第2話 希望ヲ唯ダ望ムダケ

中学に通う事はなくなった。

姉が死んだ事により、完全に精神がやられてしまったのだ。

ずっと家に閉じ籠り、自分を責めた。


何故俺は姉を救えなかった?

いや、救おうとしなかったんだ。

―俺はなんて馬鹿なのだろうか。


何故気づけなかった!?

何故姉の心の闇に気づけなかった!?

どうしてだ、どうしてだよ!

こんな簡単な事、何で出来なかったんだ!


分からない。

分からないよ。


―何故分からないんだ!?

もう何も思いつかない!

後悔しかできない、こんな俺など…!

クソっ!死んでしまえ!

死んで仕舞えばいい!

出来るものなら、姉の命と引き換えにこの命を手放してしまいたい…!

でも、そんなことできるわけないんだよな…


なあ、俺。

俺に、後何が出来る?


―出来ねえよ。何も出来やしない。

失ったものは、取り戻背ないのだから。

もしあるとしても、俺には分からない。


―は?分からない?

そんな簡単に言うなよ!もっと考えろよクソが!

―お前はクソしか言えねえのか?

俺はお前なんだからお前が分かんなかったら俺も分かんねえんだよ!

その答えを求めるなら、他をあたれよ!


存在しない俺の分身と、頭の中でずっと話している。

話題はいつも、姉の助け方。

結局いつも、「分からない」で終わってしまう毎日。


分からない。分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない!

……

―へへ…この首を絞めれば分かるかなぁ…

ギギ、ギギギギギ…


吐き気を催す様な力で、首を締め付けた事もあった。

自分を殺したかった。

それで償えるのなら、どんな死に方でもいいと思った。


でもやっぱり、死ぬのは怖かった。

死ねる、と理解できた直後に、どうしても手を離してしまう。

そんな自分がますます嫌になり、自己嫌悪のスパイラルに陥った。


叔父はそんな俺に気を使って、何も助言する事はなかった。

側から見ればそれは良くない事なのだろうが、俺にとってはありがたい事だった。

きっとその時の俺なら、何を言われても傷ついただろうからだ。

その事に気づくのも、数ヶ月後の話。


そう、あれは冬のことだった。

―一生引きこもるつもりでいた俺の家に突然、少女が上がり込んできた。

玄関からでも、窓からでも無い。

気づけば、そこにいた。


「だ、誰だよお前!い、今の俺なら、お前みたいな不法侵入者は殺すことだって出来」

「そんなことすれば、みんな悲しむことぐらいわかっているはず。」

「っつ…!」

「貴方は死にたくなかったから死ぬのをやめたのでは無い。

少なくともそれは一つの理由であるが、それはほんの小さな理由。」

「じゃ、じゃあ何なんだよそれは!教えろ!俺にはもう何も分からないんだ!

 教えてもらうことしか、それだけしか出来ないんだ!」

「そんな事はない。貴方は真実を無意識に自覚している。

 でも、それを『貴方』が否定している。」

「は?もう意味わかんねえよ!回りくどい言い方ばっかりしやがって!

 もっと端的に教えろよ!俺はもう考えられねえって言ってるだろ!?」


どれだけ俺が凄んでも、まだ小学校低学年と見られる少女は微動だにしなかった。

この時俺は気が動転し、もう誰にも心を許せなくなっていた。

それでイラついてしまったのかもしれない。

だからと言ってもこれはただの言い訳に過ぎないのだが、俺は非人道的な行動に出た。


ドゴッ!


俺は、少女を殴った。

殴ってしまった。


少女は俺が思っていたよりずっと軽く、そのせいで吹っ飛んでしまい、

ドン!

そのまま少女は思い切り壁に叩きつけられた。

しかし彼女は、まったく痛がる様子を見せずに、スクッと起き上がった。


―この子は、人間では無いのかもしれない。

体というものが無い、何かー。


彼女を助けようともせず、俺は彼女を観察した。

かなり最低な事をしているが、まだ俺はその事に気づかない。


「貴方は、優しい。だから、死なない。本当に死のうとは、思っていない。

 何故なら貴方は、それで悲しむ人がいる事を分かっているから。」

「!?」


俺が、優しい…?

俺は今、お前を殴ったばっかりだぞ?

そんな、そんなわけが無いだろ!?

そう言いたかったのをグッと堪える。

彼女の言葉は真実味を帯びていた。

叔父の様などっしりとした言葉では無く、か細い、でも根強い、冬枝の様な言葉。

本当に簡単な事だったのだ。

現に叔父が、答えをくれていたじゃないか。

『…僕もこれ以上心の傷を増やすのはごめんだからね。』

と。

「もっと貴方は自分に自信を持っていい。

それが貴方への、答えになるから。」


そう言って彼女は、俺に背を向けて去っていった。

歩いてではない。

そこで消えてしまった。

瞬間移動か、ワープか。

それとも、実体のない分子レベルの生き物の塊だったのか。

分からない。

でも俺はもう、分からないで済ませることは止めた。


彼女は俺を助けに来てくれた。

もしかしたら、天国の姉からの使者かもしれないな。


夢の様に一瞬で、それでいて濃密だった。


そしてこの、たった数分の時間は、俺をまたまた大きく変える事となる。




〜人物紹介〜

※年齢は二話時点のものとする

主人公:眞秀葉 風露(マホロバ フウロ)十四歳

姉:眞秀葉 風葉(マホロバ カザハ)十八歳(故)

母:眞秀葉 照弧(マホロバ ショウコ)三十八歳(失踪当時 三十四歳)

叔父:鷲ヶ峰 奏治(ワガミネ ソウジ)三十二歳

謎の少女:???(???)?歳

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