第2話 探偵はたぶん死んでいる ②
絶景とまではいかないが、心に響く光景だった。
太陽に溶ける海――詩人が見つけた永遠は、おそらく夕日であったのだろうが、溶けた海から姿を現すそれもまた、永遠を感じさせるものだった。
死ぬには悪くない場所だ。
コートのポケットに手を突っ込み、そんなことを考える。
スマートフォンを取り出しアラームを止めた。手元には指先一つですぐにつながる通信手段、しかし彼に焦りは見えない。
破滅は覚悟のうえか、いやだね、
内心で愚痴を吐きつつスマートフォンをポケットに
詰みに近い状況だった。
素手での抵抗、なんてものは考慮するだけ無駄だった。仮に虚を
現状、こちらから起こせる
動きの止まった二人の間を木枯らしが吹き抜けていった。訪れにさえ気づかれないまま、秋が立ち去ろうとしていた。
彼の分厚い手は、この程度の風で
見つめるさき、銃口の向こう側には見知った男の見たことのない
歪んだ顔の向こう側では、昇り始めた朝日が闇を払い尽くそうとしていた。あの半円が綺麗な火輪を描くとき、私は生きているだろうか。
出来れば生きて見たいものだが――
生存への道筋は、
生き残ったその先に、夢や希望の一つもあれば、容易く腹も
希望はない、夢もない、しかし、未練ならばある。
探しつづけた獲物の居場所をようやく見つけたところなのだ。保険は一応かけてある。しかし彼らが私の死後、どこまでやるかはわからない。
ならば私がやるしかあるまい、そのためならば、プライドくらいは捨ててやろう。
足掻く理由は見つかった。心の準備が整った。
幸いにして、時間はこちらの味方と言えた。
殺意は燃える炎が如し、薪がなければそれは保てず、そんな言葉を思い出す。
沈黙、停滞、この場はずっとそれらに支配されてきた。
私と対峙して以降、彼の炎に
怒り、失望、正義、義務感、そんなものをかき集めて、必死に起こしたその
気づいているか、公務員。
日差しは殺意を
覚悟を決めたつもりの男は、いまだ
正義、社会秩序、彼は守るべきもののため、私に銃を突きつけている。
そして同時に、矛盾を突きつけられている。
殺すべき者、守るべき者、目の前の
その自問こそが袋小路の入口だった。
人を
しかし足りない、私を
彼は気力を振り絞り、銃を握った右腕にどうにか力を込めようとしている。目の前の壁を乗り越えようと、ただ懸命に
お前はまともだった、喜ぶことだよ、それは。
相棒と呼べるほどの関係ではない。それでも共に、修羅場を潜った仲ではある。
最後は私が引導を――それが情けというものだ。
三文字だ――
多くを語る必要はない。この三文字でお前の心をへし折ってやる。
遠く南の街の方からサイレンの音が聞こえてきた。私はコートのフードを被り、両手を挙げて一歩を踏み出す。そして彼は――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます