第4話 神様?

 うっすらと、意識が覚醒するのがわかった。

それでも、闇に呑まれたように体は動かず、目を開くこともできない。これが、世に言うところの金縛りだろうか。


『お目覚めですか。いやはや、成功して何よりです。』


この声、多分さっきの変な人だな。クロちゃんは見つかったのだろうか。・・・っていうか、意識は覚醒しているから、声は聞こえるんだな。


『ええと、なんと言いますか・・・すみませんでした!!いやあ、まさか成功してしまうとは思わなかったので、ついついやらかしてしまいましたが、まあ許してください。』


・・・え?


『それにしても本当に成功するとは。これで私も安心というものです。あなたには感謝してもしきれませんね!』


なに?クロちゃんが見つかったとか、そういう話・・・ではないな!いくら普通頭脳でもそれくらいわかるぞ?

しかし、なら一体この変な人は何をしたのか、なんで謝罪したり感謝したりしているのか。疑問は尽きない。


『あ、そうそう!因みにあなたが宿ったこの体、ものすごい美男子ですから!よかったですねえ。普通に暮らせば絶対、女の子でも男の子でも、妖精も鬼も化け物もイチコロ間違いなしです!まあ、鬼も化け物も妖精もいないんですけど。』


 その時、唐突に目が開いた。どこかの物置小屋のような、埃っぽい木製の天井がみえる。そこまでは良かったのだが問題は、俺の意思と全く関係なく、体が動き出したことだ。

 無造作に布団を避け、周りを見回し、すぐそこにある、俺も袖を通したことがないような質の良さそうな服に四苦八苦しながら着替えて・・・


 足長いな!?それに色白だな!?俺は主に海とスキーで焼いてしまって、色がとれる隙もなかっただけに、かなり黒かった。


いやいや、今はそんなことはいい。つまり俺はクロちゃんの飼い主・・・否、ただの黒ずくめの不審者にしてやられた、ということだ。何をされたのか全く理解できないが。


『ふむ、会話できないのでは面白くないですね。せっかくですから、ちゃんとお話もしたいですし。』


まだ不審者が何か言っているが、その隙にも体は勝手にかっちょいい長剣を身につけ、粗末な小屋から出ようとしている。


『・・・と、いうことで、あなたの名前は今から「主人公君」とでもしましょうか。それを望んでいそうなので。』

『あのさ、それより何が起きているか説明してくれるかな。』

『おお!ちゃんと喋られましたね。この世界に適応できそうで良かったです。私は神です。どうぞよろしく!』


なんか言い出したぞ。私は神ですってさらっと言ってきたけど、この人そっち系の人だったのだろうか。

 それより俺はこの体が謎に独り歩きしているのがとても怖いんだが。


『あの、カミさん、あのさ・・・』

『なんでしょう!』

『これ、どんな状況?』


この体はあろうことか、先ほどまでいた倉庫に火を放ったのだ。燃え盛る陋屋を背に、そこから興味がなくなったようにスタスタ歩き去っていく。


『えっとですね・・・、オスカーはまあ、なんと言いますか、ちょっと箱入りでかなり放置されてしまったと言いますか、少々常識が欠落していると言いますか・・・』

『いやそれもあるけど、そうじゃなくてだな。』

『ああ、あなたの魂を奪って、この体に移したのですよ。これまで成功したことなかったんですが、なんと言いますか、万々歳です。』

『・・・つまり、世に言う転生ってやつ?』


 山口と立ち読みした、異世界なんちゃらでよく見かけた設定だ。あの世界の知識を活かしたり、チート能力を持ってたりいなかったりしてとりあえず崇め奉られるやつだ。すっごく楽しそうじゃないか?


自分もひょっとしてその一人になれるかな?とか考えちゃうくらいにはいいと思うが・・・いや、待てよ、とはいえ知識なんてそんなにないし、活かせるのってせいぜい発想力くらいか。


『え、まさか!!そんなことあるわけないじゃないですかぁ。転生だったらこの体はあなたのものですよ、その代わり前世の記憶はほとんど失われたでしょうが。転移なら平凡容姿のままですしね。つまり!あなたにとって損しかない、魂の移送、ふははははは!!』


いや、笑えないんだけど。つまりこの体は俺のものじゃなくて・・・なのに意識だけはある!と言うこと。


『・・・何、やってくれちゃってるの?』

『怖いですヨゥ、凄まないでください。神様とはいえ、今は特に力も弱いですし。凄まれれば普通に怖いです。』


こいつが話の通じないやつと言うことだけは理解し、このままただ騒いでいても仕方ないので、この体の見ているものを観察することにした。

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