第49話 【悲報】悪役御曹司、真の勇者に認定されてしまう

龍屠魔導榴弾ブリュンヒルド


 シュッ♪


 魔王城に捕らわれていた獣人たちをエリーゼが介抱したあと、俺は魔王城をアズライールの亡骸ごと

跡形もなく消し去った。



――――勇者学院上空。


「エリーゼ、よく聞け。俺はおまえを攫い敵前逃亡した大罪人として裁きを受けるだろう。おそらくすべての爵位を剥奪され、平民として辺境に送られる」


「なぜ、魔王を倒したノルドさまが裁きを受けなければならないのですか! 私もいっしょに罪を被ります」


「おまえには到底耐えられる生活ではない。ククルから降ろしてやるから、俺が悪いと主張しろ。そうすればマグダリア家は完全に再興できる」


「いやです! 家はお兄さまがなんとかしてくれるはずです。私は死んでもノルドさまのそばを離れません」

「まったくおまえという奴は……」


 俺が頑固なエリーゼに手を焼いていると上空にまで声が響いてくる。


「お兄しゃまぁぁぁぁ!」

「ノルドさまぁぁぁぁ!」


 マリィにグレン、それにクラスメートたちが俺に手を降っていた。


 おかしい……。


 敵前逃亡したはずの俺が温かく迎え入れられることなんてないはずなのに。


 理由を知るために俺はククルを地上に下ろした。


「ノルド! どこに行ってたんだよ」

「俺はおまえらを捨て、敵前逃亡した臆病者だ」

「はあ? さっきまでいたのに、なに寝ぼけたこと言ってんだ……ノルドの指揮のおかげで勝てたんだろうが」


「俺が指揮だと?」

「ああ」


「さすがお兄しゃまれす! 見事な陣頭指揮をしゃれ、じゃこ勇者のサポートまでを……。加えて残党狩りに出かけりゃれるなんて、しょんけい尊敬を通り越していけい畏敬ねんを覚えましゅ」


 マリィはハートの意匠のついたスタッフをかざしながらクルッと一回転すると一瞬だけ、俺の姿が見えた。


 まさかまさかマリィが変身して、


「マリィ、俺の影武者をしていたのか?」

「あい! マリィね、お兄しゃまに変身して戦ったの。みんな、ツラしょうに戦ってたんだけど、お兄しゃまになっら、わらしが出てきたら勢いを盛り返しちゃった!」


 ひそひそと二人で話して訊ねると屈託のない笑顔で返されて、俺はかわいい妹に何も言えなくなってしまった。


 俺がみんなに賞賛されていると、


「ノルドは大した活躍もしていないのに、自分の子飼いたち貴族に誉められていい身分だよなぁ! だけど、僕が魔王を倒したんだぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー-----!!!」

 

 ケインはアズライールの四天王の一人、鬼人のオーガスを引きずってきた。隠蔽魔導でそれっぽく偽装してあるが、俺にはすぐに分かった。


 しかし、ここで突っ込もうものなら俺が真の魔王を倒したことがバレてしまう。


「おまえもようやく俺の靴底を舐められる程度の実力に達したか……俺はおまえに手柄を譲ってやったまで。せいぜい魔王を倒したことに酔っていろ」


「減らず口を!!! だけど僕は魔王を倒したことで陞爵は確実だ。あえてエリーゼと呼ぼう。僕と結婚してください」


 魔王を倒したと勘違いしたケインは俺に勝ち誇ったドヤ顔を向けたあと、俺の隣にいたエリーゼの前で膝をついて、返り血を浴びた姿でいきなりプロポーズをぶちかます。


 いやさすがに空気読め!


 そう思ったときだった。


「無理です。嘘つき、女ったらし、へたれ、無能、お調子者、甲斐性なし、足が臭いし、童貞臭い、寒いことしか言わない絶望的なワードセンス……到底結婚などできるはずがありません!」


 エリーゼからの罵詈雑言のひとつひとつがケインに突き刺さっているようで、魂の抜けかけた彼にご愁傷さまと線香のひとつでも上げたくなる。


 さらに追い討ちがかかった。


 マオが俺たちの前に現れ、秘密を暴露しはじめたのだ。


「そいつは影武者だ! 本物の魔王はノルドが倒したんだ!!!」 

「えっ!?」


 ぎゃぁぁぁぁぁーーー! なんでホントのことバラしちゃうのよ!!!


 俺がムンクの叫びを上げている横で勇者学院の被害を確認しにきたリリアンがマオの両肩を掴んで、詰問していた。


「ちょっと待て、それは本当のことなのか?」

「実はあたし……みんなに言えなかったんだけど魔王配下の四天王だったんだよ……だから顔形を見りゃすぐに分かる、本物か偽物かなんて……」


 しかも魔王に対抗しうる者を育成する勇者学院で自分の正体を明かしてしまうとか、死にたがってるとしか思えない。


「マオ!」

「お父さま! お母さま!」


 獣人が捕らわれていたから戻るついでに連れてきたが、どうやらマオの家族だったらしい。


「学院長さま、マオは私たち家族を捕らわれ、仕方なく魔王に助力していたに過ぎません」

「アアアアァァァァーーーーーーッ!?」


 なんだってんだ? リリアンの奴……素っ頓狂な声を上げて……。


 獣人の捕虜を見たリリアンは男にイかされたような声を上げ驚くが、心を落ち着かせると捕虜とマオを伴い、学院長室へと消えていった。


 どうせ、侍従職にあるマオの両親だから、マオが魔王軍に協力していたことを黙っておく対価として、ツェンの皇帝にでも勇者学院に無心してくれるようお願いでもするんだろう。



――――数日後。


 俺は故宮を思わせる巨大な宮殿に招かれていた。


「ノルドさま、お客人にはこちらの羽織りを着ていただく決まりになっております」

「そうなのか? ならば仕方ない、着てやろう」

「ありがとうございます」


 ウサギ耳の女官に黄色い羽織りを着せられた俺だったが、羽織りを持ってきた文官は跪いて深々と頭を下げた。それだけではなく、周りにいた武官、文官も同様……なんだか妙に俺にへり下る。


 確かにマオの両親を助けたのだけど、彼女の両親はツェン国でも国の根幹に関わる重要人物だったんだろう。


 俺は大層立派な椅子に座らされたかと思うとマオの父親が大勢の廷臣たちの前で宣言し始めた。


「第45代獣帝バオ・ガン・ツェンはいまを以て、退位し、帝位をノルド・ヴィランスさまに禅譲いたす。以後、国号をツェンからヴィランスと改める。それでは我が娘マオと婚礼の儀を始めよう」


 は?


 俺はこの人、なに言ってんの? とぽかんと口を開けることしかできなかった。


 は?


 マオの父親の言ったことの情報量がいっぱいすぎて、パニックを起こしそうになる。


 さらに俺を混乱させることが起こった。


 白いヴェールをかぶり、肩口から胸元までシースルーのいかにもウェディング用チャイナドレスといった出で立ちで現れたマオ。そこには男女などと呼ばれた面影はなく、おしとやかな皇女といった雰囲気を漂わせている。


「なに皇女みたいな格好してるんだよ! ただの侍従武官だろ、マオは!」

「ああ、それ? みんなには黙ってたんだけどね、あたし……ツェンの皇女だったんだよ。まあいまはノルドの皇妃なんだけどねっ♡」


「おいおいおい! 本気か? おまえ、俺を利用しようとしてただけじゃねえかよ。別に俺のことなんとも思ってなかったんだろ、そうギブアンドテークって奴だ」


「最初はそうだったけど、大好きな両親を助けられて感謝……ううん、惚れない女の子がいると思う?

いまならエリーゼがノルドに惹かれた理由が分っかるなぁ~」

「……」


 悪夢としか言いようのない冗談は止めてほしい……。


「その婚姻、ちょっと待ったァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」


 マオが俺の隣の椅子に座ると獣聖宮の重厚な扉が開け放たれ、バオの寵臣たちが居並ぶなかに大きな声が響いた。


「エリーゼっ!?」


 武官たちがエリーゼを取り押さえようと飛びかかるが、ロータス譲りのメイスを巧みに扱い、武官たちの猛攻をいっさい寄せ付けない。


「エリーゼ、案ずるなって。ツェンは……いやヴィランスは一夫多妻だからな」

「頼むから俺に相談もなく、勝手に決めないでくれ」

「分かった、これからは夫婦仲良く決めようね♡」


「婚約破棄する」

「婚約破棄してください!」



――――ワルドの部屋。


 とりあえず俺は帝位を熨斗つきでマオの父親に突き返しておいた。俺を皇帝になど擁立しようものなら、ツェンを完膚なきまでに破壊すると通信欄に添えて。


「ノルド、マリィ! 私はおまえたちのような優秀な子どもを持ち、実に誇らしい。いままで邪険に扱って本当に申し訳ななかった。だがこれからは親子三人睦まじく暮らそうではないか」


 そう言うとワルドは深々と俺たちに頭を下げ、握手を求めてくる。ソファーに並んで座らされた俺たちは珍しくワルドに誉められてしまっていた。


 俺とマリィは顔を合わせて、態度を豹変させたワルドを訝しんだが、アズライールを倒した話を求められて、話すと信じがたいほどワルドは上機嫌だった。


 俺はワルドの部屋を去るときに【邪気眼スパイアイ】を潜伏させておいたのだった。


―――――――――あとがき――――――――――

毒親が上機嫌のときは間違いなくヤバいことを企んでる……。ノルドとマリィは毒親ワルドが生み出す死亡フラグをどう回避するのか、また二人の母親がいない理由も次回に。またよろしければフォロー、ご評価お願いいたします。

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