第43話 逆夜這い
――――【エリーゼ目線】
私がメイナさんに感じた魔素を吸い出したことにより、不治だと思えた病はあれよあれよと寛解してしまいました。
ん!?
ティーカップから立ち上る湯気を嗅ぐと甘く爽やかな香りがしてきて、思わずうっとりしてしまいました。口をつけるとストレートなのに自然な茶葉の甘さと香ばしさがたまりません。
こんなの……はじめて!
『ああっ! ノルドさまっ、そんなところ舐めちゃらめっ、らめれすぅぅぅ……そこは敏感なんですぅぅ、ああん♡♡♡』
はっ!?
美味しすぎて、まるでノルドさまから後ろから抱き締められ、首筋を舐められたような感覚に陥ってしまいました……。
このお紅茶は虚飾にまみれた貴族の令息が多いなか、自分を偽らずまるで飾らない自然体のノルドさまのよう。
い、いけません……すこし
あまりのお茶の美味しさにトリップして妄想に浸る白昼夢から目覚めた私は向かいあって座るノルドさまに訊ねました。
「ノルドさま、このお紅茶……とてもおいしいです」
「そうか、気に入ってくれたか。それはメイナが俺のために用意してくれたものだ。茶葉にマツリカという香り付けの花を入れているようだ」
公爵家のとても広いお庭で二人きりで過ごせるのが夢のようでした。
いつもは強い覇気を発せられ、ノルドさまのパーソナルスペースに入ると私の下半身がピリピリと疼いてしまうような感覚を覚えるのに、メイナさんが回復に向かっているからなのか、彼の側にいると春の陽気に包まれているよう。
「俺はどうやら誤解をしていたようだ」
「……ノルドさま?」
遠くを見つめるノルドさまは落ち着き、とても優しげにお気持ちを吐露されます。
「エリーゼ、もうノルドさまは止めろ。ノルドでいい。それにおまえにはかけがいのない者を救ってもらった。学費はすべてヴィランス家で面倒をみる、だからもうメイドなどということはしなくていい」
えっ!?
もうノルドさまの側にいられないってこと!?
ノルドさまにそう告げられたそのとき、テーブルの真ん中に刺さったパラソルが風に煽られ、ガタガタとカップとソーサーが音を立てていました。
そんな!!!
「ぜったいに嫌です! 私はノルドさまのメイドは辞めません。ご恩に報いるためにも……」
「いや、礼を言いたいのは俺のほうだ。ありがとう、エリーゼ。おまえがいなかったら、俺の乳母であり、育ての親でもあるメイナの命はなかった」
あのノルドさまが私の手を取り、感謝の言葉を口にされたのです。
こんなにもうれしくて、悲しいことはありません。
ノルドさまから離れて淑女寮に戻り、寮友のご令嬢の皆さんと語らうのは楽しいかもしれません。ですが私にはそれよりもノルドさまの側がいい……。
「ノルドさま、なんでもいたします。だから……お側に……どうか私をお側に置いてください」
「ダメだ。おまえは聖女候補筆頭としての自覚を持て!」
ああ……なんてお優しい方なのでしょうか。私を気遣い、将来まで案じてくださるなんて。
「分かりました……」
私はこのとき、もう迷いを全て捨て去りました。
――――【ノルド目線】
やった!
エリーゼが俺の命を付け狙っていたと思い込んでいたが、そうじゃなかった。ノルドが闇落ちしてしまうきっかけのメイナさんの病死を回避できたうえにエリーゼに大金を支払う口実もできたのだ。
もうこれで彼女は俺のメイドでもないし、ケインの下へ走り、徐々に二人の仲は進展、いちゃラブ学院生活が始まることだろう。
ただ……エリーゼの奴、やけに素直だったのが気になる。
まっ、死亡フラグを回避したことだし、秋期が始まったらスローライフに適した辺境を旅行がてら学院が休みの週末にでも探しに行ってくるかな。
――――学院長室。
「邪魔するぞ」
「邪魔するなら帰れ」
「ククク……そうか、だがこれを見ても邪魔だと思えるかな?」
勇者学院の夏休みは終わり秋期を迎えていた。
学院長室に入るなり、腕組みして渋い顔をしているリリアンだったが、俺のストレージ【
「ほらよ。エリーゼの3年間の学費全額だ」
「なっ!? こんな大金、どうしたんだ? まさかエリーゼ愛しさに気が狂って、国庫でも襲撃したのか!?」
リリアンは袋の紐を解き、中身を確認すると鳩が豆鉄砲でも食らったかのような顔をして驚いた。
そりゃそうだろう、中身はすべて金貨だったから。
俺はリリアンからなんだと思われてるんだ? いろいろ突っ込みたかったが、面倒なことになると思い、最小限に留めた返しをする。
「馬鹿を言え。そんなことをしたら俺はこんなところで油を売っていない」
「それもそうだなぁ……まあ馬鹿げたノルドの力なら余裕だろうがな。学院の経営が火の車になったら、ひとつ頼もうか」
こんな冗談を言うリリアンだ。
王立勇者学院を任されているとはいえ、あまり国家への忠誠心は高くないらしい。
ちなみにエリーゼの学費はメタミン村に、貸衣装の商売を始めたレンサルに留まらずヴィランス公爵領の街や村が俺のために資金を提供してくれたのだ。彼らもただでとは言わない。俺が次期領主になったときによろしくとの意味合いもかねている。
俺はワルドの跡を継ぐ気なんて、さらさらないが……。
マリィが良い婿養子と結婚し、その義弟がヴィランス公爵を継いでくれることを望みたい。
エリーゼに俺の家族を救ってもらったことには感謝しても感謝しきれないが、俺の部屋でメイドを続けたいというのは別の話だ。エリーゼは言わば俺の恩人、そんな娘に俺のメイドなんかさせられるわけがない。
秋期初日の授業を終え、紳士寮に戻ると俺の隣の部屋のネームプレートは取り外されていた。
おそらく部屋のなかも、もぬけの殻なんだろう。
これで無用な騒動に巻き込まれることも少なくなると思いたい。
俺はベッドにダイブした。
やっと落ち着いて安眠できる!
【
おかしい。
【闇黒外皮】をまとって寝たはずなのに俺の寝間着のシャツは胸元が露わになって、なにかおしりのようなモノが俺の目の前にあり、ゆっさゆっさと揺れていた。
「ノルドさまぁぁ……ちゅきぃぃ……」
聞き覚えのある声だが、やけに甘ったるい。
ああなんだ、エリーゼが夢のなかに出てきたのか。なんだかんだ言って、あいつと結構いっしょに過ごしてたもんな。
夢のなかなら、甘えてくるくらいいいだろう。
んんっ!?
昨晩まとって寝たはずの【闇黒外皮】が粉々に砕けて散らばっており、夢ではないと俺は悟った。
それに下半身が溶けてしまいそうなくらい気持ちいい……。
「エリィィィィーーーーゼェェェッ!?」
振り向いたエリーゼの姿に俺は驚愕する。
ノルドがエリーゼを調教する際に使った隷属の首輪をはめ、あのくそエロいおっぱいぽろんなメイド服を着ていたのだから。
「うううん……ノルドさまぁ? こちらのほうが良かったですかぁ?」
上目遣いで俺を見ながら、露わになったたわわを押しつけ、俺の下半身を挟んでしまっていた。
―――――――――あとがき――――――――――
あーあ、とうとうエリーゼはやってしまいました♡
融合合体必至のノルドとエリーゼをご期待の読者さまはフォロー、ご評価お願いいたしますwww
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