姉と妹の後悔

〜姉〜


私は妹達と仲が悪くはない。

朝に顔を合わせればおはようぐらい言うし、家の中でが険悪な雰囲気って訳ではない。

他の妹が居る友達から聞くのは喧嘩話ばっかり、それを考えれば、


普通に仲の良い姉妹、だと思っていた。


強いて言えば、全員が悩む事が多い年齢で会話が少ないぐらいだろう。

両親が海外に行くと言った時も、私を含めた姉妹は誰も反対しなかった。家の管理も家事も問題なくできていた。


いや、栞華しおりに押し付けていただけだった。




「ねぇ、まだ帰ってこないの?」

「確かに少し遅いかもね、連絡はした?」

「してない、しといて。」


久しぶりの会話は少しだけ冷えていた。

畔華ほとり栞華しおりとの接し方が少し前からわからなくなってるみたい、私とはそんな事がないのは不思議だ。


「でもどうしたんだろ。」


今日は栞華しおりの帰宅が遅かった。

いつもなら夕飯を作ってるか、既に作り終わって夕飯を食べている時間帯。


「…出ないな。」


栞華しおりは私達と会話する事はあまりない、最低限のやり取りだけ。

でもこんな風に連絡が取れなくなる事はなかった。


「……」


嫌な予感がする。

どうしてか私自身もわからないけど、栞華しおりが居ない事が不安だ。


「学校にも掛けてみよう。」


トゥル…ガチャ


『もしもし。』


呼び出し1回で繋がった。


「えっと西川にしかわです。

妹の西川栞華にしかわしおりの事なんですが、」

『…!少々お待ちください。』


え?


『………!』

『………!』


私はまだ栞華しおりの名前しか出してないのに電話の声は焦っているように聞こえ、焦っているのか保留にもせず電話の向こうの声がうっすらと聞こえる。

電話の向こう側は内容までは聞き取れないが揉めているような声だ。


『ーーする!』

『待て!』

『もしもし、西川にしかわさん?』


「は、はい。」


聞こえた声は私の担任の声、背後では怒号のような声も聞こえており不安が募っていく。


『落ち着いて聞いてね。

西川栞華にしかわしおりさんは病院に居る。』

「え?」

『くわしい事情はわからないけど、飛び降りたみたいなの。』


病院、飛び降りた…?

大きすぎる情報に頭の中で処理ができない、先生の冗談か夢なんじゃないかって思いたい。


僅かに残る冷静な部分が事実だと告げている。

大人がそんな悪質な冗談を言うわけがない。


『大丈夫?』

「え、はい…

どの病院に運ばれたんですか?」


私が私じゃないみたいだ。

アニメやドラマを見ているような、そんな感覚。


『野津病院よ。』


ーーーーー


そこまで遠い病院では無かったけど、バスを乗り継ぐ時間はない。

タクシーを捕まえて畔華ほとりと一緒に病院へ向かう。


「「……」」


私の様子に何かを感じ取ったのか畔華ほとりは理由を聞いてこなかった。


西川にしかわです、妹が運ばれたと聞いたのですが…」

「どうぞこちらへ。」


事務員に個室へと案内された。

中には医師と看護師数名、そして…


栞華しおり…」


酸素マスクをつけた栞華しおりがベットに横になっていた。

医師達は部屋に入ってきた私達を見て話を始めた。


「…特に目立った傷もなく命に関わる事はないかと思われます。」


よかった…


「ですが栞華しおりさんが何故このような選択をしてしまったのか、その原因を取り除かない限りは油断できないでしょう。」


その一言に心臓が締め付けられるように痛くなった。

そうだ家ではそんな様子は無かった、何かに悩んでる様子も無かった、なんで栞華しおりはーー


「あっ…」


私は気づいた。

家でも学校でも、最後に栞華しおりの笑顔を見たのはいつだったっけ?


小学生と中学生頃は、少ないながらも友達が居たのは知ってるし、笑うこともあった。

だけど受験してからは…


「あっ…」


そんな暇、無かったんだ…

掃除、洗濯、料理、休みの日も関係なく全部やってくれた。


そんな栞華しおりに私は感謝する事なくやってもらうのが当たり前になっちゃって、きっとそれがストレスになってたんだ…


「ごめん、なさい…」


全部私のせいだった…



〜妹〜


私は姉達に嫉妬していた。

自覚したのは中学生になる少し前、私以上に勉強も運動もできる姉達。

でもそれは姉の1人、栞華しおりがだんだん成績が落ちてきた事で嫉妬から優越感へと変わった。


栞華しおりと比べれば私は頭が良い、栞華しおりと比べれば私の方が運動ができる。


両親が居なくなって私は受験がある姉に家の事を全て押し付けた。

どうせ私より何もできないんだから、って。


内心どう思っていたかはわからないけど、栞華しおりは文句を言わなかった。全てを押し付けてそれが当たり前になったが栞華しおりは面白く無かっただろう。


私達は仲の悪い姉妹だった。


でも私はもう1人の姉である菁華すずなには絶対に勝てないと察していた。

察してしまったから栞華しおりを見下して自分を保った、私はできない子じゃ無い、だって姉の栞華しおりの方ができないから…




「…何か食べる?」

「カップラーメン食べるからお湯沸かして。」

「わかった。」


栞華しおりが入院した。

理由はわからないけど学校で飛び降りたらしい。


「勉強道具持ってくる。」


病院から戻ってきた菁華すずなは様子がおかしい、誰が見ても弱ってるのがわかる。


「…はぁ。」


まぁ、それは私もなんだ。

いくら見下して仲が悪かったとはいえ、病院のベットで眠る姿を見て何も感じない訳じゃない。


なんとなく悪い事をしてしまった気分になり、早く離れたくなった。


「チッ、ノート無いし…」


こういう時に限って予備すらない。


確か小学生の頃、背伸びして大人が使うようなノートを買って仕舞ってたような…


「どこだっけな。」


違う、違う、違う…


「やっと見つけた。

ん?」


探していたノートと一緒に出て来たのは小学生の時に書いていた絵日記。

なんとなく開いてみた。


この日記は微妙な日付から始まる。


6月7日

『今日は学校でーーーー』


日記の内容は楽しい学校生活が書かれていた。

7月 8月 と続いていく。


9月2日

『今日はテストが難しかったです。

もっとお勉強を頑張らないとと思いました。』


ギリッ…


嫌な物を読んでしまった、私の劣等感が刺激されイライラする。

それでも私の読む手は止まらなかった。


9月6日

『テストは62点でした。

お母さんに見せるのが怖くて泣いちゃった、しおりお姉ちゃんがお勉強を教えてくれました。』


…思い出した。


9月10日

『お姉ちゃんのおかげで問題が解けるようになった。

しおりお姉ちゃん大好き、ありがとう!』


お姉ちゃんは優しかった。

聞けば勉強を教えてくれて、友達と喧嘩すれば話を聞いて解決してくれて、1人部屋が寂しかった時は菁華すずなも誘って3人で寝てくれた。


少し考えればわかる事だった。

お姉ちゃんは私を優先したせいで、自分の勉強ができなくなっちゃったんだ。


その恩を忘れて私は見下した。


「あぁ、ぁぁぁ…」


1つ思い出してしまったら、お姉ちゃんと過ごした記憶がドンドン溢れ出てくる。


「うぁぁ…」


楽しい思い出が思い出される度に、お姉ちゃんとまた過ごしたいという気持ちが強くなる。

今すぐ謝って仲直りしたい。


でもお姉ちゃんは病院だ。


畔華ほとり、大丈bーー

畔華ほとり?!?!」

「姉さん…」


抱きしめられ暖かくて心地よいと感じるのと同時に、昔お姉ちゃんに抱きしめられた事を思い出して涙が更に溢れてくる。


「私はぁ、お姉ちゃんに酷いことしてぇぇ…」

「明日、栞華しおりが起きたら一緒に謝ろう、きっと大丈夫だから…」

「うん…」


でもお姉ちゃんは目を覚まさなかった。

何日も何日も、原因は不明、私も姉さんも不安で眠れない日々が続く。


ガサガサ…


そんなある日の夜中、寝不足で気絶するように眠った私は物音で目が覚めた。物音はリビングから響いている。


「…何してるの?」

栞華しおりのご飯が食べたくて…」


ぐちゃぐちゃになったキッチン、お皿の上には料理らしきナニカ。


「でもおかしいの…

栞華しおりのご飯は何回も食べてたはずなのに、全然同じ味にならないの…」

「……」


姉さんはもう限界だ。

そう思ってる私も、もう限界が近くて、お姉ちゃんの部屋で過ごすことが増えている。


お願いだよお姉ちゃん、私がおかしくなる前に起きて欲しいよ、また一緒に…






だけどお姉ちゃんが目を覚ましたのは1ヶ月後だった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次回ついに帰宅




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