第25話 ドスケベ聖女

――――【エリーゼ目線】


『ククク……ここが気持ちいいのか?』

『ち、ちがいます、そんなところ触られても不快なだけです』

『本当にか? だったらこれはなんだと言うのだ?』


『そ、それは汗です!』

『だったら舐めてみろ』

『はうん……ヨーグルトのような酸味が口にぃぃ』

『おまえの汗はそんな味がするのか? では俺も味わってやろう。直接おまえからすすってな』


 ああん! どうなっちゃうの!?


 きゅんきゅん、どきどきして、机のうえの小説から目を手で覆い読むのを中断してしまいました。


 わっ!? す、すごい……。


 でも気になり片手でそーっとページをめくると次のページにはなんと二人が裸で抱き合っている挿し絵が出てきて、食い入るように見ちゃっていたのです。


 リンにお願いして買ってきてもらった乙女TL小説『黒公爵と白聖女』を見ながら妄想を膨らませておりました。


 若いシスターで白聖女と人々から崇められるエリシアは、貧乏な教会が併設する孤児院の孤児たちに満足な食事を食べさせるために、領主で黒公爵と呼ばれるルルドに寄付をお願いするところから、ルルドに弄ばれちゃうという内容なのですが……。


 まるで私がノルドさまに弄ばれちゃうように思えてきてなりません。


 深呼吸して、また読むのを再開したのですが、


 はあ……はあ……。


 そ、そんな破廉恥な……。


 ああっ、だめ! そんなところにあれが出入りしちゃうとか信じられません!


 す、すごいです。


 純真無垢なエリシアがこんなに乱れちゃうなんて……。


 私もノルドさまに気持ちよくされちゃうとか考えただけで、身体が火照って、息が勝手にあがってしまいますぅぅ……。


『どうかドすけべになってしまった私に罰をお与えください』

『ククク……よかろう淫奔いんぽんなおまえには俺の調教が必要なようだな』

『ルルドさまぁぁーーーーっ!!!』


 はわわわわ……エリシアは嫌っていたはずのルルドを両足でがっちりホールドしちゃうなんて!



 ガサッ!



 私が二人のまぐわいに驚いて、机を揺らしてしまうと折り重なった本の山が崩れてしまいました。


 ど、どうしましましょう。


 ノルドさまに想いを馳せるほど、私の乙女小説はどんどん増えちゃってしまってました……。



――――【ノルド目線】


 くそっ! まったくエリーゼの好感度が下がらねえうえにケインはあのぽんこつっぷり……。


 どうしたものか。


 そうだ! 俺がケインの目の前で取り巻きどもノルド軍団を引き連れ、エリーゼをナンパしてやればいい。


 エリーゼは仮にもエロン教聖女候補筆頭、俺がナンパから強引にベッドに引きずり込めば、初期状態ではエロいことに潔癖なはずの彼女はあのノルドを殺ったときのように蔑む顔を浮かべることだろう。


 そうすればエリーゼの俺への好感度は、前世で俺のブラック職場と提携していた損保会社の株価並みに下がり一気にストップ安まっしぐらだ。


 俺は『あなたはサイテーです!』とエリーゼから頬を打たれ、部屋から逃げ出した彼女をケインが優しく慰めれば……、二人の仲は一気に進展、その日にも種付けピストン祭りって寸法だよ。



 翌日、すっかり俺に心酔してしまったノルド軍団を引き連れ、廊下を歩いているエリーゼの下へ向かう。


 前世なら声すらかけられたくない陽キャパリピな御曹司たちノルド軍団がエリーゼを取り囲み、俺が彼女に声をかけた。


「マグダリア伯爵令嬢エリーゼだな?」

「はい、そうですが……どうされたのです、ノルドさま?」

「俺の名前はノルド! ヴィランス家が長子!!!」


 ノルド軍団が、「さすがノルド! そこにシビれる! あこがれるゥ!」などという茶番を入れてくるが、エリーゼは至って平静だった。


「はい、存じております」

「そうだ。エリーゼ、おまえは美しい……ゆえに俺にちょっと付き合え!」


 こんなメチャクチャなナンパ、断れるに決まってるし、すんげえ印象が悪いだろう。


 俺はエリーゼをいつも壁際から覗く男に視線を送った。


 ケイン! ぼーっと見てるんじゃなくて、早く俺を止めてエリーゼを守りその手に取り戻すんだよ。


「お待ちください! エリーゼが戸惑ってますから!」


 ようやく俺の願いが天に通じたのか、ケインが震える声で俺を制止してくれた。


「誰かと思ったらケインじゃないか。おまえはエリーゼの婚約者にでもなったつもりか?」

「ぼ、ぼくはエリーゼの婚約者なんかじゃ……」

「では彼氏か?」

「彼氏でもない……」


「だったら親密な友だちなんだろう?」

「そうでもない……」


 どんどん声のトーンが下がってしまうケイン。


 こらぁぁ!


 ヘタレが過ぎるだろぉぉーー!


 そこは嘘でもいいから、『恋人です』って言って守ってやるところなんだよ!


 ふとエリーゼに目を配るとケインを見る目がジトーっとして、苦瓜でも食べたかのうな渋~い顔で見ていた。


「はぁ……ノルドさま、行きましょう! あなたさまからお誘いいただくなんてたいへん光栄です」


 は?


 いやいやいや、ナンパが成功してしまってどうすんの?


 ケインさ、おまえエリーゼのこと好きなんだろ? おまえの彼女がお持ち帰りされたらどうするんだよ! 俺はおまえのヘイトは買いたくなんだから、必死に頑張れって!


「エリーゼ、ひとつ訊こう。そこにいる男はおまえのなんだ?」

「ただの従者です」


 えっ?


 エリーゼははっきり言い放ったはずなのに、人間都合の悪いことはちゃんと聞き取れずにいた。


「平民、おまえとエリーゼの関係を言ってみろ!」

「ぼ、ぼくとエリーは……エリーは……」

「ノルドさまっ! 行きましょう、ケインなど放って」


 あ? え? ちょ、ちょっちょっと!



 お持ち帰り成功ぉぉぉぉーーーー!!!(号泣)



 俺の人生発のナンパ成功がこれほどまでうれしくないことはない。


「ちょっと待つのれす! いいえ、待つのです!」


 エリーゼが俺と腕組みしようとしたそのとき、聞き覚えのある舌足らずな声がかかった。


 誰かと振り向くと金髪に縦ロールでまさにお嬢さまドリルといった感じの女の子が立って、ご立腹の様子だ。


 背はエリーゼと同じくらい、おっぱいばいんばいんに勇者学院のへそ出し制服がよく似合ったえちえち美少女に俺は訊ねる。


「えっ!? マリィ?」

「ちがうのれす!」

「いやマリィだろ?」

「わらしはマリエール・ミレーと申しましゅ」


 精いっぱい考えたであろう、言い訳がかわいくてたまらない。


「そうか、それは残念だ。マリィなら俺の部屋に招いて、頭など撫でていっぱい愛でてやろうと思ったのに」

「わらひはマリィれす!」


 早っ!!


 マリィはすぐに偽名を捨てて、正体を明かしてしまった。


 まあその素直さがマリィの魅力でもあるんだけどな。


「しかし、マリィよ。どうしたと言うのだ、その見目は?」

「はい、お兄しゃまが恋しくて、離れたくにゃくて、【変身魔導】を習得したのら」


 さすがノルドの妹だけある!


 『成勇』では無能呼ばわりされて、エリーゼをいじめる悪役令嬢ポジションだったけど、やっぱり才能を秘めてたんだ。



 ――――俺の部屋。


「お兄しゃま、お腹とんとんして欲しいのれす」

「お腹とんとんッ!? そ、そんな実の兄妹で、えっちなのはいけないと思います……」

「は?」


 話がややこしくなりそうだったので二人を連れ、俺の部屋に来たのだが、エリーゼがなにか勘違いを起こして、顔を赤くしながら驚いている。


 スヤ~♪ スヤ~♪


 やっぱり見た目はドエロい淑女になってしまったけど、中身はまだまだ子どもだな。


 お腹をぽんぽんするとマリィはかわいい寝息を立てて眠ってしまった。


 愛らしい妹を寝かしつけたかと思うとエリーゼが俺にもたれかかってきた。


「ああ……私も急に眠気がっ!」

「おわっ!?」


 それと同時にふかふかの絨毯の床に倒れてしまった俺たち。


「ノルドさまっ! 私、私、お腹のなかをとんとんして欲しいです」


 お腹のなか? よく分からなかったが、この密着した体勢では無理がある。


「いや足を解いてくれないと、お腹ぽんぽんできないのだが……」

「離したくありません」


 俺はエリーゼから大しゅきホールドされ、マリィが起きてくれるまで、ずっとこのままだった……。


―――――――――あとがき――――――――――

エリたん、妄想まみれのドスケベ聖女と化してしまった……。もっとドスケベをお求めの読者さまはフォロー、ご評価お願いしまっする~♪

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