第22話 あのとき救ってもらった物乞いです
「もうお会いすることができないかと諦めそうになったときもありました。でもあの優しい眼差しがどうしても忘れられなかったのです」
優しい眼差し?
ああ、エリーゼのしつこさに苦笑いして、目を細めたのがそう見えただけだろ……。
なんという温度差なんだろう。
エリーゼは推しの出待ちをしていて、ちょうど俺が出てきたみたいに手を組んで祈るような仕草をしている。
「ノルドさまの学友として、三年間ごいっしょに過ごせる……私はなんとしあわせなのでしょうか」
「しあわせ? 違うな、エリーゼよ! 最初に言っておく。俺に近づけば、おまえも俺も不幸になる。だからこれ以上接近するんじゃない! それにまだ試験が終わっていない」
くそう、こっちの事情も知らないでエリーゼの奴、ぐいぐい食いついてくる。
「ノルドさまが一番で通らないわけがございません! 私は信じていますから」
「見ず知らずの人間を信じれば、ひどい目に遭うぞ。それこそ俺に乙女の貞操を奪われるなどだ!」
抱きついてきたエリーゼを突き放しながら、言い放ったのだが、彼女の表情はきょとんとして円らな瞳で俺を捉えている。
「ノルドさまに私の貞操が奪われる?」
「そうだ! 控え目に言って、俺の女癖は最悪だ。おまえもその餌食にしてやる」
顎クイしながら、見目の麗しいエリーゼをまるで品定めするように舐めまわすように見て、彼女を脅すと、
「私をそのように見られているのですね。ううっ……悲しいです……」
エリーゼは立ち尽くして、まぶたに涙を浮かべ泣いてしまうが、これで彼女の俺に対する意味不明なくらいの好感度は完全に消えたと思い立ち去ろうとする。
だが……。
キュン♡
「その程度のことで私の愛が揺らいでしまうと思われてしまうなんて」
「へ?」
俺は後ろから謎の擬音が伝わったような気がして振り返ると、両頬に手を当てくねくねと悶えるエリーゼの姿があった。
「ノルドさまに触れられた顎……もうお風呂に入れそうにありません。それにあんな色っぽい目つきで見られてしまうなんて……身体が火照ってしまって……ど、どうしましょう」
聖女候補筆頭と噂されるエリーゼの瞳はエロゲで発情してしまったヒロインのようにハートマークになって、誰もがキスしたくなるような桜色の美しい唇の端からよだれを垂らしてしまっていた。
これじゃ発情牝性女じゃん……。
なにやらエリーゼが妄想に浸っている隙に逃げようとしていると、俺の進路を塞ぐように数台の馬車がやってきた。
先頭の馬車はひときわ豪華で、そのなかから羽振りの良さそうな格好をした人が出てきて俺を呼び止めた。
「やはりヴィランス公爵さまのご令息ノルドさまでしたか!」
「誰だ、おまえは?」
「あのときの物乞いにございます!」
あ、思い出した……確かエリーゼを人攫いから助けるときにボロ布を借り、その代金として金貨を渡した初老の男性だ。
でもなんで? なんで、いま来ちゃうの!?
まさかこれが修正力って奴なのか?
妄想から抜け出したエリーゼはなにごとかと俺たちを見ていた。これは非常にマズい……。
冷や汗をかく俺をよそに身なりのよくなった初老の男性は俺に祈るような目で見てきて、成り上がった経緯を語り始めた。
「私は神の啓示とも思えるノルドさまのご助言を基に商売を始めたレンサルという者です」
「商売だと? なんのだ?」
「はい、服を貸すという商売です。いただいた金貨もあり、これが当たりに当たり、いまや商業ギルドの理事を務めるまでになりました。ノルドさまのご厚意、このボロ布を見ては忘れる日はございませんでした」
そりゃ貸衣装なんて商売ないもんな。そりゃ儲かってもおかしくない。
って、レンサルと名乗った男は俺がエリーゼを助けた証拠になる品物を出してしまい、彼女はボロ布を指差して、口をパクパクさせている。
「そんな汚いもの、さっさと仕舞え!」
俺はレンサルに慌てて仕舞うよう指示したが、もう遅い!
ぽろっ、ぽろっ……。
レンサルと押し問答をしている最中、ふとエリーゼに視線を移すと彼女の瞳から真珠のように輝く滴がこぼれ落ちていた。
「やはりあなたさまがホンモノの恩人さまだったのですね。どれほど、この日を待ちわびたことか……」
俺にぞわぞわっとした悪寒が走る。
【この日を待ちわびたことか……】
そうゲーム内でノルドがエリーゼに止めを刺される際に発した言葉だったからだ。
「お待ちください、ノルドさまに元手の利子をお返ししなければ……と思いご用意いたしました」
俺が余計なことに巻き込まれてしまうと思い立ち去ろうとするのだが、レンサルから呼び止められ、エリーゼから逃れられそうにない。
レンサルは使用人と思われる人たちに命じて馬車から大きな袋を持ってこさせた。
「いっ!?」
何枚くらいあるんだろう~♪
頭がお花畑になってしまうくらい山のように積まれてゆく袋に開いた口が塞がらなくなる。
「10万枚ございます。どうぞノルドさまにお納めいただきたく思います」
「俺はおまえにそんな施しなどしていない! 早々に持ち帰るんだ!」
俺はレンサルに必死に受け取り拒否する。
1万倍にして返してくるとか、おかしいだろ!
これを受け取ろうものなら、ケインに偽装してエリーゼを助けたということを認めてしまうというもの。
「ノルドさまは本当に謙虚なお方なんですね! 私だけでなく、レンサルさんのお礼をお断りされるなんて!」
「ち、ちがう、俺は金と女に目がない最低の男なんだーーーーーーーっ!!!」
エリーゼは益々惚れたみたいな目で俺を見てきており、レンサルは俺たちを生温かい目で見守っている。
まるで悪ぶってたはずがいい人バレしてしまったような気分だった……。
―――――――――あとがき――――――――――
勇者学院の女子生徒の制服はですね、『ロクでなし魔術講師の
そんな感じで神絵師さまにイラスト化して欲しいんですけど、作者の力だけではどうにもなりません。いいぞ、もっとやれ! という読者さまがいらっしゃれば、フォロー、ご評価でお力添えいただけるとうれしいです。
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