒼、紅、翠、黑、皓という二つ名を与えていた。
なんかそう言った称号があった方が、かっこいいと思ったという理由だが。
「我はこの世界をまるで知らない」
アンノウンワールドの延長線の世界なのかーー。
あるいは全く別の世界なのか。
「暫くは我と一緒に世界を回って貰うぞ」
悪役ムーブ以前にこの世界を回って見てみるのも悪くはないだろう。
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