第16話 竜王激突(side:アルマ)
ススムが正気に戻ってくれて本当に良かった。
ミュールとルーナが時間を稼いでくれてはいるが、そろそろ限界だったからだ。
ススムが覚悟を決めるのを待ってから藍色のドラゴンに向かおうとすると、何故かススムが不思議な反応をしだした。
急に驚いたような仕草をしたあと、何もないところに視線を向けて戸惑っている。するとススムの存在感が急激に大きくなっていった。
ススムは明らかに変化した彼自身の体を一通り確認すると、視線をドラゴンへと向けた。
すると彼の黄金の瞳が輝きだした。不規則にゆらめくようなその輝きは一度だけ瞬くように強く光ると、次第に元の光量に戻っていた。
一瞬、正面から見てみたい気持ちが湧き上がってきたが、ススムの声で我にかえった。
「アルマさん。俺、行きます。一度猫たちを下げてください。あと、フォローお願いします」
「え? わ、分かった。気をつけて」
ススムはそう言うと、勢いよくドラゴンへと駆け出した。こちらを向いた時の黄金の瞳からは、喩えようがない美しさと有無を言わさないほどの力強さを感じた。
ススムに言われた通り、ミュールとルーナを一度下げると風を辺りに散らして被害が広がらないように構える。ミュールには斬撃による牽制とサポートを、ルーナにはススムへの幸運の付加とドラゴンへの不運の呪加を頼んだ。
戦闘の邪魔にならないように、それでいていつでも助けられるように、少しだけ近付いてフォローに専念することにした。
ススムとドラゴンに意識を向けると互角の戦闘を繰り広げていた。
ドラゴンに肉薄したススムが空中に不可視の足場を形成すると、その足場を軸にしてドラゴンの首を狙って回し蹴りを放った。靴の先端から竜気で出来た爪が伸びてドラゴンを切り裂こうとする。
ドラゴンはその攻撃を避けるそぶりもみせず、逆にススムに噛みつこうとその牙を剥いた。
ススムの爪がドラゴンを切り裂き、ドラゴンの牙がススムを掠める。
咄嗟に私は口を手で押さえ、溢れそうになった悲鳴をなんとか抑えた。
牙が掠めたススムがその勢いに流されてドラゴンから少し離れると、すかさずドラゴンがその巨体からは想像もつかない速度で回転して尻尾を叩きつけた。
ススムは勢いよく弾き飛ばされたが何とか無事なようだ。尻尾が直撃する直前に竜気による膜を作り、それで衝撃を和らげたようだ。
弾き飛ばされたススムは、先程足場にしていた不可視の壁を自分の後方に何枚も形成し、緩衝材にして勢いを弱めることで無事に地面に着地した。
早鐘のように心臓の音が響き、体の震えが止まらない。私はススムの無事を確認すると大きく溜息をついた。
周りへの被害は私の風で最小限にしてはいるが、私はこの光景を見たことがあった。
鎮守の森で毎年起きていた〝竜王と竜王の闘争〟の光景だ。
私には、ススムの無事を祈ることしか出来ることが残っていなかった……。
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〈
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