第3話 春
俺は少しずつ昔の自分を取り戻しつつあった。
精神状態が安定し、物事を正確に判断できる様になった。
何故精神科に行かなかったかと聞かれれば、答えてあげるが世の情け。
単純に叔父夫妻に診察料を払わせたくなかったからだ。
謎の少女が去っていった後、叔父に電話して謝罪した。
叔父夫妻に心配や迷惑をかけた事、そして、姉の死を、だ。
自殺してしまった姉は悪くない。
むしろ虐めていた側が死ぬべきだとさえ思う。
しかし、俺や叔父夫妻に絶望の苦い味を食らわせてしまった事に変わりはない。
苦しんだのは俺だけでは無かった。
だから姉の唯一の家族代表として、謝った。
「うちの姉が、本当に申し訳ありませんでした!」
「な、何を言っているんだい!一番苦しんだのは君だ!君が謝る必要なんて無いさ!
それより、僕は君が絶望に打ち勝ち、立ち上がった事にとても敬意を表しているよ。
中学生一人で、中々できる事じゃ無い。」
「い、いえ…。俺一人で成し遂げた訳じゃ、無いんで…」
「ん?じゃあ、誰か君の家に来たのかい?それとも、医者かカウンセラーかな?」
「い、いや、そういうんじゃ無いんです。
…あの、信じてもらえないとは思うんですが、聞いてくれますか…?」
俺は嵐の様に去っていった謎の少女の事を話した。
「う、うーん…。そ、それは不思議なことだったね。
あ!で、でも、僕は信じるよ。きっとそれは、神の使いかもしれないね…。」
叔父さんは多分、何か知っている。
叔父さん嘘つくの下手すぎだろ…と思いながら「ありがとうございます」と感謝の意を表し、
電話を切った。
元々謝罪の電話だったのに、叔父さんを気まずくさせるのは本末転倒だからだ。
…まあ、何があろうとも、思い描いた未来は変わりつつある。
少なくとも、良い方向に。
あとは俺が、行動するだけなのだ。
ふと陽射しが部屋を照らした。
既に外の気候は暖かくなっているみたいだ。
それは、冬のような寒く冷たい世界を突き破った俺を祝福しているかの様でもあった。
「中学の卒業式とか昨日だったのか…。卒業証書くらい受け取りに行きますか!」
そして、今まで動かなかった腰を上げる。
希望が見えれば、あとは簡単だ。
精一杯生きていく。
それが俺の役割であり、姉への最高のプレゼントだと思うから。
「アームストロング船長の気持ち、わかる気がする…」
そんな他愛もない独り言を発しながら。
俺は大切な一歩を、玄関に向かって踏み出した。
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