第23話 恒例の魔力測定
ま、マズい!!!
『君の名は。』ばりにすれ違ってばかりの俺とエリーゼがちゃんと再会を果たしてしまったことで、ケインは両手を頬に当てて、ムンクの叫びのように身体が細長くなり悲壮感を表している。
まだだ! まだ望みはある!
「まったくこれだから平民は困るな」
俺はケインを貶すことで、エリーゼから嫌われるよう仕組んだ。
想像するに……『まあノルドさまっ! それはあんまりというものです。身分で人を差別するようなあなたのことを見損ないました』と、なるに違いない!
そうエロゲのなかのエリーゼは、ケインを見下したノルドの頬を平手打ちして激しく嫌悪したのだから。一方のノルドは入学初日に生徒たちのまえで恥をかかされ、彼女に執着するようになった経緯がある。
――――ククク……ハハハ、アーハッハッハッハッハッハッハッハッハーーーーーーーーーッ!!!
これは完全かつ確実に嫌われたことを確信し、ノルド化しながら高笑いを決めていた。
――――ごほっ、ごほっ、ごほっ……。
笑い過ぎて咳が出てしまい、うずくまっているとエリーゼは俺の頬を叩くどころか、側により背中をさすってくれている。
まさか……。いやそんなことは……。
俺の懸念は見事に的中した。
「ノルドさまの仰る通りです! ケイン! あなたはうそばかりついて、努力を怠りました。今後はノルドさまの爪の垢でも飲んでください」
ふぁっ!?
ビシッと人差し指をケインに向かって差し、すでに死に体のケインに低空ドロップキックのような全力の死体蹴りをぶちかますエリーゼ……。
マジで止めてあげて!
ケインに言い放つとエリーゼは俺に「大丈夫ですか?」と眉尻を下げて不安そうな表情で心配してくれていた。
いや俺はエリーゼの思考回路とケインのSAN値が「大丈夫ですか?」と訊ねたくて仕方なかった……。
俺よりケインの心配しろよ。
魂が抜け、干物になったケインを捨て置き、エリーゼは手をつないで欲しそうに差し出していたが、俺は見えてない振りをして先を急いだ。
「お待ちになって! ノルドさまぁぁーーーっ!」
――――勇者学院大講堂。
ぶっちゃけ元いた世界の体育館ぐらいの広さの講堂に集まった俺たち勇者候補。
他の生徒はざわざわと期待と不安混じりの会話をひそひそしており、どこの世界も基本は変わらないようだ。
ただ……。
「ノルドさまとごいっしょに学院に入れるなんて、私、しあわせでなりません」
エリーゼから距離を置こうと何度も席替えしたのに彼女はその都度追いかけてきて、もうこの講堂で結婚式を挙げようと言い出しかねないようなしあわせ顔をしている。
「俺はついてくるな、と言ったはずだが?」
エリーゼに返したのだが、彼女は講堂の壇上に立ったリリアンを見て、集中しており俺の言葉に耳を傾ける様子はない。
俺がため息を漏らしたあと、リリアンは声を張り上げてあいさつをする。
「諸君! アッカーセン王国の誇る王立勇者学院に入学を試みる勇気に敬意を払おう! だが我が校は精鋭のみを輩出している。精鋭を育むなら精鋭の卵のみが入学できるのだ。いまから入学選抜テストを行う。すぐにここから出ろ!」
講堂に集めた理由え~。
勇者学院の裏庭で荒野のようなところに来るとまるで射撃場のような的が遠くに見えた。
「貴様ら、貴族の子弟かもしれんがここではオレが貴様らの先生だ! そして貴様らはオレの犬だ! 貴族などという身分は通じんぞ。もし貴族でありたいなら、さっさと逃げ帰り、マムのおっぱいでも吸ってろ! ここではすべてオレの言うことが正しい!」
俺たちの目の前で仁王立ちする男は士官学校の鬼軍曹ばりのことを言い放った。男の名前はドアンで新入生をいじめにいじめ抜く獄卒みたいな教師で実力を鼻にかけている。
「いまからオレと貴様らの実力の差というモノを見せてやろう」
ノルドもイキりだが、ドアンもかなりのイキりキャラだ……。
ついに始まった魔力測定。
「そこにある水晶玉に手を置いてみろ。そうすれば貴様らの魔力量がすべてお見通しだ! ちなみにオレは……99だ!!!」
その程度でイキれるドアンは逆にスゴいよ、マジで……。
「んじゃまあ、おれがやってやるよぉ!」
デスゲームやダンジョンに潜ったりするといちばん真っ先に死んでしまいそうな赤髪の熱血キャラのグレンが水晶玉を掴んだ。
「ウォォォォー、フルバァァァーストォォ!!!」
無情にも測定器が示した魔力量は……、30。
チーン♪という残念な鐘が鳴ったような音がして、グレンはうなだれてしまう。
「くっくっくっ、この程度の魔力もないのか、今年の勇者学院の生徒も底が知れる。おい、平民! おまえの実力を見せてみろ!」
なんだと!?
貴族の子弟を蔑むことに飽きたドアンは標的をケインへと変えた。
ついに! やってきた俺のスローライフへのスタートライン。
俺はここでケインに負ければ、いい。
幸いにも順番はケインから先だから俺は奴に合わせて、魔力量を調整すればいいだけの、誰にでも簡単にできるお仕事だ。
俺はぽんと水晶玉に手を置くと101というなんとも無難な数値を示した。
やった!
調整がスゴく難しかったが、上手くいったようだ。強すぎず弱すぎず。そう、ただてさえノルドは目立つ行動ばっか取るから、大人しくしてるのがいちばんなんだ。
だがすぐさま俺の作戦成功をあざ笑うかのように横槍が入ってしまう。
「いいえ、ノルドさまの実力はそんなものじゃありません!」
エリーゼは俺の手の甲に手を重ねてきてしまい……、身内以外の女の子に触れられ、俺の魔力制御に狂いが生じて、測定器の数値が目で追えないくらいの速さで跳ね上がってゆく。
「200だと!?」
「いえ、まだまだ上昇していきます。1000、2000、3000……10000……99999……」
ドォーーーン!
ついには測定器は爆発した……。
「やりました! 愛の勝利です!!! 私とノルドさまは相性ぴったりですね♡」
エリーゼは俺の手を両手で取り、ぴょんぴょんと飛び跳ね、満面の笑みを浮かべている。
ラブラブ測定器じゃねえよっ!!!
――――能あるグリフォンは爪を隠すと言うがノルドさまもそうだったのか!
――――暗黒騎士パネェーーーーーーーー!!!
――――公爵さまのご令息でお強いなんて!
周りの新入生たちが俺を賞賛と感嘆の声を漏らすなか、ちらとケインの顔色を窺うとぐぬぬ顔で俺を睨んでいた……。
エリーゼのおかげで俺のひっそりスローライフ計画はぜんぶまる潰れじゃねえかよぉぉ!
これは測定器が最初から壊れてるだけだ!
俺がみんなに弁解しようとすると……、
「くくく……これは測定器が最初から壊れてるだけだ!」
おっ、やっとまともにノルドがしゃべってくれた。
そう俺が安心したのも束の間、
「こんな壊れた機械を納入させるとは誰かが商会とでも癒着してるんじゃないか?」
ドアンのほうを向いて、ギロッと彼を睨んだ。するとドアンはビクッと肩を震わせ、その場にいた生徒や保護者に弁解していた。
「オレは測定器の納入には絡んでいない! 本当だ、みんな信じてくれ!」
「くくく、信じるだと? 俺が信じるのは己の強さのみ! 俺の実力はこんなちゃちな物では測れん! ははははは! 皆の者、俺にひれ伏すがいい!」
なんで俺のハードルを上げるんだよ、ノルドの奴はよぉ!
――――だよな! さすがノルドさま!
――――ノルドさま、かっこいい……♡
って、なんでみんな平伏してんだよ!
―――――――――あとがき――――――――――
癒着はやっぱりダメなんですが、ノルドとエリーゼの大事なところが癒着するなら許されますかね? オッケーという読者さまがいらっしゃれば、フォロー、ご評価お願いいたします。
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