第5話 出発

「では本日の夕暮れに出発しましょう、各自準備をお願いします。」


 王狼が出発時間を決める。

 そこで一度解散となった。


 おれは一度家に戻ることにした。

 ノエルに数日は戻らないことを伝えるために。

 そのまま、家へと歩き出した。


 ―――

「ただいまー。」


 ノエルは庭で洗濯物を干していた。


「あら、おかえりなさい。任務は?」


「今日の夕暮れに出発するよ、数日は戻らないから、その間ご飯は要らないよ。」


 それと、聖王国辺境の遺跡に行くこと、災渦の獣が関わっているかもしれないことを話した。

 厳密にはノエルはギルドの団員ではない。

 しかし、ギルドの人達には良くしてもらっているし、ある程度の事情はノエルも聞いているため、分かってくれている。


「気をつけて行っておいでね、無事帰ってくるのを待ってるから。」


 少し寂しそうな、心配した顔でノエルが言う。

 自分の夫が未知の遺跡に調査しに行くんだ、もちろん危険もある。

 それを知った以上、心配せずにはいられないのだ。


「あぁ、もちろん。早めに終わらせて帰ってくるよ、ありがとう。」


 行ってくるよと伝えて、ノエルをぎゅっと抱きしめた。

 そして下から見上げてくる金髪の彼女にそっとキスをしたのだった。





 ―――

 遺跡には2台の魔装車で行くこととなった。

 魔力の入ったカートリッジと呼ばれるものがガソリンになっているこの車は、例え空になったとしても、新しいものに変えるか、魔力を注ぐことで再度充電されるという優れものだ。


 片方には雪、魔槍、疾風が乗り、もう片方には王狼を含む、調査団員が乗っている。

 普段ギルドの団員が4人も集まることはあまりないため今回はレアケースである。

 レアケースなのだが・・・


「ちっ。」


「ふんっ。」


「あはは・・・」


 車内の雰囲気は割と最悪だった。




 出発してしばらくして、疾風が雪に詰め寄る。


「ねぇ、雪君。最近ノエルちゃんとはどう?うまくいってる??」


 黄緑色の髪色をした自分より小さな彼女は、自分達の事を何かと気にかけてくれる。

 雪については、ギルド内での仲を取り持ってくれることも多い。

 ギルド内でも優しい方に入る彼女は、結構面倒見が良いのである。

 そんな彼女の優しさと面倒見の良さのルーツは帝都の軍に属していたころの先輩の影響だという。もっともその先輩はいつの間にか居なくなってしまったそうだが・・


「はい、お陰様で。」


 この前もキミナリ国に新しくできたスイーツのお店を教えてもらい、そこのおすすめだった、ちょこれーとを買っていったらノエルに滅茶苦茶喜ばれた。何やら今錬金国で話題のものらしかった。


「それは良かった、何かあればいつでも頼っていいんだからね。」


 ふふんと得意げな顔で胸を張る。

 頼ってばかりで申し訳ない気持ちはあるが、頼りどころがあるのは素直に助かるし、有難かった。


「ほー、お熱いところはいいですなぁ。」


「あら、僻み?貴方もさっさと見つければいいじゃない、顔だけはいいんだから。」


 疾風が褒めとも煽りとも聞こえる言葉をかける。


「あ゛?いいだろ。」


 そんな魔槍と疾風のやり取りを聞いてふふっと笑ってしまう。


「雪、今笑ったか・・・?」


 ギロリとこっちを見る魔槍の目はあまり笑っていなかった。


「ごめん、笑ってないよ、魔槍。」


 ふーっと不機嫌そうに息をつく魔槍に対して

「実際どうなの?」

 と少しまじめなトーンで疾風が追撃する。


 そんな彼女に珍しくどう返すか少し迷った後、

 遠い目をして「いいんだよオレは。もっと後で。」と答えた。


 それきり車内にはガタガタと道を走る音だけが流れていた。


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