第26話 夕食

肩が軽い!腕も軽い!動く動く!

唯一の誇りとも言えるフライパン捌きを見よ!  

こんな気持ちで料理を作れるなんて、まるで夢見たい!


「……ふぅ。」


はい。

現在私は雫先生の肩マッサージを受け終わり、久しぶりに感じる肩の軽さに驚きつつお礼として夕飯を作っています。


「大丈夫?目覚めてからだいぶ経ってるとはいえ病み上がりだし変わろうか?」

「料理だけは作り慣れてるので、大丈夫ですよ。」

「そ、そう?」

「はい、雫先生は椅子に座って待っていてください。それにあと盛り付けぐらいなので。」


ちなみに食材は自由に使ってと言われ、これまた1人暮らしとは思えない大きさの冷蔵庫の中を見せられた。

雫先生曰く、親戚が沢山送ってくるという食材が大量にあり、中には蟹とか、見るからに高い肉とか、一般的な家にはまず無いカラスミとか、どうやって調理するん?みたいな食材のびっくり箱だった。


そんな高級食材達を目の前に小市民な私は思わず固まってしまった。

高級すぎる食材に手を加えるのが申し訳ない気持ちが僅かにあるが、雫先生が『全部自由に使ってほしい、私は栞華ちゃんの手料理が食べたいから』って言ってくれたから頑張ってる。


ちなみにだが、夕食はなにを食べたいかの話は聞いた側が1番困る返答『なんでもいいよ〜』が炸裂、少し悩んだが和食を作ることにした。


メニューは秋刀魚の竜田揚げ、ミョウガのお吸い物、梅ドレッシングサラダ、エビの頭に岩塩をかけてカリカリに焼いた奴、そして豆腐とエビを一緒に煮たなんかオシャレな奴えんどう豆を添えて、その他それっぽいの。

こちら紹介から後半に行くにつれ、私がどこかで見た見た目と感覚で作る味の保証が出来ない料理となっております。

不味くはないけど特別おいしくもない、的な?


これまた高そうなお皿に普段の倍は時間をかけて盛り付ける。

中学の美術の成績1だった私のセンスが輝きます。


「完成……」


まぁ、なんという事でしょう。

あれだけの高級食材達が平凡な家庭の和食に早変わり、少しだけメニューが多いのとオシャレなお皿のおかげでギリギリ料亭で出て来そうな料理に見えなくもないのが救い。


「お、おぉぉ〜、凄い……」


落とさない様にリビングへと料理を運んでいくと、待ってた雫先生が大袈裟に凄いと言ってくれる。

私は高級食材を平凡な料理にしてしまって、申し訳ないよ……


でも1番申し訳なく感じるのは、色んな食材で自由に料理を作るのが楽しくなって9品作ってしまったこと。


「あれ、どうしたの?」


罪悪感に襲われながらも、作った料理を運びきろうと動いていてたら雫先生に呼び止められた。


「まだ料理が運び切れてないので……」

「えっ?な、何品作ったの?」

「9品です。」

「運ぶの手伝うね!」


やっぱり雫先生は優しい、雫先生が手伝ってくれるならあと2往復で運び切れる。


「これだけの料理をあの時間で作れるなんて、本当に凄いよ。」

「そうでしょうか?」

「うん、お嫁さんとして一緒に暮らしてもらいたいレベルだね。」

「……」///


唐突に来るお嫁さん発言にやられた、鏡を見なくても私の顔が赤いのがわかる。

私の女神でもあり、小悪魔でもある、共に過ごしていくとどんどん雫先生の魅力が増えていく。


「……?」

「くぅ……!」


顔が良い。

なんだこの気持ちは、お姉ちゃんの時みたいな綺麗な顔の威力を軽く上回る!

雫先生の癒しパワーが強すぎ!


「は、早く食べましょう!」

「ふふっ、そうね、いただきます。」

「いただきます。」


クッ、絶対に変だと思われた……!




──雫先生──


私の実家は普通の家じゃ無い。

子供の頃、とても大っきくて広い敷地に私の家族以外も大勢の大人と共に育った。

私はそんな実家が異常だと理解している。



「美味しい……」


正直に言えば和食は苦手だ。

苦手な実家では毎日のように料亭に出てきてもおかしくない和食を食べていて、その時の記憶を思い出してしまうから。


でも、


「よかったです。」


目の前の、私が不純な気持ちを抱いてしまった彼女の作る和食は、和食に関して舌が肥えてしまっている思わず美味しいと口に出してしまう出来だった。


「間違いなくお店をやっていけるレベルだよ、私が保証する!」

「そんなにですか?」///

「そんなにですよ。」


和食特有の口の中がサッパリする感じが心地良く、目の前に置かれた料理はあっという間に体に収まった。


「ご、ごめん、栞華ちゃんの料理が美味しすぎて先に食べ終わっちゃった、ゆっくり食べてていいからね。

ご馳走様。」

「ん……」


あっ、口に入れすぎてリスみたいになってる。

私の速度に影響されちゃったみたいだ、反省しないと。


「……」パクパク

「……!」


うーん、可愛い。

食べてるだけなのに可愛い、何故か効果音まで聞こえる気がする。


「……」じーー

「あ、あの雫先生。」

「どうしたの?お茶無くなっちゃった?」

「そんなに見つめられると、食べずらいです……」


……カメラなら気にせず食べれるかな?


「えっと、どうしてカメラを?」


ダメだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「なんで薄暗くしているのですか?」

「雰囲気作りです。」


次回 全身マッ──『オレンジ電球』





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る