第3話

 教室とはなぜに居心地が良くないのだろう。ふとそう考えた時には、面倒くさい連中に絡まれていた。


「おい大道!なぜお前が園寺町さんと一緒に登校してんだ!」


 こいつがいう園寺町さんというのは霞ちゃんのことだろう。


「なんでって言われてもな。知り合いだし」


 確か噂ではこいつは園寺町姉妹のことが大好きだとか。涼花は渡したくない気持ちがあるが霞ちゃんのことはどうぞ狙ってくださいだ。


 いや、霞ちゃんにこんなクズは不似合い。もし霞ちゃんが迫られていたら身体を張って助けるとしよう。


「知り合いだぁ?お前みたいなやつが園寺町さんと関わりを持つこと自体あり得ないんだよ。陰キャは大人しく本でも読んでろ」


 こう人は自分の意見を他人に押し付けようとするのか。

 答えは簡単だ。周りから肯定されたいのだ。自分が正しい、と周りに威嚇するかのよう。


 だが現実はそう甘くないわけで。


「笹村くんってあんな人だったんだ」

「怖ーい」

「ねぇ~」


 残念ながらこの教室にはこいつの味方よりも俺の味方の方が圧倒的に多い。そもそも客観的に見て全てこいつが間違っているのだがな。


 あ、こいつ笹村っていうんだ。興味なさ過ぎて知らなかった。


「ちっ」


 笹村は周りの視線を感じたのか舌打ちをして教室を出て行った。なんだあいつ、うちのクラスじゃなかったのか。







 放課後になってさっそく部活に…行くわけもなく俺は帰ることにした。なんてったって俺は帰宅部。

 帰ることを活動内容とするこの世で一番ホワイトな部活である。


 ホームルームが終わるとすぐさま荷物を持ち玄関に向かう。

 誰よりも早く教室を出たおかげで玄関には誰もいなかった。


「とりあえず身体に優しい食べ物を買っていかなきゃな」


 涼花の体調不良の原因は知らないが、病人には果物が一番だろう。俺は小さい頃から病気したら果物で乗り切ってきていた。


 涼花もきっと果物を食べれば…


「お兄さん!」


「ん?」


 お見舞いのことを考えていたら突然聞き覚えのある声が後方から聞こえてきた。


「霞ちゃん?」


「こんにちはお兄さん」


「どうしたの?俺になんか用?」


「朝の言葉を忘れたんですか?また、って言いましたよ」


 確かにそんなことを言っていたような気もする。でもそういうのって大体あまり意味がないというか。

 単なる社交辞令としか思っていなかった。


「お兄さんは今からお姉ちゃんの所へ行くんですか?」


「うん、そのつもりだよ。心配だし。」


 俺の言葉を聞いた霞ちゃんは怪訝そうな顔をして俯いた。


「お兄さんはお姉ちゃんのことが好きなんですか?」


「え」


 もしかして霞ちゃんは俺が涼花のことを好きなこと知ってるのか?

 それならなぜバレた?態度には出さないように気を付けてたはずだ。


「な、なんでそんなこと聞くの?」


「私は知っています」


「え、知ってるって何を?」


「さっきの質問に答えてください」


「い、いや。だからなんで…」


「答えてください。さもないとお兄さんにレイプされたって学校中に言いふらしますよ」


 なんでそんな大きなことになるんだ。しかも女子から、霞ちゃんからその言葉は聞きたくなかった。

 霞ちゃんの学園コミュニティは計り知れないが多大なことだけは分かる。そんな話広められたら終わる。

 涼花にも二度と口をきいてもらえなくなるだろう。


「分かった。言うよ」


「物分かりが良くて助かります」


「俺は涼花が好きなんだ。結婚したいくらいに」


「…重。そんなにお姉ちゃんのことが好きなんですか?そんなことお姉ちゃんに行ったら引かれますよ」


「…ごめん」


 霞ちゃんは俺の謝罪を聞くとニヤっと笑みを浮かべてスマホを俺に見せた。


「な、これは!?」


『俺は涼花のことが好きだ。愛してると言っても過言じゃない。出来ることなら涼花が俺の物になってほしい。俺のことを好きになってほしい…』


 スマホに映っていたのは俺が寝ている涼花に告白している動画だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る