第12話 休み時間

「あの、少し寝てもいいですか…?」

「どうぞどうぞ。」


私と雫先生の2人とも絶妙に噛み合ってなさそうだった会話を経てついに私の眠気が限界に達した。

そしていっそ堂々と寝ると宣言すれば逆に寝やすいんじゃないかと思い実行する。


「……」

「……」


なんか先生に気を使わせちゃってるのか、保健室から音が消えて逆に気まずい。


「……」


めっちゃ気まずい空間に慣れるまで目をつぶって深呼吸。

そのうち、だんだん意識が遠くなっていって…


キーンコーン カーンコーン


チャイムが鳴っても、目を開かずに寝る事だけに集中する。

一瞬びっくりしたけど、そのまま意識が遠く…


「……」zzz


バン!


「お姉ちゃんが来たよー!」


帰れ、いや割とマジで。

この姉は睡眠妨害しかしない、私の事を考えてるならもっと気を使って?私を眠らせて?


「あ、先生お疲れ〜。」

「いえ、全然疲r「なんで来たの。」…」


雫先生が姉に何か言おうとしてたけど、眠れそうになったところを妨害されイラついている私の言葉に遮られた。


「栞華が変態に襲われてない心配だったんだぁ。」

「学校にそんな変態がいるわけないじゃないですか…」


そんなんが校内に居たら直ぐに不審者として放送されるわ。


「仮にそんな奴が居たとしても、此処には雫先生も居てくれてるので身の危険はありまsーー」

「あるよ?」

「え?」


あるの?


「そこの女が栞華を襲う変態かもしれない。」


姉が指を刺したのは雫先生だった。

全く、何言ってるんだこの姉は…


「そんな訳ないでしょう。

雫先生はこの学校でトップレベルに良い先生です、なんなら私が1番好きな先生かもしれない。」


部屋が静まり返った。


「……」///

「……」

「…!」ガタガタ


私の言葉に雫先生が赤くなり、姉に恐ろしい目つきで睨まれている事に気づいて震え出した。


視線だけで行われる恐ろしい会話。


というか、マジでヤバそう。


「お姉ちゃん。」

「んー?なぁに〜?」

「雫先生に何かあったら許さないから、絶対に許さないからね?」

「…わかった。」


これは絶対に納得いってないな。


「チッ…」


ほらね。

雫先生の何がそんなに気に入らなかったのか、舌打ちをして睨みつけている。


「ひぅ……」


あれだけガクガク震えていると、雫先生の小動物的な雰囲気と相まってとても可哀想だ。


「雫先生、こっちに…」

「え、でも…」

「大丈夫です。」


ベットから身体を起こして雫先生を引き寄せて近くに座らせる。


「お姉ちゃんが雫先生に何かしたと私が思った瞬間、今後の人生においてお姉ちゃん呼びはしないから。」

「えっ…」


ガタガタ震えていた雫先生の揺れが少し収まる。

姉の視線が雫先生から私に移ったのが理由だろうな、最近の2人の眼と視線って本当に怖いんだよね。


「クッ…」


キーンコーン カーンコーン


休憩時間が終わった。

よくよく考えてみれば今の時間は授業と授業の間にある休みで時間は5分、直ぐに終わっちゃう。


「次の授業に行ってくるね…」


落ち込んでる。

流石に言いすぎたか、と罪悪感を感じてしまうぐらいの落ち込みようだ。


最後に声だけかけておこう。


「頑張って。」

「うん!頑張るから褒めてね!

やる気でてきたー!」


めっちゃチョロいな。


パタン


保健室は再び静寂に包まれた。


「ふぅ…

雫先生、姉がすみませんでした。」

「…違うよ、謝らないといけないのは私達なの栞華ちゃんのお姉さんが正しいんだよ。」


???

どゆこと?


100歩譲って私の姉が正しいとしよう。

だけど雫先生が謝らないといけないっていうのは正しいとは思えない。


「雫先生は謝る必要ありませんよ。

私が怪我をして高頻度で保健室に来るのを心配してくれる優しい先生です、注意しながらもキチンと怪我した理由とか状況とかを聞き出して危ない場所をプリントで共有してくれる。

私はこの学校で雫先生の事を1番尊敬しています。」

「……」


目を合わせて自分の思っていた事を話す。

その状態で何故か雫先生が固まってしまったが、時間が経つにつれて目に涙が溜まり、ベットに落ちた。


「ありがとう、ございます…」


泣きながらお礼を言ってくる。


雫先生に毎週のように怪我を治してもらったという恩がある私だ。

正直この学校で1番好きな先生だし、なんとかして泣くのを止めたい。


でも涙を止める方法なんて…やるか。


「……」ぎゅ


土下座謝罪モードの2人を止めた方法である抱きしめだ。


「こんな私でも良いんですか…こんなクズ教師で…」

「良いんです。私は雫先生がクズだとは思いません。」

「本当に、本当にありがとう…」


何が此処まで嬉しかったのかはわからない。

でも雫先生だって人間、疲れて辛くてどうしようもなくなっちゃう事もあるだろう。


少しだけど恩返しになれば嬉しい。


でも、


「少し寝ましょう。」


それはそれとして眠いのは変わらん。


「一緒に、ですか?」

「そうです。

実は諸事情で家ではあまり眠れないので、雫先生が良ければですが…」

「わかりました。」


半分冗談だったのにまさかのOK。

嘘やん、保健室の先生の仕事って想像できないけど眠ったりして大丈夫かな。


心配しつつも保健室のベットに2人で横になる。


「心配しなくていいですよ、先生も少し疲れちゃったから寝たいなって思ってたの。」


その言葉に何か返そうと思ったけど、限界が来てしまった。

瞼が落ちて起きていられ、な…い……


「……」zzz

「寝ちゃった、そんなに疲れていたんですね。

…私は栞華ちゃんの言葉でこの仕事を選んで良かったと思えた、もし何かあれば私を頼ってね。」

「ん…」zzz

「おやすみ、良い夢を…」







パタン!


「先生!怪我人!」


やっと眠れたと思ったのに!保健室は静かに入ってよー!眠れねーだろうが!



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次回 クラスメイト



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