第11話 謁見
その男は、愚王の塊のような風体をしていた。でっぷりと肥え太り、玉座に座ると足がつかないほどの体型なのはまだいいとしても、その傍らには五人ほどの美女が侍っていて、手には酒らしき朱色の飲み物が握られている。
「オスカー・レーティスが国王陛下にご挨拶いたします。」
『あれ?王様って、つまりオスカーの父親なんだよな?』
『ええ、まあ・・・ちなみに他の王子たちは皆、謁見の際の挨拶は省かれることも多いですし、跪いたりもしません。そもそもオスカーは普段、王子を名乗ることすら禁じられておりまして、そのためほとんど家族と食事をしたことすらないはずですよ。普通、ちょっとした頼み事ならば、食事の席を借りる方が一般的なのですが。』
なんてひどい扱いだよ。それでは、ここに来るのに気が重かったのも頷ける。
しかし今現在は、未だに起立を許されていないため床しか見えない訳で、そこにはしっかりと、オスカーの顔が映っていた。
『磨き上げられた床はサイコーだな、すごい滑りそうだけど。あんた、何回かは転んでいそうだよな。』
聞こえている証拠に軽く眉間に皺が寄ったが、しかし今は反論もしてこないしできないしで、ちょっと面白くないな。
それでもしばらく話しかけていると、漸く王が言葉を発した。
「この出来損ないが、いつからそこに居たのかねえ。」
「つい今し方です。」
「誰が発言を許した!?」
横の床に、グラスが割れて酒が撒き散らされ、オスカーは再び床を見つめる。
『災難だなあ、そんな親で。カミさん曰く、お前を強くするためらしいけど。』
その時、ほんの微かに笑った気がしたが、その直後に真っ青に変わる。王が、散らかった酒を這いつくばって舐めろとか言い出したからだ。この気位の高い男が、そんなことできるはずがない・・・ない、のに、身を震わせながらその命令に従おうとしているのはなぜだ。
『ふざけんじゃねえよ!なんで、別に悪いことした訳でもないのにそんなことしなきゃならないんだよ!!』
俺は勢いよくガラスのかけらを蹴飛ばした後、ハッとした。床を蹴る足の感覚が、凍てつくような空気感が、確かに頭に知覚されている。血が体を巡るように、体全体を流れる力の源泉が、自分の体と同じように・・・むしろ、それ以上に、手に取るようにわかった。これは、絶好の機会らしい。俺は忍耐って言葉が1番嫌いなんだ。
「国王陛下、流石にこの仕打ちはないでしょう。」
「頭が高いぞ、近衛、早くそいつを押さえつけ・・・」
「今、ここで選択しなさい。私の学園入学及び婚約破棄を承認するか、その周りの女ごとこの空間を闇に葬り去るか。どうしますか?」
俺がサッと手を挙げると、面白いくらいに近衛は近づいてこなくなり、王のそばの女たちは玉座の後ろの方へと隠れた。我ながらかなりえげつない顔をしている自信があったのだがその効き目も周囲止まりで、とうの王様にはどうやら大した効果はなく、相変わらず舐め腐って短い足をバタバタさせている。全く、面白くないやつだ。そんな奴には、カミさんから教わった中でもとっておきの、俺の初魔法の餌食になってもらうとしよう。
「この世の深き闇を司りし闇の王、その全てを無に帰す破壊の使徒よ、数多の悪徳を孕みしかのものどもを・・・」
詠唱が進むにつれ、右手に凄まじいナニカが凝縮され、光も空気も何もない空間が出来上がって行くとともに、その周囲の空間が歪み、熱を帯びていくような感じがした。これを放ったら面白そうだなとニヤリと笑った時、ようやく王様が慌て始め、玉座から転げ落ちた。
「待て!待て、待つのだ!!婚約も破棄してやる、学園も好きにしていい!だからその物騒なものをどうにかしろ!!」
「なら、これから先未来永劫、私の結婚、婚約についての口出しは無用だ。どこぞの令嬢と婚姻を結びたくばお前自信が結ぶがいい。」
しかし、この暗黒物質ちゃんはどうしようか。発動そのものを寸止めしても、霧散する気配がないのだが。
まあ、いっか。全部オスカーがやったことになる訳だし。
俺は極上の笑顔を向けた後、暗黒物質ちゃんを側面の壁に向けて放った。予想以上の威力・・・豪華そうな壁をいくつか消し飛ばしてしまったことに内心あせりつつも、華麗に玉座の間を後にしたのだった。
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