第12話
――目の前に三冊の卒業アルバムを並べ、その頃の思い出を手繰り寄せながらこれを綴っている……。
一冊は中学、そして二冊は小学生の頃のもの。これ以降の卒業アルバムは私は持っていない……。高校は色々あって定時制を選んだから。……が、その高校すら、二年の二学期で退学となってしまったが。
……正直、この頃の私は相当荒れていた。……いや、人をそもそも信じられなくなっていたと言ってもいいだろう。友人と呼べる者達は数名いたし、集合をかければ五十人程度なら学校を問わず集めることすら出来た。所謂、不良連中を殴り飛ばし、喧嘩ばかりをした結果、噂だけが独り歩きをし、そんな友人ばかりが周りに集まったからだが。
先にハッキリ断っておきたい。私は喧嘩が強いわけでも「悪」でもない。実際、喧嘩は大抵ボロカスに負けてしょっちゅう怪我をしていたし、虐められた経験を持っていた自分が、人を虐めたいなど一度たりとも思ったことはない。……喧嘩の原因はほぼパシリにされるのを断ったり、虐めの現場に介入したのが大半だ。もちろん聖人君子でもない私は、ほぼ力だけで解決しようとした結果、不良君達は「あいつは根性がある」と誤解し、同列の仲間と見なされてしまった。
――まぁ、今思い返してみれば、皆ただの「おバカ」なだけだったんだと思う。実際話してみれば、中にはいい奴も居たし「憧れ」でそう云う格好をしている奴も居た。
でも、私の心の奥底には、どこかで「信じきれない」と思っていた。中学時代はそんな調子で最終学年の三年時、ほぼ学校にいかなくなり、家で「スーパーマリオ」や「オホーツクに消ゆ」をプレイしていると、悪友が何時しか集まり始め、気づくと朝、学校に出掛けると母に言って家を出た後、通学路で皆と待ち合わせ、母が仕事に出た後、自室で時間を潰すようになっていた。そんな連中と一時の楽しい時間を過ごしていると、母にはその状況がバレたのだろう。いつもの調子で皆で自宅に戻り、さぁゲームをと思った時、閉めたはずの玄関の鍵が開く音が聞こえ、ニコニコと鬼の形相をした、手に短い竹刀を持った教師が「授業はもう始まっているぞ~」と闖入してきた。
結局、学校には出席はしたが、当然授業が頭に入る事もなく。特に長い期間学校に行かなかった私は授業について行けず、別室で個別授業を受ける羽目に。
「……何でお前は出来るのに学校に来ないんだ?」
別室でよく教師に言われた言葉だ……。
意味は「お前は、勉強はやればすぐ出来るのに、なぜ出席しないんだ?」だろう。……確かに、当時の私はそれなりに出来た方なんだとは思う。それに物怖じしない性格と言うのもあって、教員達からはよく思われていた。喧嘩の原因が「虐め」の事だったり、理不尽なパシリ行為の抗議だと知っていたのも有るが、何より職員室に普通に入り浸っていたから。特に私の担任教師は学年主任が相当していた事もあり、しょっちゅう出入りしていた私は良くも悪くも教師の間では『有名』になってしまっていた。……後に私が卒業した翌年、妹が中学に入学し、それはそれは苦労したと、かなり愚痴られたのはまた先の話。
だが私は、私にとって教師たちの言う「お前は出来るのに――」が大嫌いだった。何を言っているんだ? と思ってしまった。……確かに学校は、中学までは義務教育だし勉強する場所。そして、人と人のコミュニケーションを取り、集団生活を知る場であるのだろう。
――だけど、人が信じられない私にとって、そこはもう、ただの地獄でしか無いのだ。いくら気心の知った友人が居ようが、クラスメイトと交流できようが。それを全て斜に構えていた私には、無用の長物に過ぎないのである。だから当時爆発的にブームとなっていた家庭用ゲーム機にハマっていたし、少ない本当の友人は自宅に来ていたのだから。
……私には都合四十年以上になる親友と呼べる者が一人だけだが、存在する。彼との出会いは私がちょうど二度目の引っ越しをした時まで遡る。前に暮らした団地にも児童公園は存在していたのだが、そこにあった遊具は大きなコンクリートで出来た滑り台と、下の中央部がトンネルになった構造物とすべり台の先にある砂場だけだった。だが、越した先にあった公園、そこにはすべり台は無く、代わりにブランコとジャングルジム、鉄棒に箱型ブランコとシーソーまでと。沢山の遊具が中央の広場を囲むように点在していた。引っ越す少し前、暮らす家の内装工事や小さな荷物を運ぶのに、頻繁に訪れた頃、私と妹はその公園に夢中になっていた。そうしてブランコで妹と二人、親の作業中に遊んでいると、二人の男児が近づいてきた。一人は大柄で当時の私より二回りほどふくよかな子。
「……どこの子や?」
ぶっきらぼうにそう告げてきたソイツを見ると、知らぬ間にブランコの支柱に、登り棒の要領でしがみついている中肉中背のもう一人。
「今度、あそこに引っ越してくるねんけど」
その公園は私の引っ越す家の見える場所に有り、そこを指さして答える。
「……ここに引っ越してくるの?」
ブランコの支柱に登り始めた彼がそう言って、大柄の方を見つめると。
「……ふ~ん。〇〇地区のやつと違うんか」
「なに? 知らんけど」
「ならいいわ」
何が良かったのかは越した後で知ることになったが、それが私と彼、そしてもう一人とのファースト・インプレッションだった。
引っ越してすぐ、やはり公園で遊んでいると、彼らは別の小さな子供も連れ添い現れた。
「お~い! 引っ越してきたんやな。学校はいつから――」
大柄の男が連れてきた子供達を紹介しながら、私達の転校時期を聞いてくる。私は少し間が有ることを言うと「そうなん?」と言って修学旅行の話をすると「あぁ、俺等はもう行ったからな」と納得し、最後に支柱に登っていた彼を紹介してきた。
「俺は〇〇、XXは「プラモ」知ってる?」
「え? あぁ、一杯持ってるけど」
「うそ!? 見たい! 見せて!」
今もこんなに鮮明に。彼のことは覚えている。ちょっと抜けてて、でも元気よく。体を動かすのが大好きで、中学に入ってすぐに器械体操を始めてあの「池谷幸雄」と中学時代競い合った彼。
――何がどうしてウマがあったのか、今もそこは判然としない。でも、そんな事はどうでもいい。
「何してるんや?」
「おう! 今? 呑んでた」
「休肝日、ちゃんと作れよ」
「わかってるって」
昨日の彼との会話。細かいことは話さない。……ただ、少し痩せたと聞いたから。そこは心配だと思っただけ。
――なぁ親友、まだ先は有るんだから、勝手に立ち止まってくれるなよ。
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