第25話 マッサージ

雫先生の家は整理整頓と掃除が行き届き、3階建ての一軒家にしては荷物が少なかった。


それなりのマンションで1人暮らしをしている荷物の量が、広い家の色々な場所にあるのを想像してほしい。

つまりはスカスカである。


「これ私の好きな紅茶なんだ、栞華ちゃんも飲んでみて。

なんかリラックスできる、らしい。」

「いただきます、ありがとうございます。」


「「……」」


人の家に上がった際、起こる現象があるとネットか本で読んだことがある。

それは上がる家の相手がどんな間柄で、どんなに仲が良くても、なんとなく気を使ってしまう現象。


「「……」」


私と雫先生、どちらもお互いになんとなく気を使っているのがわかる。

どことなく気まずいけど、この紅茶は美味しい。


「あの、先生は一人暮らしなのですか?」

「そうだよー。」


え、本当に?

雫先生が1人でこのデカい一軒家に一人暮らしをしている?!


「うっ、まだ歳がそこまでいってない私が一軒家を持ってるなんて、やっぱりそういう反応になっちゃいますよね……」


何を言ってるんだ雫先生は、確かに一軒家は驚いたけどそっちじゃない。


「大丈夫なのですか?不審者とか……」

「あっ、そっち?!」


むしろこっち以外何があるんだ。

雫先生が変なのに襲われたら抵抗も出来ずに、いただきますされちゃうでしょ!


「防犯対策とかは、していますか?」

「一応は……鍵二重にしたり、警備会社にSOSが行くボタンがあったりはする、よ?」

「……」


予想以上にしっかりした防犯対策だった件について。だけど少し甘い、テレビでは洗濯物から女性が住んでいる部屋を割り出す変態も居る。


「洗濯物とか、外に干してたりしますか?」

「部屋が余ってるから基本的には部屋干ししてるよ〜、それに1人暮らしだと外に干す時間はなかなか取れないんだ……」


なるほど……


「完敗です、雫先生。」

「えっ?」

「私が1人暮らしを始めても、そこまで考えないだろうから。

凄いです。」


偉そうに色々聞いた私だけど私は初めて直ぐくらいは意識して、生活に慣れたら別に1日ぐらい大丈夫だろって考えて、そのうち防犯意識忘れちゃいそうだ。


だから続けてるのは本当に凄い。


「えっと、ありがとう?」


「「……」」


無言の時間再び。


『知り合い 気まずい 無言』で検索したい。

何かしら話題さえあれば話している間に緊張も解れるはず。


待てよ?

そもそも私が雫先生の家に来た理由ってコミュ力上げるためのリラックスだったよね。


「り、リラックス。」

「ん?」

「リラックスする方法、教えてもらえませんか?」

「そ、そうだったね!リラックスする方法……うん、ちょっと待ってね!」


質問に何故か焦ってるっぽい雫先生、腕を胸の下で組み必死に考えている。


そんなに悩むなんて、一体どんなリラックス方法なのだろ?

ちょっと前、ストレスで眠りにくくなったときにリラックスの方法を調べて実行したけど、その殆どが効果無かったんだよね。


食事、運動、白湯、お風呂の温度、などなど色々試したけどそこまで効果は無かったなぁ。


「むむむ……」


でも、雫先生の提案するリラックス方法なら期待できる。


「マッサージをしましょう!」

「……!」


雫先生の提案したリラックス方法は試した事がないマッサージ。

まぁ、誰かに頼む訳にもいかなくて自力で肩を少し揉むぐらいはしたことがある。本格的にやろうとツボを探している途中に腕が攣りそうになって断念した。


「あっ、でも栞華ちゃんはあまり凝ってない可能性もあるか……まぁ、どちらにせよ本格的なマッサージはここじゃ出来ないから、少しだけ肩を揉んでみようか。」

「良いんですか?」

「もちろん私が家に誘ったからね、これぐらいはやっちゃうよ。」


雫先生は手首を軽く回しながら私の後ろに立った。


「痛かったら教えてね。

いくよ〜。」

「は、いぃぃ?!」


グリッ、という私にしか聞こえないであろう音が聞こえ肩に痛みが走った。

まさか1発でツボに入るとは思わなかったな。


「ごめんなさい!だ、大丈夫?」

「大丈夫、です……」


心配してくれてるのにツボから指を離さないプロ意識高めな雫先生、流石に力は込めてないけどズキズキする。


「ふぅ……

もう、大丈夫です。」

「えっと、続ける?」

「お願いします。」


テレビ番組でマッサージを受けた人達は痛みの後に体が軽くなるって言ってたし、この痛みを耐えきることが出来ればリラックスできる、かも?


「にぃっ!」

「ほ、本当に大丈夫?」

「は、い……続けてください……」


マッサージによる痛みと少しの解放感に似た何かで時間の感覚が無くなってしまった。

多分数分間ぐらい続けて貰ってるんだけど、だんだん凝りがほぐれて程よい指圧が心地よく感じてきた。


「いっ、うぅぅ。」

「ハァハァ……」

「せんしぇ……少し楽に、なった、気がします……」

「そうなんだねぇ、もう少しやって終わろうね?」


やっぱりマッサージにはそれなりに体力を使うっぽい。


「ハァハァ、ハァハァ……」


雫先生の息が荒くなって少し心配だ。

私がリラックスできても、雫先生が疲れたら意味がな──


「あっ!そこ、気持ちがいいです……」

「あと10分ぐらいやろうねぇ〜〜。」


少し長い、なぁ〜〜……




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次回 『和食』



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