第十五話 前世の記憶
「ジャック、話とは何かな?」
「父上、母上、リオネル閣下、アリス、これからお話しすることはとても信じられないことだと思います。ですが真実であり、証拠もお見せ出来ます」
「ほう」
「何かしら」
「興味深いな」
「ジャック、私は何を聞いても信じるからね」
「ありがとう、アリス。実は俺、前世の記憶を取り戻しました。いえ、正確には今世で失ったわけではないので、思い出したというべきかも知れません」
◆◇◆◇
俺は転生者だった。前世は二十一世紀の日本で暮らしていたのだが、僧侶としてかなりの功徳を積んだお陰で次は六道でいうところの人間界の上、天上界に生まれ変わるはずだったのである。
天上界とは身近なところで言うと、毘沙門天や弁財天などのように名に天が付く(そればかりとは限らないが)、神様たちが住まう世界だ。
ところがその天上界で思わぬハプニングが起きた。
「すまんな、
そう言ったのは俗に言う
「席がない、とは?」
「お主と入れ替わりに人間界堕ちする予定だった○○天が大きな功徳を積んでな、堕とすわけにはいかなくなったのじゃよ」
「はあ……」
「しかし天上界にいける魂を再び人間界に行かせるわけにもいかんでのう」
「ど、どうなるんですか、俺?」
「そこでだ、お主をこことは異なる世界に転生させようと思うのだがどうじゃ?」
「異なる世界……もしかして異世界ですか?」
「お主、好きだったであろう? 講話でもよく引き合いに出しておったしのう」
「へ? まあ確かに……ってまさか!?」
「ちょうどお主の好みに合う発展途上の世界があってな。あちらの神とはすでに話がついておる」
「ちなみに断るとどうなります?」
「席が空くまで地獄の釜でも茹でてもらうことになる」
「か、釜茹で!?」
「ああ、勘違いするな。茹でる方の手伝いじゃよ。こう棒を持って、死者が逃げ出さないように突いたりかき混ぜたりな」
「あ、あんまり気分がよさそうではありませんね」
「鬼共は嬉々としてやっておるぞ」
「て、転生先は発展途上の世界と言われましたが、行くと何か使命が?」
「いや、使命はない。悪人ならばたとえ命を奪っても天の裁きとなるからお主の罪とはならぬ。それ以外を殺すと面倒なことになるがな」
「要は悪いことをしなければいいのですね?」
「うむ。そうして過ごしておれば、席が空き次第こちらでもあちらでも好きな方の天上界に生まれ変われるぞ」
「そうですか」
「神に等しき魂の持ち主ということで、あちらの神は長く世に留まれるよう便宜を図るとのことじゃ」
「便宜?」
「詳しいことはあちらの神に聞くがよい」
「分かりました。釜茹でよりはよさそうです」
「満面の笑みで言うことか。では達者でな。また会える日を楽しみにしておるぞ」
最初からあちらの天上界にというのは、世界を知らなすぎるので無理とのことだった。最後に閻魔大王様はくれぐれも茹でられるような罪を犯すなよ、などと物騒な言葉で俺は異世界に送られたのである。
◆◇◆◇
「つまりジャックは異なる世界で過ごしていた前世の記憶があると言うのだな?」
「はい、父上」
さすがに自分で言うのは恥ずかしかったので、積んだ功徳のお陰で天上界に生まれ変わるはずだったことは省いた。
「うむう、
「私は信じるわよ、ジャックちゃん」
「ありがとうございます、母上」
「後で愛する息子の話を信じないこの人にお仕置きしておくわね」
「め、メラニー?」
「ははは……」
「そっかぁ、ジャックって前世は僧侶だったのね。だから教会に寄付とかしてたんだ」
「アリス、それは記憶を取り戻す前のことだよ」
「でも慈悲深いのは事実なんだし」
エッチだけど、と囁いた小声も聞こえた。前世が僧侶でも煩悩はあるものなのさ。
「私はそのニホン? という国のことをもっと聞かせてもらいたいな」
「リオネル閣下、私がいた日本には魔法がない代わりに、科学や医学がこちらよりも遥かに進んでおりました」
「ほう」
「数百人を乗せた鉄の塊が空を飛び、夜も街の明かりが消えることはなく、不治の病もありましたが多くの病気に効く薬もありました」
月に行った人もいると言ったら驚かれたのは言うまでもない。ただし数発で人類を滅亡させることも可能な核兵器の存在にはさすがに引かれた。
この世界でも戦争は起こるが、自分たちが滅亡するほどの愚行を可能にする兵器を造るなど考えられないことなのだろう。
その他、日本では許可された一部の職業や人を除き武器は所有出来なかったこと。猛獣はいるが魔獣はおらず、ドラゴンのような巨大な生物、いわゆる恐竜は六千万年以上前に絶滅したことなども語った。
ただ、短時間で語るにはあまりにも世界が違いすぎる。そこで俺はもう一つ、この世界に関することを話すことにした。
「女神ジーリックに会っただと!?」
「それは本当かね!?」
「ちょっとジャック! 本当に女神様に!?」
それは今から約十八年前、俺がこの世に生を受ける直前のことだった。
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