第10話 不機嫌の理由

彼が俺の意思を無視して一歩きするのにはすぐに慣れたが、奴が鏡を見るたびに俺とカミさんの会話の断片を聞かれるのには未だ慣れない。と、言ってもまだ二日ほどなのだが。


「貴様、まだ私の中に居座る気か。」

『と、言われましても。出て行く方法とか知らないし。』


 深いため息をつく彼だが、機嫌が悪いのは決して、俺が揶揄ったためではない。どうやら王の都合がついたため、今日のうちに学園の話を持って行くつもりなのだ。


『あ、そうだ。どうせならグランツもつけて貰えば?護衛として。』

「は?・・・彼は一介の下級騎士だが。一応騎士団長の厚意で、王族付きのような感じにはなっているにしても。」

『だとしても他の専属騎士が付いてないなら問題ないだろ、よく知らんけど。それに学園なんて言ったら監視の目も少ないだろうし、キャッキャウフフしてても大丈夫・・・って、鏡割るなよ!』

「うるさい!!」


この人、結構めんどくさいんだよな。顔は真っ赤だし怒っているのはそうなんだろうが、多分・・・多分だが、もしかしたら、恥ずかしいのも僅かばかり入っているんだろう・・・多分。


『オスカー君さあ、たまには素直になるといいよ。』

「貴様は悪魔か何かなのか?」

『いや、元々人間だし。』

「なら大人しくしていろ!」

『へいへい。』


メイドさんに服を着せてもらうとさらに美丈夫になるオスカー様は、周囲に謎の光をばら撒いているのではと思うほどキラキラしいわけだが、ご本人は大体この調子である。

 そうして鏡との対談を終えた今現在、王の間へと向かっているのだが、その道が果てしなく感じるほど、その足取りは重い。

『なあカミさん、なんでオスカーは王様に嫌われてんの?』

『どうだったでしょう・・・母親であるリース姫が不義の子だと罵り、散々虐待されていたからだったか、王様が愛していた幼女の目を奪ってしまったからだったか・・・』

『うわ、両親最低じゃん。なんで天罰とか下さないの?』

カミさんはなぜそんなことを聞くのかという顔をした後で、ポンと手を叩いた。

『そりゃあなた、神が直接手を下せることはだいぶ少ないからですよ。無論、人の生き死にには関われますが、災害級の事例に対処できるほどの人物に育てるといった過干渉は不可能なのです。つまり、オスカーの場合はこの世界でも強者になってもらうため、早い段階から試練を与えることにしたというわけです。そのためには、優しい両親よりはクズでゲスな輩の方が相応しいでしょう。』

 今、改めて思う。神様なんて神種には、関わりたくもないと。

『仕方ないじゃないですかぁ。人間、甘やかすと碌なことしないので。水が低きに流れて行くように、人の思考もこちらが刺激を与えてやらなければ、どこまでも堕落していきますから。』

『まあ、確かにそうなんだろうけどさ。』

それにしたって、オスカーは可哀想すぎるな。ま、大親友様がいらっしゃるからいいようなものだが。

 

 のろのろと歩いていても到着してしまった場所に、再び大きなため息をついたオスカーは、軽く眉間をおさえた後に、扉を守る騎士によって開かれた巨大な扉から、中に入って行った。

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