第18話 媚び売り作戦

ザァァァァ


シャワーなう。

あの2人は私が片付けている間は目を覚まさず、あの物騒な寝言を呟いていた。


「怖いな……」


殺意に塗れた呟きを思い出して震える肩を抱く。


「1人で暮らした方が安全、でもお金とか……」


ダメだ。

掃除しながらずっと考えていたけど、一人暮らしを始めるための案が全然浮かばない。


私が一人暮らしをする為には解決しなくちゃいけない問題は大量にある。


例えば、お金とかお金とかお金。


お金だけじゃんって思ったけど、正直に言ってお金が最大にして最強の壁なんだよね。

仮に私1人で全てを用意しよう思えば間違いなく高校は退学しないとダメなんだけど、2人と違って優秀じゃない私が学歴まで中卒になったら色んな意味で真っ暗、生活できる気がしない。


それに学費を出してくれた両親に申し訳ない。


協力者を作ることも考えた。

お婆ちゃん、お爺ちゃんなら助けてくれるかもだけど住んでるのはかなり遠いし、お金だけ求めるのは違うんだよ。


なら友達とか?そんなの居ないわ!


「やばい……」


控えめに言って私は詰んでる。

このままだと2人に殺される未来しか見えない、私に出来ることは出来るだけ媚びて御機嫌取りをすることぐらいだろう。


「問題はどうするか。」


媚びると言っても色々ある、その媚び方によっては相手に不快感を与えたりストレスの元となる可能性もあって……


家政婦的な事をすればいいかな、とも考えたんだけど今の体力だと正直キツイ。


「はぁ、上がろう。」


髪を乾かしながら考えた結果、とりあえずは2人の要求する事を全部受け入れてみることにする。

嫌だけど、本当は嫌だけど、キスを求められても受け入れてみよう。


「うっ、はぁ……」


猫耳パジャマを着て外に出る。

モコモコのパジャマで過ごしづらいと思っていた私の考えは良い意味で裏切られ、着てみると意外と暖かくて気持ちが良かった。


良いな、これ。


「ふふ、モコモコ……」


ガタッ!


パジャマの肌触りを楽しんでいたらリビングから物音が聞こえた。

例の2人が起きたんだろう。


「ふぅぅ。」


深呼吸をしてリビングの扉をゆっくり開く──


「部屋が綺麗になってる。」

「栞華にやらせちゃったのか……」


手を止めて、2人の会話を盗み聞きすることにする。


何故って?2人の会話を聞くことによって、本音がわかるかもしれないから!

こんなチャンスは2度と無いだろう。


「なんて謝ろう……」

「私は2回目、姉さんは1回目だけど、お姉ちゃんには行動で示すしか無いよ。」

「そう、だよね……」


畔華が2回?既に一回暴れていたのか……


「でもさ、私達がこんなんで良いのかな。」

「どうして?」

「お姉ちゃんが私達を見る目が冷め切ってることには気づいてるでしょ?

ずっと無表情だし、私達のことをどう思ってるかもわからない。」


無表情はともかく、目が冷たいのは納得がいかないんだけど!

これが私の普通だよ?!


「栞華が私達をどう思ってるかなんて考えるまでも無いよ。」


考えろ!そして今そこで話せ!


「そうだよね……」


諦めんなや!


思わず声を出してツッコミたくなるのを必死に抑えながら耳を澄ませる。


「もしかしたらなんだけどさ。」


続けて続けて。


「お姉ちゃんって私と姉さんが仲良くないの察してるんじゃない?」

「あー、あり得るかもね。」


えっ、あんなにキャッキャしてたのに仲悪かったの?!


いや待て落ち着け、友達が居ない私には分からないけど、女の子同士は裏では仲良く無いのは普通だって聞いたことがある。(※諸説あります)

姉妹も適応されるかも。


「それを私達は誤魔化そうとしてるけど、お姉ちゃんはそういう雰囲気が嫌いなのかも。」

「うーん、ならギスギスを表に出す?」

「それはもっとあり得ない。」


辞めてくれ、仮に仲が悪くても表面上は仲良くしてよ……

ギスギスの2人に挟まれるなんて考えただけで胃が痛いよ。心なしか口の中も酸っぱい。


「考えても答えなんて出なそうだし、とりあえず栞華のところに行かない?」


ヤバい!

頼む畔華、私が2階に上がる時間を稼ぐためにも、もう少し会話を広げてくれ!


「そうだね!

こんなクソつまらない会話をするより、お姉ちゃんを支えた方が有意義だよね!」


もっと姉との会話を楽しめや!

姉との会話と嫌なはずの私のサポートの2つでなんで私のサポートが勝つんだよ。


「多分上で寝てるでしょ。」


別に家族だしさ、盗み聞きぐらいで怒られな……ダメだ、私は2人に殺意を向けられているんだった!


こうして考えている間にも2人はこっちに歩き始めようとしている。


覚悟を決めろ私、先手必勝だ。

そう、何食わぬ顔でリビングに入るんだ。


ガチャ


「あ、栞華!」「お姉ちゃん!」

「……ん。」


私がリビングに入るのと同時に怖かった雰囲気は無くなった。


「「……」」

「……?」


駆け寄って来た2人が固まった。

目の前で手を振っても反応しない、何故かは分からないが止まってラッキー。

媚び売りの第一段階である家事、2人が私のことを止められない今のうちに夜ご飯を作ろう。


さてと、冷蔵庫の中身は〜。


「うわっ……」


マジで何も無い。

帰って来てから初めて冷蔵庫の中身見たけど、2リットルのお茶しかなかった。


「冷凍もうどんだけ。」


此処まで冷蔵庫の中に何も入ってないところを見るの私でも初めてだよ。


買い物のタイミングが今日だったのかもしれないけど、流石に物が無さすぎる。

素うどんしか作れない。


「今日はデリバリーしちゃおっか!」

「!」


足音を消した畔華が後ろから抱きついて来てビビった。


「というか、猫耳パジャマかわいいよ!」

「……ありがと。」

「お姉ちゃんのパジャマ姿が強烈すぎて、姉さんはあと3分ぐらい動けないね。」


2人が固まってたのはそんな理由だったのか。

でも固まるのってさ、似合ってないって事じゃない?


「ピーザー!」


まぁ、いっか。




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次回・媚び売り本番


久しぶりすぎて、この作品の書き方を忘れてしまった泣




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