第5話 面倒な属性
奴はそれから、赤い葉をもつ木々の中を当てもなくひたすら進み続けていたのだが、俺から見ると特に目的があるようには思えない。
『なあ、こいつ何してんの?』
『逃げてますね。彼、絶賛反抗期中なんです。』
『うわ、めんどくさ。つまり家出かよ。』
しかし、どうも世なれないと言うのは本当らしく、足跡を隠そうと言う素振りもなければ、そもそも隠れやすそうな村に入ろうともしない。これでは見つかるのも時間の問題だろう。
「見つけたぞ!・・・ったく、逃げ切れると思ってねえなら逃げるなよ。」
『言わんこっちゃない。こいつ、バカなの?』
『いえ、後に大賢者になる・・・はずの逸材なのです。』
『濁すなよ。』
しかし、どうやら追っ手の男は知り合いだったらしく、振り向くまでもなく誰だかわかったらしい。
「グランツ、今回くらいは見逃せ。逃げるつもりでないなら、こんなところまで来ていない。」
「・・・いやさ、本気で逃げられると思ったのかよ?そもそもここで見逃したら俺のクビが飛ぶだろうが。さ、帰るぞ、王子様。」
「断る!誰が帰るか。」
激昂して振り向いた先にいたのは、がっしりとした体つきの大男だったが、銀髪に銀色の瞳の、なかなかのイケメンである。
『ん?待てよ、今あいつ、王子様って言ったか?それとも何かのジョーク?』
『いえ、オスカーは正真正銘王族です。第三王子ですけどね。』
『王子・・・ハイスペックイケメン王子かよ。それで悲惨な過去でも抱えてたら完璧だな。』
『え、なんでわかったんです?』
『うわあ・・・。』
そんな闇属性持ち確定な王子様だが、さらに走って逃げようとして、呆気なく捕まってしまった。掴まれた腕をなんとか振り解いて逃亡しようともがくも、側の木に押さえつけられてしまう。
「放せ!!私は隣国まで行くんだ!」
「暴れるなよオスカー、駄々をこねたってどうしようもないことくらいわかっているだろう?本気で嫌なら直談判でもしろ。今日のところは俺の兵舎に泊まらせてやるから。な?」
「・・・仕方ないな。行ってやらんこともない。」
『おい、ツンデレ属性まで完備してるの?闇属性のツンデレキャラは闇深いぞ。』
『そうなんですか?』
『ああ、俺の主観だけどな、大抵素直になれずにすれ違いにすれ違って、相手の好意にも気づかないまま闇魔法に引きずられるって言うのが定石だ。』
『あ、オスカーはそこら辺は問題ないです。魔力の扱いには非常に長けていますし、精神が侵食されるようなものは存在しませんので。』
なんだ、つまらん。ちょっとそういうの期待してたのに。
そんなこちらの落胆をよそに、二人は豪華絢爛な城のすぐ傍にある、少々趣がある木造の兵舎に辿り着いていた。
『ん?ちょっと待て。大した距離なかったよな?』
『オスカーにとってはあれでも十分な逃避行だったのですよ。』
この箱入りめ。こんな距離、家から近くのコンビニ・・・は言い過ぎか、ドラッグストアくらいまでのものだろう。おそらく、あのグランツとか言う男も、口には出さなくてもそんなふうに思っていたのではないだろうか。
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