第13話 ロマンチックとは程遠い求婚⑥ 《ロイド視点》
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「ふっふっふ」
研究室に戻って片付けをしていると、ウォルが声を出してニヤニヤし始めた。
「……なんだ、気持ち悪いな」
不審な目を向けて言ってやったが、ロイドのこの調子に慣れきった従者は気にせずにやけ続けている。
「思いのほかスムーズにお話が進んで、嬉しいのです」
「何の話だ?」
純粋にわからなくて首を傾げると、ウォルはわざとらしくえっへんと咳払いをした。
「ロイド様の講義に、ノーラ様をお招きする件ですよ!」
ああ、その件かと魔道具を片付ける手を進める。
「ノーラ様もですが、よくぞロイド様が許可してくださったなと。ここに他人を入れるのを嫌ってらっしゃるのに」
「わかっていて提案したのだから、お前も相当いい性格をしているよな」
「ロイド様のお傍に仕えていると、ある程度ふてぶてしくもなるんですよ」
ケロリと生意気なことを言ってのけるウォルを軽く睨むが、すぐに目を逸らす。この男とは幼い頃からの付き合いで、アルディオンの屋敷で誰よりも気の置けない間柄でもあるのだ。だから多少の失礼な発言は聞かなかったことにしてやる。
「いやぁでも本当に驚いているんですよ。案外あっさり許可が出たので」
「……」
「やっとロイド様が他人に興味を持ってくださいましたね」
(興味、か)
カチャカチャと実験器具を動かしていた手を止める。思い出すのは、まだ出会って間もないとはいえ、会うたびに臥せっている令嬢の姿。
(……どうにも、違和感があるんだよな)
ロイドが珍しくも人間を相手にして気に留めているのは、引っかかっているものがあるからだった。
(昨夜魔法を使った時に一瞬見えた、歪みのようなもの)
後からもう一度思い返し、冷静に考えてみてやはりあれは何だったのだろうと気になったのだ。それを確かめるために今夜も訪ねてみたのだが、なんと違和感は増す一方だった。
(言葉にするのは難しい……が、あいつを前にするとなぜか奇妙な感覚が走った)
魔法を使わずとも、彼女に近づくだけで、今までに感じたことのない魔力の波動みたいなものを感知したのだ。それは瞬きをする瞬間に消えてしまったり、ふと感じ取れたりするもので、気配を探ろうとしても上手く掴み取れなかった。
(何かの魔法……? しかし、ろくに魔法を使えないほど魔力保有値が低い、と聞いている)
ミディレイ侯爵の話ではそうだったはずだ。その上魔力に敏感で近づくと具合が悪くなることがあるから、魔力を持つ物や人からは遠ざけておいた方が問題なく暮らしていけるだろう、とも聞かされていた。
(……いや、この感じ。俺が間違うはずがない)
長年、イデルタ王国魔法研究分野の第一線で活躍してきた者として、彼女が持つ違和感が何なのかはもう察しがついていた。
(何の魔力を持っているのか、ハッキリわからないから奇妙なんだ)
結論としてはそうだった。普通、魔力を持つ者を前にした時、何属性の魔力保有者であるかは何となくわかるものだ。だが、妻となるべくしてやってきたミディレイ家のかの令嬢は、それがわからないのだ。
一言で言えば、正体が不明なのだった。
(……何者なんだ、あの女)
二度対面しても、答えが見つからないどころか謎は深まるばかりだった。だからウォルの提案を受け入れたのだ。もう少し接する時間が増えれば、何かわかるかもしれないと。
(謎というのは、解明しないと気が済まないからな)
要するに、魔法研究オタクの血が騒いだのである。
ロイドがそんな思考に浸っているとは知る由もなく、ウォルは主人夫妻の仲が少しでも縮まればいいな、なんて暢気なことを考えていたのだった。
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