第11話 罪 4

アスターの拒絶に二人は黙って受け入れる。


当然だ。


本当なら今すぐこの二人を殺してやりたいところだが、ブローディア家の使用人であるためアスターにその権限はない。


二人の処分を決めることができるのは当主であるサルビアだけ。


「アスターさん。この二人の処分は私が決めることになっています」


その言葉でバッとマーガレットの方を向く。


マーガレットはアスターの考えていることがわかったのでそう言う。


「昨日限りでこの二人は公爵家の使用人ではありません。これはあくまで私からの提案ですが、この二人をこちらで働かせるのはどうですか」


「は?」


何を言っているのだ。


こいつらはこの町をこんな事にした呪術師達の協力者だ。


何でここで働かせないといけないんだ。


アスターはマーガレットを鬼のような目で睨みつける。


マーガレットはアスターの反応に怒ることも注意することもなく当然の反応だと見逃した。


マンクスフドはそんな態度をとるアスターを注意しようとしたが、マーガレットが手で静止し口を開きかけたのを閉じた。


「言いたいことはわかりますが、彼らは自ら犯した罪を償わないといけません。ですが、どうしても嫌だと言うなら、彼らへの罰をどうするかはアスターさんが決めてください。殺すのも奴隷にするのも好きに決めてください。アスターさんの選択を尊重しましょう」


選択肢を与えているようで一切与えていない。


マーガレットはアスターが二人を受け入れさせる為にわざと決めさせようとする。


アスターに人を殺すことを命じたり奴隷にさせたりすることができないと見抜いた。


「決めるのは今すぐでなくて大丈夫です。ですが、できれば一週間以内に決めてください」


「……わかりました」


アスターが承諾するとマンクスフドに二人を連れて行くよう指示する。


「(本当にあの方はお嬢様なのか)」


この部屋にいた騎士達はいつもと違うマーガレットの態度に驚いた。


あんな冷たい声を出す人なんて知らない。


怖かった。


まるで別人みたいだった。


今回の出来事がマーガレットをこんな風に変えてしまったのか。 


このまま更にマーガレットが変わっていくような気がしてどうしようもない不安に襲われる。


「お前達、早く行くぞ」


「はい」


扉の向こう側にいるマーガレットを気にかけながらその場から離れる。




「アスターさん。貴方にもう一つ聞かなければならないことがあります」


「(そして貴方の気持ちを確認しないといけない)」


これからのマーガレットの計画にアスターは必要不可欠な存在になる。


今の内に味方にしておきたい。


「何でしょうか」


「今回の黒幕についてです。アスターさんには何が心当たりがありますか」


黒幕の正体には気づいているが、アスターはどうなのか一応確認しておく。


アスターは暫く考えこんだが思いつかなかったのか首を横に振る。


「申し訳ありません。心当たりがありません。一体誰がこんなことを」


「それは私にもわかりません。……狙われた理由に何か心当たりはありますか」


申し訳なさそうに言い、少し間を置いて狙われた理由に心当たりはないか尋ねる。


犯人に心当たりがなくても、この町には何があるのかもしれないから狙われたのではと考え尋ねた。


素晴らしい演技だ。


もし、マンクスフドがこの部屋にいたら犯人に心当たりがあるのに、知らないよう振る舞い今気づいたかのように尋ねる姿を見たら「本当に貴方はお嬢様ですか」と聞かれるだろう。


それくらい完璧に演じていた。


「ーーすみません。心当たりありません」


「そうですか。では、探してください」


マーガレットの発言にえっ、と顔をする。


「理由がわかれば黒幕にいずれ辿りつける可能性が高まります。私は呪術関係を調べるので、これはアスターさんにお任せします」


「わ、わかりました」


一瞬驚くもすぐに「そうだ。黒幕に必ず罪を償わせなければ」とやる気を出す。


「では、連絡方法を決めておきましょう」


「必要ありますか?」


手紙が届かなかった理由もわかり解決した。


今更変える必要はあるのかと疑問に思う。


「当然です。アスターさんはこの町にいる全員のことを調べたことはありますか」


「いえ、ありませんが、だいたいのことは把握しています」


「でも、彼のことは把握できていませんでしたよね」


信頼して手紙を託した人のことを言うと  はばつの悪そうな顔をする。


「そして、それは私にも言えることです。私は二人がこんなことをする人とは思ってもみませんでした。もし、まだ黒幕の協力者がいたらどうしますか。もっと被害が大きくなるかもしれません」


マーガレットの言葉にその通りだと気づく。


アスターは自分はまだ甘い考えをしていたのだとマーガレットに言われるまで気づかず恥ずかしくなる。


「今は誰も信用できません。必ず誰にも気づかれずに、私達自らでやらなければなりません」


「はい。おっしゃる通りです」


「では、決めておきましょう。但し、三か月に一回は必ず会いましょう。直接会って話すのが一番確実ですから」


「はい。場所はどこにしますか?」


「誰もこなさそうなところはありますか?」


アスターは暫く考え混むもいいところは思いつかず「すみません」と謝る。


「なら、場所は後回しにしましょう。この町にはまだいますので、戻るまでに決めておけば大丈夫でしょう。問題は連絡手段をどうするかですね」


「はい」


中々いい方法が思いつかず暫く沈黙が続いたが、アスターが何か思いついたのか先に口を開いた。


「マーガレット様。こういうのはどうでしょうか。毎月花を贈るのは。マーガレット様が花好きなのは有名です。お礼として贈るのはどうでしょうか。ただ、私一人だと何か暗号があると思われかねないので、子供達も参加させるのです」


「どうやってですか?」


アイディア自体悪くないが、それでは結局間に誰かを挟む事になる。


だが、それ以外連絡手段はない。


「子供達に紙で花を作らせるのです。公爵家への感謝の印として。そして私が贈る花が何色かによってこの町の状態を伝えるのです」


「……わかりました。それでいきましょう。では、花の色を決めましょう。多すぎては混乱するので三つにしましょう。危険が迫ったとき、緊急の報告があるとき、協力者又は黒幕を見つけたときの三つだけ決めましょう。その三つは必ずそれ以外のときには入れないようにしましょう」


「はい。わかりました」


危険が迫ったときは紫。


緊急の報告は青。


協力者又は黒幕を見つけたときは赤。


但しこれはアスターがマーガレットに知らせるときだけ。


マーガレットの方は三か月に一回会うときだけ報告することになった。


使用人達の何人かがマーガレットに嫌がらせをしているのには今は気づいているが、まだ他にもいるかもしれないので、信用できるものがいない今は何も出さない方がいいと判断した。

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