第6話 お風呂 後

ピト


「…!」ガタッ

「お風呂場でころんじゃったりしたら危ないから、ゆっくり歩こうね。」


畔華ほとりに腰の辺りを支えられながら浴場へと入る。

肌と肌を隔てていた服がないせいで、感覚がダイレクトに伝わり緊張してしまう。


「頭から洗ってあげるからね。

さ、目を瞑って〜。」


椅子に座らされ、私の返事を待つ事なくシャワーで髪を軽く洗われた。


その流れでシャンプーも始まる。


「綺麗な髪、サラサラで滑らかで…」


その恥ずかしい感想は辞めてくれないかな。

その言葉と髪の触り方から、邪な感情が伝わってくる気がしてちょっと嫌なんだ。


「私も髪の毛伸ばそうかなぁ…

っと、よし流すよー。」

「ん…」


泡が流れる時、私がいつも使ってるシャンプーと香りが違う事に気づいた。


私達姉妹はシャンプーを個人で選んで買ってる、私は特に気にしないから安い奴で適当に選んでるけど2人は違う。


私のはもう殆ど入ってなくて、ドジった日に新しいのを買わなくちゃいけなかった。

少ないと思った畔華ほとりが、今回だけ厳選した少しお高めのシャンプーを使ってくれたんだろう。


あの父親が間違って使って1週間口を聞いてもらえなかったシャンプーを私に使ったのだ。


「いいの?」

「何が〜?」


リンスを髪に浸透させている畔華ほとりは私の言ってる事がわからない、って反応だ。


「このシャンプー、父さんに使われて怒ってた高い奴でしょ?」

「あ〜、別にお姉ちゃんならいい。

今までのお礼…には全然足りないけど、少しでも返せるように、ってね。」

「…ありがと。」


シャンプー安物で済ませてた私だけど、内心では少しだけ気になってた。

一回だけ使わせてくれないかなぁ、なんて思ってて、当たり前だけどコッソリ使うわけにもいかないし、その時には難しい時期で会話は減ってたから頼めなかった。


最後にリンスを流して洗髪は終了。


「洗ってくれてありがとう、体は自分でやーー」

「次は体洗っていくね!」


嘘やん…

普通の洗いっこって頭だけだと思ってた、今は体も洗うんだなぁ…


だが絶対に拒否させてもらう。


「体は自分で洗う。」

「え〜。」

「これだけは譲れない、自分で洗う。」

「むぅぅ、わかったよ…」


渋々、泡立てたボディタオルを渡してくれた。


「私は髪洗ってよっと。」


やっぱり細くなってる。


体を洗っているとそう思った。

絶妙に嬉しく感じたけど、健康的な痩せ方じゃないのは間違いない。


「シャワー使っていい?」

「あと足だけだからいいよ。」


目を瞑りながら聞いてきた、私からしたらそんなの気にしないで使っていいと思うんだけどな。


そのまま足を洗い、シャワーを受け取って泡を流す。


「先に湯船入ってていいよ。」


ガラッ


「おっと、流石にギリギリだ」。」

「私はもう洗い終わったから此処使って。」


私がちょうど洗い終わったところで菁華すずなが来た。

相変わらずのスタイルの良さで、鏡に映る自分と見比べて落ち込んでしまう。


ここまでスタイル良い姉が居ると、逆に嫉妬する気も起きないよね。

ほら遺伝子は一緒だし、食べてる物もほぼ一緒、なのになんで大きさに差が出るのだろうか。


「はぁ…」


このあとは一緒に湯船に入る事になるだろうし、出来るだけ足を伸ばしてリラックス。

ゆっくりお風呂に入るのは久しぶりだ。


できれば1人で入りたかったけど、まぁ仕方ない。


「入るね〜。」


身体を洗い終えた畔華ほとりが私に寄りかかる形で入ってくる。

その時さりげなく束ねられていた私の髪を一部だけ解いて触っている。


「今日この瞬間だけは洗う時間が短くなるし髪が短くてよかった、でもお姉ちゃんみたいに伸ばしてみたい気持ちもあるんだよね。」


さいですか、私の場合は忙しくて切るのが面倒だっただけで特に思い入れはない。

いっそのことバッサリ切って短くしても良いかもしれないな。


「どうしたらいいかな?」

畔華ほとりの好きにしたら良いと思う。

ただあまり長くしてなかったから、しばらくの間は少し違和感あるかも。」


私はある程度小さい頃から伸ばしてたから気にしてなかったけど、髪を伸ばすのってケアとか大変だって言うよね。

髪の寿命は4.5年ぐらいだとも聞いたことある。


だからまぁ、姉と同じくらいの長さがちょうど良いんじゃないかな。


「さてと、私も入ろっと。」


菁華すずなが入るなら、


「じゃあ、私は出ようkーー」

「ダメ、一緒に入るの。絶対に。」


…はい。


畔華ほとりに少し前に行って、って言ってるけど菁華すずなも前に座るつもりなのかぁ…


栞華しおりも少し前に動いて欲しいな。」

「私も?」


なるほど、そう言うことか…


「温かいね。」


私を抱く様に湯船に入ってきた。

つまり畔華ほとりが私に寄りかかって、私が姉の菁華すずなに寄りかかってる。


思い出す幼い頃の記憶。

この家に引っ越す前、家族5人で住んでた少し狭いアパート、姉妹全員でお風呂に入ったときと同じ窮屈さ。


「懐かしい…」


と感じるのとほぼ同時、背中に当たる姉の体に少しだけ嫉妬した。


「昔はよく3人で入ってたもんね。」

畔華ほとりが頭洗うの怖いって泣いた事があったね、確か栞華しおりが抱き締めて私が洗ってあげたんだったかな?」

「恥ずかしいこと思い出させないでよ!」///


昔話を聞いていると、なんだか心まで温まっていく気がする。

疎遠になってただけで私は2人と仲良く過ごしたかったのかもしれない。


「…!

重い…」


後ろから私の肩に顎を乗せてきた。


「これからはずっと3人で入るからね。」


そんな事を言っていても、きっと一時的な物だ。

でもそうだとしても嬉しく感じたのは意外と心地良かったからだろう。


栞華しおり?!」

「お姉ちゃん?!」


あー、やばい。

そうだよ、私あまり長風呂しないのに、今日は結構長く入ってて…


「熱い…」

「す、すぐ上がるから!

畔華ほとり!常温の水持ってきて!」

「わかった!」


完全にのぼせとる…


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次回 眠れぬ夜


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