第42話 乳母の病

――――【ノルド目線】


「あ、ノルドさま……」


 マリィと共にやってきたメイナさんが倒れそうになったので受け止めた。 


「あ……り……がとう……ございます……はあ……はあ……」


 俺の胸元に身を寄せる華奢な身体を抱き寄せると明らかにメイナさんの顔が赤い。それだけなら、ただ恥ずかしがってるのかと思えたが息は上がり、触れた肌は熱く火照ってしまっていた。


 っ!?


「なぜ黙っていた?」

「ノルドさまのご負担になりたくなくて……」


 俺の質問に答え終わると、メイナさんは自分のブラウスの胸元を強く掴んで苦痛からか顔を歪めていた。



 すぐさまメイナさんを抱え、家へと戻ったのだが……。


「うううっ……うううっ」


 彼女を俺のベッドに寝かせて様子を見ていると額に汗をにじませ、苦しそうにしていた。


「メイナお母しゃん……」


 マリィはメイナさんの手をずっと握り続けて、いつもの笑顔は消え失せ、もういつ泣き出してもおかしくないくらい悲しい表情をしている。


「メイナ、しっかりしろ! すぐに回復術師が来るからな」

「はあ……はあ……ノル……ドさま……私にそのような……お気づかいして……くださり……ありが……とうございます……」


「つらいならしゃべるな。うなずくか、首を横に振るだけでいい」


 俺の言葉を受けて、メイナさんはこくりとうなずく。


 完全に油断していた。


 修正力は俺に直接害が及ぶものばかりだと……。


 ノルドは乳母であり、育ての親と言うに相応しいメイナさんが病死したことにより、闇に魅入られ落ちることに近づいてしまう。


 俺の部屋に集まった回復術師たちは、やつれ顔で吐露していた。


「我々も手を尽くしたのですが、病の進行が早すぎて、回復が追いつきません……」


「おまえら! それでもアッカーセンが誇る一流の回復術師なのかっ! もっと頑張れよ! 本気で治す気があるのか! なんとか言ってみたらどうなんだよ!」


 うなだれ、誰も俺の問いに答えることができない。


 俺がひとりの回復術師の胸ぐらを掴んだところで制止される。


「お兄しゃま! みんな一生懸命やってくれたのれす……」


 マリィが俺の手に触れ、回復術師の胸ぐらを離すよう促していた。


「済まない」

「いえ、ノルドさまのお気持ちは痛いほど分かります。お役に立てない我々をどうかお許しください」


 回復術師たちが去った俺の部屋……。


 二人きりになった部屋で病床にあるメイナさんの手を取り、彼女の言葉に耳を傾ける。


「ノルド……さま……ただのメイドに家族のように接していただいたご恩に報いることができずに逝ってしまうことをお許しください」


「馬鹿を申せ。俺はメイナをクソ旦那から寝取るために雇ったのだ。なにも気に留めることはない」

「また……そんな優しい嘘を……」

「嘘ではない! 俺はメイナのことが好きだ」


「ノルドさまの童貞をこの年増にお与えくださるなんて……」

「俺の童貞どころか子種までしっかりくれてやる。だから早く病気を治せ。病み上がりに俺との夜伽は堪えられぬからな」


「はい……」


 うれしそうに涙を流すメイナさん。


 眠るようにメイナさんはゆっくりと目を閉じてゆく。


 バンッ!


 そのとき部屋のドアが大きな音を立てて、開く。ドアのまえにはウィンプルをかぶり、修道女のような衣装をまとったエリーゼが立っていた。


「ノルドさまっ! 私に任せてください!」

「エリーゼ……もういいんだ。あれだけの回復術師が無理だったんだ。いくらおまえでも……」


 気持ちはうれしかったが、俺はエリーゼの厚意を断ろうとするとメイナさんが俺の手を取って、頷いていた。



――――【エリーゼ目線】


 ノルドさまが部屋を出られたあと、私はなにかメイナさんの病の原因がなにか掴めないか、聞き取りを行っていました。


「ええっ!? ノ、ノルドさまがメイナさんのおっぱいをお吸いになってたですって!?」

「はい……最初は乳母として……ですが」


 うらやましいのです……。


 私は彼女に妬いてしまってそれどころじゃなかった。


 やだ……私の肌には指ひとつ触れてくださらないのに……。


 私と比べれば、おば……お姉さんなメイナさんなのに……。


「メイナさん! お願いがあります!」

「は、はい……なんでしょう、エリーゼさま……」


 私はメイナさんがノルドさまに愛される理由が知りたくて、治癒を兼ねてあることを実行するつもりでした。



――――【ノルド目線】


 しばらくして……。


 俺はエリーゼに任せたメイナさんの様子が気になり、病室へ入ったのだが……。



 ホワ~ン♡



 ぽとり。


 どういうわけか、エリーゼがメイナさんのおっぱいを吸うという年の差百合カップルの営みを見ることになってしまって、手に持っていた汗拭き用の布を落としてしまう。


「ノ、ノ、ノ、ノルドさまっ!?」

「ノルドさま、また足をお運びになられるなんて」

「エリーゼ、おまえはなにをしてるんだ! おまえまでメイナの乳房を吸ってしまうなど……メイナは不治の病なんだぞ」


 俺は思わずエリーゼを叱るが彼女はメイナさんに跨がりながら、すぐさま弁解を始める。


「こ、これはれっきとした治療です、勘違いなさらないで……言えない……ノルドさまに吸われるメイナさんのおっぱいに嫉妬しただなんて……」

「何か言ったか?」

「いえ、なにも」


 俺に授乳してもらっているところを見られ、メチャクチャ焦ったエリーゼから心の声がただ漏れしていた……。


「なっ!?」

「えっ!?」


 二人で言い合っていると、あれだけ苦しそうにしていたメイナさんはむくりと上半身を起こしている。


「あれれれ? ノルドさま……今日は妙に身体が軽やかです。それに痛みも……」

「ま、まさか私の吸乳が効いたっていうの? な、ならノルドさまにアピールするチャンスです」


 いやエリーゼ、まだ漏れてるぞ……。


「ノルドさまっ! 私はどうやらメイナさんの毒素を吸い出しちゃったみたいです。なので彼女のそばにいることを許可してください!」


「そうか……二人はいつの間にか、もうそんな深い仲だったんだな。よかろう、真実の愛に目覚めた二人を俺は応援しよう!」

「え?」


 エリーゼは拳を握り、自信を露わにしていたので俺は二人の仲を見守ることに決めた。


「では邪魔者の俺は消えるとしよう」

「ちょ、ちょっちょっとノルドさまっ! ノルドさまったら~!」


 やはり美しい百合カップルはてぇてぇなぁ。


―――――――――あとがき――――――――――

新しい恋が実ってめでたしめでたしw

まあノルドは百合のおぺえの間に挟まれると思うんですが……。早く挟んでやれよ、とお思いの読者さまはフォロー、ご評価お願いいたします。

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