その探偵は
オーロラソース
第1話 探偵はたぶん死んでいる ①
銃口が震えていた。
浅沼でおきた通り魔事件、パロット教の狂信者たち。どんな凶悪犯を前にしてもぶれることのなかった銃口が、今確かに震えていた。
「お前は、いったいどれだけの人間を――」
弱々しい声だった。海からの風にかき消されて終わりのほうは上手く聞き取れなかった。
文脈から察するに、殺してきたのか――とでも言ったのだろう。風に飲まれて当然のくだらない問いかけだと思った。
今さら何を――
すべてわかっているからこそ、お前は
崖下から吹き上げる風には
こんなところまでわざわざ足を運んだのは、ここが取り引きの指定場所になっていたからだ。
しかし待ち人は来ず、代わりに彼が待っていた。
だが、
漁師とつるんで北から銃を仕入れている、そう言って話を持ちかけてきた男も、組織の尖兵を務めるにはいささか器量が足りていないように思えた。
それらの状況から、警察、指定暴力団、その規模の組織は直接絡んでいない、そう考えられた。
とすればこれは健全な、金銭目当ての取り引きか、あるいは小さな集団や個人が仕組んだ
前者であれば問題はない、普段どおりの楽しいショッピングだ。後者であるならいったい誰の企みだろうか。
売人自身か、あるいは彼を抱き込んだ、
怨恨、金、理由はいくらでもあった。しかし、組織に属する人間か、特殊な
ならば――
脳裏に浮かんだいくつかの可能性、そのなかには目の前の彼も含まれていた。にもかかわらずこの有り様だ。
答えは合っていた、だが対応を誤った。
警察にとって私は聖域、アンタッチャブルな存在だ。国家の犬、法の犬たる彼らでは、この手に手錠はかけられない。そして彼もまた、多少の無茶はすれども
そう、あくまで刑事である限り、刑事でありつづけようする限りは、だ。
まさか、すべてを捨てて殺しに来るとは。
侮っていた。その代償を今、己の
このままずっと震えててくれりゃあいいんだが。
緊迫した空気のなか、スマートフォンのアラームが鳴った。
午前六時三十分、海岸線から光が溢れはじめていた。
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