第8話 カミさんの目的

 城の中、と言ってもメインの建物ではないようだったが、それでも俺の予想を裏切らずめちゃくちゃ装飾過多だった訳だが、そこを歩いていても・・・しかも体に合わない、少し粗末な上着を着ていても、どうやらオスカーは非常に目立つ上装飾に負けるといったことはないらしい。

『やっぱり王子様なんだな・・・』

しみじみとそんなふうに思っているうちにも、グランツと別れ一人になった。

『見事に、表情筋が死滅しましたね。』

『なんか、ちょっとゾッとしたわ。オスカーって普段こうなのか?』

『そうですね、お付きのメイドさんも、笑ったところは見たことがないのでは?』

つまり、あんなに表情豊かなのはグランツの前だけってことか。これが女の子だったら、超可愛いな。いずれにせよ、俺にはまったく関係ない話だが。

 そのまま部屋に戻ったオスカーはさらっとメイドさんを退出させると、重いため息をつき、着てきたグランツの服を抱きしめた。

『・・・・・なあ、カミさん。まさか恋路の邪魔をしろっていうんじゃないよな?』

『まさかまさか、そんな鬼畜なことは言いませんよぅ。彼にとってグランツがなくてはならない存在であることは承知していますしね。私のお願いとしては、彼に魔法文を使わせるか、もしくはその時だけでもあなたに代行して欲しい、ということなのです。』

『魔法を・・・?え、なに、魔法使えないの?』

『正確には、使いたがらないのです・・・どうやら、私の好みと合わなかったようで。』

 どんな好みかは知らんが、魔法を使えるというのは楽しそうだ。何気に魔法とか言ってたから詠唱するんだろうし、高速移動とかもできるんだろうか。

 そんな話をしている間にオスカーは、しばらく悩んだ末メイドさんからいつの間にか受け取っていたらしい自分用の上着を着込むと、大切そうにグランツの服を仕舞い込んだ。

「お、鏡でも見に行くのか?まだどんな顔してるかよく知らなかったな。」

 グランツの目に映っているのは見えたが、流石によくわからなかったからな。カミさんの話だとイケメンらしいが、どんな感じなのだろうか。


「・・・よし、とりあえず見えないな。」

『わお、確かにイケメン。』


 キラキラした絹のような長い金髪に、濃い青の瞳。冷たい感じのする、イケメンというよりはすごい美人だ。


「・・・?」


その美人が、なんだか不審そうに鏡を覗き込んでいる。


『そもそもこれで十六歳かよ・・・俺と一つしか違わないのに。』


西洋系の人は大人びて見えるというが、それにしたってちょっと大人すぎないだろうか。

 そんなことを思っていたら、彼はぎゅっと眉間に皺を寄せた。普通に怖い。


「誰だ、貴様は?」

『え、まさか自分語り?それとも演劇の練習?』

「・・・馬鹿にしているのか。おい、答えろ。」

『ま、ちょっと待って?普通に怖いよ?カミさん、これどういう状況?』


『ああ、鏡越しなら話せるようになりましたか。あはは、想像していたより早かったですねえ。』

迷惑極まりないだろう!?俺にしても、オスカーにしても。


「おい、質問に答えろ。」

『凄まないでくれよ、怖いなあ。俺は神様と名乗る不審者に異世界から飛ばされたらしい、ただの高校生だよ。ちなみに俺の方が年上なんだからな!』


さらに険しい顔になったオスカー様は非常に怖くて、聞かれてもいないのに俺はあれこれ話しまくってしまったのだった。

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