第8話
――集合場所は団地の大通りにあるバス停。
そこに着いた時には既に一人の同級生が黄色い傘を持って立っていた――。
……まぁ、ここで小説のような語りをしても仕方ないと思うので、ここからは自分語りで行こうと思う。
友人同士で遠くに出掛けるというのは、今までも幾度か経験はしていた。……ただ、それは何処かの大型スーパーだったり、模型屋だったりと、団地の近くにある商店街にもあるものの延長線上だったような気がする。そう言えば、当時私の住む地域に所在した大型スーパーと言えば「主婦の店」や「ジャスコ」が定番だった。やがてそれらは名を変え、現在ではなくなってしまった店舗も多々見られるが。主婦の店はダイエーへと名称が変わり、それも現在では私の生活圏ではもうなくなっている。ジャスコにしても然りで、現在はイオンとなり、こちらは未だ存続し続けては居るが。どちらも当時の私達にとってはまるで百貨店のような綺羅びやかなものに見えたものだ。
……と、話がずれてしまった。
当時、映画館は街の主要な場所に、点在して多くあったのを覚えている。流石に私の記憶で「もぎり」が居たなんて言うほどのことはないが、たくさんの映画館やボウリング場が併設された、一種の大衆娯楽場が存在していた。劇場ビルの壁には大きな手書き看板があり、バスの窓から大きなモビルスーツの絵を見たときは感動で目がキラキラしていたと思う。一階の受付で切符を購入し、階段を登った先にあるロビーに辿り着いた時には、まるで自分が大人になったような気分で、その異空間をまじまじと見つめていた。劇場の入り口ドアは防音になっているために大きく重厚で、二人がかりで取っ手を引いたのを今も覚えている。
……確かにそれまでも幾度か親に連れられて、映画を見た記憶は残っているのだが、所詮は親の見たい映画に付き合っていただけだった為、そんな周りの状況など、一切記憶に残っては居ない。せいぜいが、その後に買ってもらうお菓子や、おもちゃが目当てだったのだから。
今の様に設備が凄いわけでも、音響が素晴らしい訳でもない。……ただ、巨大なスクリーンが目の前にあり、通路にすら人が犇めき、立ち見も当然、煙草で部屋が曇っているのもしばしば……。そんなトンデモ状況な部屋だったけれど、……それでも友人達だけでの初めての映画は……。
――最高だった――。
~*~*~*~*~*~*~*~
さて、そんな楽しかった思い出として、今も残る小学五年生最後の春休みを終え、晴れて最終学年に上がった私。既出の通りクラス替えもなく担任も同じまま、教室が変わっただけ。……しかし、その変わった教室から見た校庭は、私にとって少し感慨深いものとなっていた。
ここで話題を少し切り替えてみよう。私が小学校最終学年に上がった頃と言えば、昭和五十六年。時代としての背景はどうだっただろうか。経済としては突出した出来事はなく、先のオイルショックから抜け出し、様々な場所で安定期と言うか、大きな出来事と呼べるものはなかったと思う。そうして経済や政治が安定すると次に表に出てくるのは文化方面である。所謂娯楽が充実していくのだ。……テレビは白黒から既にカラーテレビが当然になり始め、我が家にも足の付いた大きな家具調テレビというものがリビング部と言うか、親の寝起きする部屋に鎮座していた。まぁ、
あぁ、また話がずれてしまう。……娯楽、テレビとくれば気付かれる方も多いだろう。そう、今もそれは熾烈に繰り広げられている生き馬の目を抜くような闘い。
――アイドル戦国時代の幕開けだ。
いや、それまでも思い返せば何人もアイドルは産まれ、テレビにいつも写っていた。ピンク・レディーや、西城秀樹、郷ひろみなど、七十年代もかなり多くのアイドルが輩出されてはテレビの中で輝いていた。私はもっぱらテレビで見るのはアニメや特撮か、ドリフなどのお笑いばかりがメインだったが、妹は違った。ドリフのコント終わりの歌のステージで歌うアイドルを見ては熱狂していた……。ピンクレディーが踊ればテレビの前でモノマネをして父親に喜ばれていたし、彼女はそれで気を良くして色んなアイドルのモノマネをしていった。……お陰で父が変な勘違いをし、後日私達の部屋に窮屈そうに大きなエレクトーンが置かれていて、目を剥いた。当時はピアノやエレクトーンなど、超金持ちくらいしか持っていなかったのだ。(鍵盤だけのものじゃない。足の付いたモノホンだ)
そんな中、八十年代に入った辺りからアイドルの形が少しずつ変わっていく。可愛い、歌が上手いのは前提条件だったが、キャラクター性が顕著になっていく。結果、派生系のアイドルが量産され、沢山のアイドル番組が産まれていった。歌番組も「ヒットスタジオ」「ザ・ベストテン」「夜のヒットスタジオ」etc……。歌番組は特に増え、アイドルたちもどんどん露出度が増え、何時しかドラマや映画へと進出していく……。そこには賛否が分かれるところだが、それは社会現象となり、グッズやコンサート、巨大コンテンツへと変貌したアイドルたちは裏にひっそりと大きな闇を抱えたまま、今も世界を席巻しているのは間違いない事実だろう。
そんな大人の事情など知りもしなかった当時の私が「聖子ちゃんカット」の女子に、ちょっとときめいた事は公然の秘密なのだ。
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