第12話 罪 5

トントントン。


「私だ」


夜になりサルビア達は呪術の捜索を一体やめ帰ってきた。


この町に滞在する間あてがわれたマーガレットの部屋を訪ねる。


「お父様。どうぞ中へ」


「ああ」




「どうぞ」


コップに水を入れ机の上に置く。


「ありがとう」


そう言うと一気に飲み干す。


相当喉が渇いていたみたいだ。


「それでお父様どうでしたか」


「マーガレットが言ったようにこの町には呪術がかけられている。まだ町の半分も見れてないがそれでも三つ見つけた。間違いなく町全体にかかるようにしてある」


「国王への報告はどうしますか」


もうすぐ王宮でパーティーがある。


パーティーの準備で大変なのに、もし呪術のことを報告したらそれどころではなくなるかもしれない。


マーガレットにとってそれは困る。


だが報告しなければそれはそれでブローディア家があらぬ疑いをかけられるきっかけを与えてしまう。


今頃、配達の男シャガがアネモネの部下に報告しているだろう。


ブローディア家が町に訪れ呪術のことに気づいたと。


シャガは報告をしたらアネモネの部下に殺されるだろう。


自分達に辿りつく可能性があるのに生かしておく理由はない。


証拠を消すのに一番手取り早いのはこの世から消すこと。


まぁ、アネモネの唯一の誤算はシーラに髪の色を見られ既に正体がばれているということ。


「(さて、どうするべきか)」


ブローディア達が国王に報告しなければ、それらしい理由をつけてアネモネが報告する。


少しでも選択を間違えれば、また全員殺されてしまう。


もう一度やり直せるかわからない今失敗するわけにはいかない。


何が正解かがわからない。


サルビアがどうするのか、答えてくれるのを待つ。


ブローディア家の一員として当主に従わなければならない。


「報告すべきだろう。配達人があの子に接触したらこのことを知るはずだ。国王の耳に入るのも時間の問題だ。本人から聞くのと他人から聞くのでは心象はかなり違う。だが、国王にはどこまで言うか悩んでいる。この町をこんなことにした元凶の子のことを言うか、言わないべきか、どうするのがいいのか」


「言わないほうがいいかと。言ったところで何もできません。証拠はありませんし。それに下手をすれば国家転覆を企んでいると言いがかりをつけられるかもしれません」


「確かにその通りだな」


普段のサルビアならそのことに気づくことだが、今は何も考えられないのか子供でも指摘出来そうなことばかり言う。


自分の領土で呪術が使われたんだ。


混乱して頭が上手く働かないのだ。


もし、これが最初の人生ならマーガレット自身サルビアよりひどく取り乱していただろうし。


そうなって当然だが、マーガレットにはサルビアの力が必要なのでこのままでは困る。


「明日残りを確認したら、私はそのまま王都へ向かう。この町を浄化するには神官の力が必要だ。聖女がまだ誕生してない今はそうするしかないだろう」


聖女。


国王と同等の力それ以上の力を持っていると言われる存在。


全てを清める力を持つ。


民に愛される偉大な存在。


聖女になれるのは唯一人。


その力は魂によって引き継がれる。


聖女がその地に存在しないときは聖女の代理人として選ばれたものが神殿を管理する。


だが今は聖女の代理すら見つかっていない。


そのため神官に助けを求めるしかない。


「マーガレット。悪いが私が神官を連れてくるまでこの町のことを任してもいいか」


「はい。お任せください」


「頼むぞ」


「はい」


サルビアはマーガレットの成長を喜ぶと同時に申し訳なく思う。


自分の不甲斐なさで本来の役目を押し付ける羽目になってしまった。


夜も遅いからと寝るように言い部屋から出て行く。




「お父様。どうか気をつけてください。王都まで何があるかわかりませんので」


「ああ。わかっている。マーガレットの方こそ充分気をつけるのだぞ」


「はい」


あれから残りの町を見て回ったサルビアは呪術の陣をさらに五つ見つけた。


詳しく捜索する時間はないので、とりあえずこのことを国王に知らせに行く。


サルビアが国王に知らせ神殿に協力を要請し神官達がこの町に来るまでは最低でも二週間はかかるだろう。


そこから浄化するとなると一体どれくらいでこの町にかけられた呪術は解けるのだろうか。


神官達がくる間何としてでも町の人達をこれ以上死なせるわけにはいかない。


それには使用人達の力が必要不可欠であるが、何人かはマーガレットを馬鹿にしている者達なので上手くサボってもバレないだろうと働かない者達がいた。


今までのマーガレットだったら気づかなかっただろが、二度死んだため人を観察するのが癖になった今ではすぐに気づいてしまう。


「これ以上このままにしとくわけにはいかないわね」


使用人達を横目で確認し、手始めに軽いお灸を据えることにした。


とりあえず、近くにいた使用人に全員を集めるよう指示する。


これから、彼女達がどんな顔をするか想像ができついクスッと笑ってしまう。




「既に知っている者もいると思うけど、この町に呪術がかけられているの。今、お父様が国王にこのことを報告に行かれて神官の方々に助けを求めに行っているわ。私達はそれまでここを守らなくてはならない。皆、力を貸してくれるわね」


「はい。もちろんです」


何人かはこの町の為に力を尽くそうとしているが、やはり彼女達は一瞬嫌な顔をし出来るだけやらずにしようとしているのがわかった。


「ありがとう。早速お願いするわ。今回は私が皆の役割を決めたわ。それぞれの得意分野で頑張ってもらおうと思ってね」


そう言って役割を言っていく。


「……最後に貴方達にはリュミエール救済院の担当をお願いします」


マーガレットがそう言うとえっ、と目を見開く。


この町で最も被害に遭った場所。


そして最も酷い状態の場所。


彼女達からしたら絶対に行きたくない場所。


「貴方達はいつも私の世話を完璧にしてくれるでしょう。だから、貴方達ならここを任せられるわ。大変だと思うけどお願いね」


「……はい」


顔を真っ青にして頷く。


どれだけマーガレットを馬鹿にしてもブローディアは公爵家の一人娘。


生まれた時から高貴な存在。


そんなマーガレットからの命令を無視することはできない。


今までは屋敷の中で、それもマーガレットが鈍感だったから何とかバレずに済んでいただけ。


もしここで何もできない、やらない、なんてことをしたら彼女達は即刻解雇される。


マーガレットの身の回りのことももしかしたら今までやってなかったのではないかと疑われ、使用人達はこれまでのことを調べるだろう。


もしばれたら彼女達はこれから働けなくなる。


公爵家の一人娘にそんなことをした使用人をどこの貴族が雇うのだろうか。


彼女達に残った道はただ一つ。


リュミエール救済院できちんと働くこと。




マーガレットは使用人達に仕事にうつるよう命じ後ろ姿を眺める。


「これくらいで終わると思ったら大間違いよ。貴方達の地獄はこれからよ」


彼女達の後ろ姿を眺めながら冷たく言い放つ。

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