伊勢崎クウカは復讐する
ひなみ
第1話
「あ、あ……。よければ私とお、おつきあいを」
「はぁ? なんで俺がお前みたいなブサイクと付き合わなくちゃいけねーんだよ。おいおい、これもしかして罰ゲームか?」
ぎゃははと
帰り道、一人泣きながらもクウカは憤っている。
容姿がよくないのは両親譲り。それはもうとっく自覚しているし、そもそも好きになった人が悪かった。そうは言っても、何もあそこまでこき下ろされる筋合いはない。
帰宅し、大好きな乙女ゲームに癒されていてもイライラだけは収まらない。
よく食べよく眠り、ごろんごろんと過ごすこと二日。
ついに彼女は生まれ変わる決意をした。
「伊勢崎っちそれマジで言ってる?」
「私にはやっぱり無理かなぁ……」
「いや待った。このチャンネル見てみ? めっちゃ化けるみたいだし、もしかしたらいけんじゃね?」
クウカは、クラスの派手派手女子に相談をすると
来る日も来る日もスパルタ方式で教わり、すっかり派手子とは戦友のように仲良くなった。
そして彼女の本気はそれだけでは留まらない。
「昨日の伊勢崎さん見た?」
「やばいわ。ガチだなあれ……」
クウカは学校から家までの道を何往復もランニングし始めた。
もともと贅肉がつきやすい体質であったため、顔だけよくなっても振られる可能性があることを危惧していた。
それとあわせて、昼のお弁当を従来の半量とする大英断も共感を呼んだ。
「いせちゃん、この服とか可愛くない?」
「とりあえずこれ、読んでみたらいいんじゃないかな」
「暇な人皆でマック行って考えてあげようよ!」
クウカの必死さを目の当たりにした、当初は小馬鹿にしていたクラスの女子達も気付けば彼女のよき
「リョータ君、あたしと付き合ってください!」
クウカ二度目の告白。
外見だけでなく内面もこの上なく磨かれ、彼女は自信という光り輝くものを手に入れていた。
もしかすると、自分の名前を覚えているかもしれないという懸念はあった。けれど彼は「そんな名前の人間、微塵も知らない」と言ってのけたのだ。
クウカはその態度に若干むかっ腹が立ったものの、むしろ好都合だとほくそ笑んだ。
もちろんクウカはやすやすと体には触れさせない。
「焦らないで。一ヵ月我慢したら、リョータ君の好きにしていいから……♪」
その言葉を餌にして惑わせ続けると、彼を完全に生殺し状態にさせることに成功した。
表面上二人の仲は接近している。そのおかげで寝ている間の恥ずかしい写真や、歯の浮くようなセリフ満載の通話録音、黒歴史まっしぐらな痛いポエムなどを数多く手に入れることができた。
そうして迎えた約束の一月後、クウカはリョータを教室に呼び出した。
歩く時の無駄にやかましい足音や、遠くからでもわかる耳障りで軽薄な笑い声をなんど聞いてきただろう。忌々しいとしか言いようのない記憶がすっかり頭に刻み込まれてしまった。
――けれど、すべてこの瞬間のための代償だと思えばお釣りが来る。
「リョータ君、あたしまだ話してないことがあるんだ。ねえ聞きたい?」
「え、なになに? 俺、クウカちゃんのことならなんでも知りたいよ!」
「わあ嬉しいな。なんでもかぁ……♪」
クウカは厚手のクレンジングシートを両手ににっこりと微笑んだ。
女子達が周りを取り囲んでいることもあってか、浮かれてだらしなく頬を緩ませるリョータはまだ知らない。
クウカの
伊勢崎クウカは復讐する ひなみ @hinami_yut
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