第十一話 ドラゴン・スレイヤー
ドラゴンの襲撃を受けたことにより、翌日は野営地に留まることとなった。そして午前中に弔いと埋葬を済ませ、俺たちは召喚した家で一休みしているところだった。
「ジャック・アレオン君」
「お断り致します」
「な、何故だ!? まだ何も申してなかろう?」
「何となく分かるからです」
「お父様、これ以上のわがままはダメですわよ」
「リリアンまで! と、とにかく聞くのだ。
似たようなやり取りをつい最近した覚えがある。しかし国王陛下の勅命とあらば、聞かないわけにはいかないだろう。
「陛下、何でしょうか?」
「うむ。ドラゴンの肉についてなのだが」
「調理せよと?」
「それもそうなのだが、出来れば皆にも食わせてやりたいのだ」
せっかくの美味い肉もここにいる六人では食い切れないだろうし、冷凍保存するにしても量が多すぎる。持ち帰るにも途中で腐ってしまうのは必至だ。
それにドラゴンのブレスで消し飛ばされた兵士たちや、腹を引き裂かれて亡くなった女性使用人もいた。彼らに近しい者たちの悲しみは如何ばかりのものだっただろうか。
「つまり宴を催されたいと?」
「亡くなった者の弔いも兼ねて、な」
「そういうことでしたら反対は出来ませんね」
「引き受けてくれるか!?」
「ただし条件がございます」
「うむ。申してみよ」
「鱗を買い取って下さい」
「よいのか? オークションに出した方が高値で売れるのだぞ。むろん優先的に売ってもらえるならありがたいのだが」
ドラゴンの鱗は大きさや状態にもよるが、今回の場合は戦闘による損傷がほとんどないのでかなり高価な値がつくだろうとのこと。
尻尾の先の小さなものでも鱗一枚で金貨十枚以上、胴体部分の大きな物になるとまず間違いなく金貨五十枚以上になるらしい。
あの一頭から取れる鱗は、少なく見積もっても大小含めて二百枚はありそうだ。
なお、オークションではなく道具屋に叩き売った場合ですら、大きな鱗なら金貨二十枚にはなるという。
「手元に逆鱗も含めて五十枚くらいあればいいので、残りは全てお売りします。それをオークション出すなり報奨として使われるなりはお任せしますので」
「骨はどうする?」
「骨?」
「力の象徴として絶大な効果があるからな。骨も買い取って城に飾りたい」
「ちなみにおいくらで?」
「いくらなら売る?」
腹の探り合いかよ。運搬も俺の空間収納を使わざるを得ないだろうし、ここは吹っかけてみるか。いや、それよりも大事なことを考えついた。
「鱗も含めて、ドラゴン由来の品は全て王国が引き取ったことにして下さいませんか?」
「ん? どういうことだ?」
「俺の手元に貴重な逆鱗や鱗があると世間に知れると、俺本人はともかくアリスや家族が危険に晒される可能性がありますので」
「盗賊対策か」
「はい」
「ジャック……」
「叶えて頂けるなら、骨は金貨百枚でお譲り致します」
「む、そこはタダと言うとことではないのか?」
「陛下ともあろうお方のお言葉とは思えませんので、聞き間違いということにしておきます」
「強突く張りめ」
「ちょっとよく聞こえません」
鱗は手元に残す以外の全てを、金貨三千枚で買い取ってもらうことになった。全部で二百枚として、逆鱗と五十枚を差し引いた百五十枚の単価を金貨二十枚として計算したのである。
大きさや多少の数の増減は考慮しなかった。それでも王国に損はないからだ。
「それじゃ、スパッと切り刻んできますか」
◆◇◆◇
骨? 骨は後で繋ぎ合わせてもらうしかないな。カマイタチでスッパリいってるから造作もないよ、きっと。
腕や足は筋張って硬いとのことだったので、煮込んでおでんやカレーの具材にしようと思う。ただしそのままだと見た目が生々しいので、鱗や皮を剥いで冷凍保存に回した。
そこまではよかったのだが、現在俺とアリスは絶賛落ち込み中。一方の陛下と殿下はご満悦だ。何があったのかというと、そのままでは食えない腕と足の肉を除いて全く余らなかったのである。
残ったら冷凍保存して、アリスと二人で楽しもうと思ってたのに。そんな思惑を見透かして、陛下と殿下が勝ち誇った顔をしている。
「残念だったな、ジャック・アレオン君」
「うぅ……」
「あの人数で分けたのですから、余らなくても当然ですわね、アリス」
「はぅぅ……」
いい気味ですわ、と幻聴が聞こえてきそうだ。
ドラゴンの来襲で犠牲が出たとはいえ、総勢約二百人の大部隊である。いくら体長十メートルの巨体でも全員の腹を満たすほどの肉の量はなかった。
いや、確かに美味かったよ。陛下の情報通り柔らかくてジューシー、風味も最高で、これまで生きてきた中で食べた肉のどれも敵うことはなかった。僅差ではなく段違いの大差でだ。
ちなみに俺たち六人以外は外でバーベキューみたいな感じで大騒ぎになっていた。亡くなった人たちへの
一方俺たちの方は醤油と岩塩を用意した。いい肉はシンプルな味付けが一番だ。
醤油はこの世界では手に入らないだろうが、岩塩なら採掘も可能なはずである。陛下がそれをいたく気に入っており、帰ったらすぐに発掘隊を組織すると息巻いていた。
そして俺は陛下から、ドラゴン・スレイヤーの称号を与えられることになった。正式な任命は王国に帰ってからになるが、実はこの称号、現在のランガルド王国には一人も持っている者がいないらしい。
さらに侯爵位を上回る権力を有し、これにより事実上、俺に命令などを下せるのは王家と公爵家のみになるそうだ。そりゃそうだわな。何せドラゴンを倒したんだから力の差は歴然なのだから。
ただし貴族というわけではないので、プライドの高い爵位持ちの中には見下してくる者もいるだろうとのことだった。
そしてもう一つの問題も思わぬ形で解決することになったのである。
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