第2話 抱きしめられる

「結果は良好です。

これなら明日無事に退院できそうですね。」

「…はい。」


目が覚めてから6日、リハビリと説明の毎日を送った私は車椅子での生活なら全く支障の出ない程度まで回復した。


病院で生活していて気づいたけど、なんか看護師さん達の私を見る目が不憫な子を見る目なのはなんでなのだろうか。

何回か聞いてみたけど、無言で抱きしめられて頭を撫でられたりしただけで教えてくれなかった。


「退院が決まってよかったですね。」

「そう、ですよね。」


車椅子を押してくれている看護師さんに話しかけられる。この人は殆ど私の専属みたいになってる看護師さん、目を覚さない私を面倒見てくれていたらしい。

正直私のドジのせいで大事になってしまって申し訳ない気持ちがある。


「いつでも、来て大丈夫だよ。」

「え?」


また抱きしめられた。

本当になんなのこれ…


「ごめんなさい、また抱きしめちゃって…」

「いえ…」


わからない、なんでそんな行動をしたのか全くわからない。

手厚い看護が私にとって少しストレスになりつつあった。


だけどストレスはそれだけじゃ無い、それは時間的にそろそろ起こるだろう。


トゥルルル


「はい、はい…

わかりました、伝えます。」


看護師さんの仕事用の電話が鳴った。

私と話す時より声が1段階下がって冷たい印象を与えてる。


「今日も来たみたいだけど、会えそう?」

「はい、大丈夫です。」


私のお見舞いに誰が来たみたい、今日も、って言っていたし菁華すずな畔華ほとりの2人だ。

私がまだ目を覚ましていない時から毎日来てたらしい、少し怖いから毎日は来なくていいって言ったんだけど…


『『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』』


って2人で壊れたラジオみたいに謝ってきて、あまりの恐怖に私も涙出てきちゃって、結局毎日来てもいいと私が言うまで治らなかった。


「嫌なら追い返すよ?」

「いえ、会います。

少し怖いですけど家族ですから。」


いやあの時はマジで怖かったけど家族だし、元を辿れば心配かけちゃったのは私だからね。


微妙な顔をしてる看護師さん。

多分だけど、ごめんなさい事件の事を思い出して、あの時みたいな面倒が増えるのは嫌だったから拒否して欲しかったんだろうな。


「迷惑かけてしまって、すいません。」

「この病院にいる人は誰も迷惑だなんて思ってないわ、だから栞華しおりちゃんが謝る必要もない。」


私の個室から別の場所へと向かう。


動けるようになってからは特別室みたいな場所で2人と会ってる。個室には家族でも入っちゃいけないらしい。


「入りますよ。」


ガラッ


栞華しおり!」「お姉ちゃん!」


デジャブを感じる。


「退院できるって聞いたよ、これで私達は一緒だね!」

「そうだね。」

「両親の部屋を片付けて3人同じ場所で寝れるようにしたよ、嬉しい?」

「そうなんだね。」


反応が少し雑じゃ無いかって?

だって私が喋ると急に謝り始めるんだもん、しかも話してる内容は全然違うのにそうなるから何がキッカケになるかわからないの。


凄まじい量の地雷が埋まってる。


謝り始めたら素早く対応しないと最低でも30分はそのままだから、基本的に会話は受け身になったほうが楽なんだよね。


「帰ったら何か食べたいのある?

料理って意外と難しくてまだ上手くできないんだ、お姉ちゃんは凄くて…

どうやったら上手になるかな?」

「うーん、私はずっとやってたからかな。」

「ぇ、ぁぁごめんなさい!」


これもダメだったか…


「別に謝らなくていい、好きでやってた事だから。」

「で、でも…」

畔華ほとり、私の料理は美味しかった?」

「美味しかったよ…」

「ふふ、良かった。

そう思ってくれてたってだけで私は嬉しい。」


今度は固まった。

だけどなんとか謝罪は止めることに成功、やったね。


また謝罪モードになられても困るから右手で引き寄せて片腕で軽く抱きしめる。


そしてさっきから強い視線を向けてくる姉を見る。


「美味しかったよ栞華しおり。」

「それは良かった。」

「中でも1番美味しかったのはオムライスかな。

私の好みもあると思うんだけど、鶏肉じゃなくてソーセージで作ってくれた奴が本当に美味しくて!

それに私の嫌いなマッシュルームを抜いてくれてて、栞華しおりこんなに私のこと考えてくれてたのに私は栞華しおりのこと全然考えてなくて…」


…この稀に早口で長文を言うのもなんでなの?

話していくうちに目から光が消えていくから本当に怖いの。


「大好きだよ。」


どうしてそうなったのだろうか、話の流れが掴めない。


「そう…」

「…!」


なんかショック受けた顔してるけど、私にどうしろっていうんだ…


栞華しおりには酷いことをしてしまった、許してくれるとは思ってない。

だから家に帰ってからの行動で見せるね。」


そう言って畔華ほとりを抱いてる腕とは反対側に来て肩に顔を埋めてきた。


見せてくれる行動ってコレだったりしないよね?

仮にこの行動だとしたら、何を伝えようとしてるのかちょっとわからない。


「髪の毛がくすぐったい。」

「ごめん…」


菁華すずなが私より少し短い髪を後ろで一纏めにした。

相変わらず顔がいい、キリッとしてクールな美人顔、同性でもそう思うぐらいなので男子達に告白されることも多いだろう。


だけど今は目の下に隈が目立ってしまっていた。


栞華しおりの匂いが安心する…」

「そっか…」


匂いって言うの嫌だなぁ…

はぁ、明日の退院が不安だ。



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次回は姉妹の視点です


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