第13話 苦い記憶

「これで良し、一応見学してね。」

「雫先生ありがとー。」


私の睡眠を妨害した人達は体育の授業中に足を捻って怪我したらしい。

包帯を軽く巻いて授業に戻っていく。


「ごめんね、あの子達は少し声が大きい子達なんだ…」

「大丈夫ですよ。

年頃の女子ですからね。」


言ったあとに、一体どんな視点だと思った。私も年頃の女子じゃん。


「じゃあ、寝る?」

「寝r……」


ノータイムで寝ると答えそうになったが、とても嫌な予感がする。

この流れ的に直ぐに寝ると答えればフラグになる。


つまり此処は、何も言わずに目を閉じるのが正解だ!


「……」zzz


ほら…もう、眠れる…


コンコン


まじか…


「失礼します。」


でもさっきのテンション高い子達とは違って大きな声を出さない大人しめの子みたい。

これなら眠れそうだ。


「あら、どうしたの?」

「プリントで指を切っちゃって、結構派手に血が出ちゃったんで見てほしくて。」

「取り敢えず消毒の準備するからタオルで傷を押さえていて、それと眠ってる子が居るから静かにね。」

「はい。」


薄らと話し声が聞こえる。

ゆっくり眠れーー


「あの眠ってるのは栞華さん、ですか?」


警戒心を解いてこの眠気に身を委ねようとしたが、唐突に聞こえた私の名前に脳が眠るなと命令を出した。


うん、君は誰かな?


声を聞いた感じ男子じゃなくて女子だけど、私は何故か女子から嫌われてるような雰囲気があったから友達はもちろん、喋る相手も居ないし…

わからん。


「そうだけど、何かあるの?」


雫先生の声が少し警戒してる感じがする。


「私は栞華さんと同じクラスで、えっと…」

「栞華さんと?」


同じクラス…だと?!

声を聞いても全く覚えが無い、会話はしないけどクラスメイトの声は大半なんとなくわかるんだけどな…。


ほら、あまりよく無いけど昼休みに本を読みながらクラスメイトの会話を盗み聞きしてるんだ。


会話には入らないのかって?

仮に会話に入れるんなら友達0人なんて事にはならんわ、でもさ雰囲気だけでも学校の休み時間ワイワイしてるのを味わいたいじゃん!


「えっと、それで…グスッ……」


なんで私の名前が出てる話で泣いてるねん。

覚えてないけどクラスメイトとは関わり殆ど無いし、泣き出すのはおかしいだろ。


なんて考えていると啜り泣く声がだんだん大きくなり、雫先生が落ち着かせようと話しかけていた。


え、待って…これさ私気付かないうちになんかやってた説ある?


「大丈夫、ゆっくり深呼吸して。」

「はふけてもらったのに、わたりはぁ!

うっ、あぁぁぁぁぁ…」


なに言ってるかわからないし、ガチ泣きやんけ…


薄らと目を開けてみるけどカーテンが閉められてて見えない。顔さえ見えれば誰なのか判明して、やっちゃった事を思い出せるかもしれないのに。


チラッと見るだけ…


カーテンへと手を伸ばしてちょこっとだけ開ける。

見えたのは椅子に座って泣いてる子と、手を握りながらしゃがんで声をかけてる雫先生の姿。


(あの子って…)


泣いてる子が誰かわかった瞬間、脳裏によぎる苦い記憶。

勇気を出して友達を作りに行こうとし、失敗した記憶だ。



(友達が欲しい!)


あのとき、私は友達という存在に飢えていた。


最初の自己紹介で失敗した訳じゃない。

こっちから何度か話しかけて努力したのに、何故か向こうからは話しかけられず、そのうちグループが固まってて友達が出来なかった。


(こうなったら正直に友達になりたいって言うしか…)


今どき小学生ですらやらなそうな友達の作り方だけど、本当に友達に飢えていた私はそんなこと気にしなかった。


「「「アハハハ!」」」


放課後に友達の作り方について考えていたら、使われていない部屋から楽しそうな笑い声が聞こえた。


(友達ゲットチャンス!)


声だけじゃクラスメイトか、同級生か、上級生か、わからないけど。

色々とヤバかった私は気にせず突撃した。


ガラッ!


「もう、やめてくらさい…」

「「「!!!」」」


勢いよく扉を開けた私が見たのは、土下座してる子と私にびっくりした様子の女子3人組だ。

この学校は右袖についているボタンで何年生かがわかる。3人組は上級生、土下座してる子は同級生だ。


「あん?誰?」

「ウチらさ今遊んでるの、早く出てってくんない?」


誰がどう見てもイジメ現場なのだが、この時の私は控えめに言っていかれていた。

何故なら、


(これ、虐められてる子を助けたら友達になれるんじゃね?)


その現場を見ても友達を得ることしか考えてなかったから。


マジでやばい思考だったと思う。


「なぁ、お前も虐められたいの?」


出て行く気配がない私に痺れを切らした3人組が脅してくる。

私はそんなこと気にせず土下座してる子に近づいた。


「立てる?」

「ぇ…?」

「こんな場所から出よう、掃除されてないし制服が汚れちゃう。」


ギャーギャー騒ぐ3人組を無視して立ち上がらせて、腕を引っ張るように部屋の外へと連れ出す。


「おい!待てよ!」

「うるさいな。」


心を折ってやらないとダメだ。

イジメというのは注意しても陰湿さを増して行われると聞く、主犯達が立ち直れないぐらいグチャグチャに…という考えで3人組に詰め寄る。


「あまり調子に乗るなよ。

私の友達に手を出して、ただで済むと思ってんじゃ無いだろうな?」

「ヒッ…」

「そこの2人、お前らもだぞ?

次なにかやったら…」


自分でも驚くぐらい低い声と圧を出せたと思う。

3人組は私に言われて謝罪の声を漏らし、走ってさっていった。


「大丈夫?」

「あ…」


(なんでまた座り込んでるの?!)


立っていたはずなのに何故か座り込んでいた。


「ご、ごめんなさい…!」

「えっ、ちょ…」


手を差し出すけど避けて走り去ってしまい、友達計画は失敗に終わった。

そんな、苦い記憶。



あー、やめやめ。

寝よう、寝ちまおう!


ちょっとだけ嫌な事を思い出してしまい、寝る事にした。


そう、不貞寝である。



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次回 思ってたんと違う学校だった


ちょっとくどくなっちゃったけど、必要だったんだ….

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