第4話 コノ国ノ王
眠い。
「ふあああ…」
何で早く寝ても遅く寝ても眠いんだよ…
そう思いながら、俺はさらに眠気を誘う様に暖かい暖房が効いた電車に乗っている。
目の前にいる通勤中の大人達も眠そうで、立っているだけでも辛そうだ。
まあ俺は座ってるから寝ても問題無いんだがな!
なんせ俺が電車に乗る駅は、ほぼ路線の端っこにある。
という事で、俺は毎日座席に座る特権を握っているわけだ。
…流石にお年寄りが立ってたら譲るけど、早朝の通勤中にお年寄りなんて早々いない。
だから許せよ!俺がまるで社会常識の無い悪い奴みたいに思わないでくれ!
…以上、風露君からの言い訳でした。ハイ…。
…………
…この話やめよう!無理!空気凍ってるから!
という事で、何で俺は電車通学なのかというと、それはごく単純な話。
家の近くの学校に行っていないからだ。
なぜかと言われれば、理由は三つ。
一つ目。
中学校休んでたからめっっっちゃ地元の高校に行くのは辛い。
きっと色々面倒な事になるに決まってる。未練はない。そんな仲良い奴いなかったし。
二つ目。
中高一貫校を受験したから。
中高一貫校には高校生から入れる学校と入れない学校がある。
今回俺が受験したのは入れる方だ。
俺は勿論高校生からで、狭き門を突破した事になる。
自称闇堕ちしていた頃に学校に行かなかった為、昼間はやる事がなくてゲームかアニメかラノベか勉強か、の四択で過ごしていたので、一応高校受験対策はしていたのだ。
それを見ていた叔父さんが一つ目の理由で俺が地元の高校に行きたくないだろうと悟り、どうせ電車通学するなら頭の良い学校でも良いんじゃないか?
という提案に乗った結果である。
まあその時の俺は何もかもどうでも良かったから適当に頷いてただけだけど。
三つ目。
これを三つ目と言うのはずるいかもしれない。
二つ目の話の延長線上の事だからな。
というか、二つ目の理由で叔父さんの提案が不自然だったのを勘付いている人もいると思う。
何故わざわざ人間関係が面倒臭そうな中高一貫校を叔父さんが選んだのか。
これで一つ目の理由はある意味矛盾してしまうだろう。
そしてまた、疑問は生じる。
何故叔父さんが選んだのか。
俺の進学する、高校を。
普通はその道に進む俺自身に決めさせるはずだ。
それを踏まえた上で、叔父さんが一つの学校だけを勧めて来るのもまた不自然。
真面目でちゃんと子供の気持ちを考えてくれるような、優しいあの人なら尚更だ。
当時の闇堕ちver.風露はそんな事気にしていなかったし、考えたことも無かったのだが、入学についての紙を貰った時は流石に勘づいた。
八雲高校。
都市内部にあるにも関わらず、緑に囲まれた超名門。
外見はとても綺麗で、生徒も真面目。
周囲からの印象も抜群。苦情など以ての外だ。
毎年某偏差値日本一の学校に、百名程の合格者を送り出す。
まさに完璧。そんな学校だった。
しかし現実は違う。
少なくとも、生徒にとっては、だ。
成績。
それが各学生達の、地位としての
成績の悪い者は教師に罵倒され、酷ければ暴行に発展する。
今となっては暴行は犯罪だが、誰もそれを外に密告することはない。
その要因に挙げられるのは他でも無い、七森校長の社会的地位権利にある。
七森校長。政治家が深く関わっている宗教「一星教」の創立者。
この宗教団体の上では、彼は七森会長と呼ばれている。
また、八雲高校は「一星教」が創った学校である。
彼の創立した「一星教」はキリスト教の教えを説いているというのは表向きで、信者へ精神的誘導を施して壺や教えが書かれた教書(といっても内容は酷い物である)、DVD を高額で売り、助けを求める人間から金を搾り取って自らの懐だけを肥やそうとする創立者と在らんべき正に真反対の糞人間。
それなのに主力を持つ政党の選挙に必ず肩を持ち、信者や協力者(彼に目をつけられた哀れな者達、と言った方が良いだろうか。そいつらが好きで協力している訳じゃなさそうだしな)に投票を強制することで、その政治家の当選が約束される程の絶大な信頼を置かれ、実質的に彼自身がこの国の政治を操作している。
だからこそ、彼の独裁的な思考は教育でも変わりなく反映され、それに対して彼の圧倒的な権力に誰も抗えないという完全なる彼だけの世界になってしまっているのだ。
「一星教」は宗教団体では無く、最早利益団体と言えるだろう。
そして所詮この国は、彼の
だから、この国で彼に逆らえる者は誰もいない。
もし彼に反発する様な言動を起こせば、消されるのは確実だ。
これは信用できない情報だが、元暴力団だったという噂も有る位なのだから。
その為に彼へ法律の鉄槌が下されることは、無い。
何故俺がそんな事を知っているのかって?
簡単な事だ。
俺が調べ上げたからだ。
これを、全て一人で。
…というわけでも無いか。
勿論大変な作業ではあった。
時には裏社会の人間と関わりを持ったこともあった。
誤解して欲しく無いのだが、裏社会の人間といってもその人物は反政府派。
つまりはこのおかしい社会を俺同様に知った上で改革しようとする、倫理的に考えれば「正義」と呼ばれる存在だろう。
彼等は自ら、「義勇団」と名乗っていた。
彼らも、七森もしくは政府に真っ向に立ち向かって捕まる様な馬鹿では無いので、裏ネットワークによって情報交換と議論が展開されていた。
これにより、この国のある程度の状勢や、七森の圧倒的な支配力を知識として得る事ができたのだった。
もしかしたら
裏ネットだから、そういったものが飛び交うのも当然だろう。
しかし、俺はまるで御伽話の様な七森というこの国の「王」の様々な情報については、決して信じて疑わなかった。
「義勇団」の人達は、皆あいつに恨みを持つものばかりだった。
そんな奴等が面白半分で出鱈目を書き連ねる訳がない。
俺は「義勇団」を信じる。
俺も、その
今までの話を聞いていた人にはまだ疑問が残っているだろう。
何故俺がこんな事をしていたのか、という事だな。
何故かって?
俺は捜していたからだ。
姉の自殺がその場凌ぎの嘘であるという、その証拠を。
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