第27話 パイセンを教育的指導【ざまぁ】

【解除】


「口を封じるなんて言論統……うー! うー!」


【解除】


「貴様ぁぁーーー許さ……うー! うー!」


 ハンスがなにかしゃべろうとする度に口を封じてやったが、ちょっと飽きてきたので話を仕方なく聞いてやることにする。


【解除】


 それにしても封印耐性ザコすぎだろ……上級生のくせして。


「……なるほどただでは受けられないということか……ならば私が貴様に負けたら、学院から去ってもいい。逆に貴様が負けたら潔くこの由緒ある勇者学院から立ち去れ!」

「なんだと?」


 やった! 


 ここでハンスに負けて、勇者学院を去る口実ができる。


 しかしハンスは俺の驚きを別の意味で捉えているようで……。


「ははっ! 教授代理を任されたとはいえ、所詮青二才。私に負けるのが怖いとみえる」


 負ける要素が1ミリもないんですが、本気ですか? ハンスパイセン。


 さっきから青二才、青二才呼ばれてるんですが、俺前世も含めて、あなたの三倍くらいは生きてるんですけどね。


 エリーゼの好感度をきちんと下げるためにも、俺は散々イキリ散らして無様に負ければ、彼女は俺を見下し、幻滅して二度と俺のところへ来たいとは思わないだろう。


「分かった。おまえとの決闘、暇つぶしの余興として受けてやろう。ありがたく思えよ。この俺がおまえ程度の『ざこざこざーこ、うぷぷぷぷっ』の挑戦を受けてやるんだからなぁ! ははははは!!!」


「くっ、このハンス……こんな屈辱を受けたのは生まれて初めてだ……」


 あれ? 親にも打たれたことない子?


 俺が前世でクソ上司にパワハラを受けたときの100分の1も貶してないのに、ハンスはガクッと膝を折ってうなだれてしまう。


 えーっと、彼はメンタルクソザコくん、なのか?


 ハンスはいつの間にか俺の隣にしれっと寄り添っていたエリーゼの下へ歩みでており、


「エリーゼくん! 君のような麗しく可憐な、そして清楚で聡明な娘が、ノルドの下にいるなど間違っている! 私がノルドの実力と欺瞞を暴いた暁には私と婚約してくれないか?」

「……」


 彼女はハンスの問いに黙りこんだかと思うと俺の胸元に駆け寄り、『マジ、キモいんですけど!』と言いたげに嫌悪感を露わにしている。


「一方通行なのはいかがなものかと思うがな!」

「ノルドさまの仰る通り、本当にそうです!!!」


 いや俺はハンスに言ったんじゃなくて、エリーゼに言ったんだけど……。


「うわぁぁぁぁぁぁーーーーん、あり得ないあり得ない! このイケメンで優秀、そして人徳を兼ね備えた私の申し出を断るなんてぇぇぇーーー!!!」


 他はともかくワカメは兼ね備えているけどな。


 エリーゼにきっぱり否定され、ハンスは俺の部屋で情けなく号泣してしまった。


 えっと……私、失敗したことないので! みたいにハンスは成功ばっかりしてきのかな?


「泣け! 叫べ! そして俺を讃えろ! ハンス、おまえは明日俺の踏み台となるのだ、ははは!」

「ノルドさま、本当に頼もしいです。私に言い寄るあの方に罰をお与えになるのですね」



――――決闘当日。


「ノルド! 貴様は闇系魔導ばかり使い、勇者候補として恥と思わないのか!」


 う~ん、元々勇者になりたかったわけじゃないし、ワルドから言われて渋々入学させられただけなんだがなぁ……。それに戦闘スタイルはみんなさまざまだし、とやかく言われる筋合いもないんだが。


「なにが言いたいんだ。回りくどいことは止めて、さっさと要件を言え。俺は忙しいんだ」


 ホントは暇つぶしなんですけどねー。


「「勇者候補なら候補らしく、私と剣で勝負しろ」」

「と言ったところだろ?」

「な!? なぜそれを……」


 俺がハンスを言わんとすることを一言一句重ねて言ってやったら、ガクガクと震えながら、口をパクパクさせていた。


「き、貴様ぁぁ! 私の心のなかを覗いたというのか!? なんと卑劣な……」

「ノルドさま、私の心も覗いてほしいです……」


 観戦に来ていたエリーゼが俺に声をかけたんだが、う~ん、話がややこしくなるからエリーゼは黙っていようね。


 単にゲーム内でケインとハンスの決闘のとき、ハンスの言い放ったセリフを言っただけにすぎない。


 シャキーン!


 ハンスが白刃を抜き、天に晒すと切っ先が眩く光った。


「早く貴様も抜け!」


 あー、これ俺が抜いたら一瞬で終わっちゃうパターンじゃん。


 居合いの要領で抜き放ったら、剣ごと切れてしまいそう……。


「抜かないなら、私から行く!」


 ハンスの見せ場を作ってやんないと、と思い素手で捌いいたのだが、彼はぶんぶんと剣を振り回すだけで、まったく俺に当たらない。


「ちゃんと狙えよ。俺はここにいる」

「はあ、はあ、ぜえ、ぜえ、ちょ、ちょこまかと逃げるな……はあ、はあ、早……く私の剣の錆となれ……」


 いやハンスの動きのほうが錆ついとるし……。


 わざわざ魔導禁止ルールを求めてきたから、なにかスゴい必殺技でも見せて、俺を倒してくれるのかと期待したが、期待した俺が馬鹿だったみたいで拙い剣技を披露してくれただけに終わる。


「息が整うまで3分待ってやる」

「ぜえ……ぜえ……はぁ、はぁ……その増上慢、ぜったいにこのハンスがへし折ってやるっ! い、息が苦しい、はぁはぁ……」


 ボクシングでも1分なのに、2分近く待ってこれとは……。


 残り1分でようやく息を整えたハンスは俺に感謝の言葉もなく、俺を攻めてくる。


「これで終わりだ! デヤァァァァァーーー!」


 あっ!?


 ハンスは俺に止めを刺そうと深く踏み込んだ。


 あえて俺が踏まなかった場所を……。



 プップップップップップッーーーーーーーーー、ドォォォーーーーーーーーーーーンンンンン!!!



 ハンスが地面を踏んだ瞬間、地面から赤い蛍光色の魔導陣が浮かび上がり、起動した魔導陣はハンスの身体をまるでロケットが打ち上がるかのように軽々と上空へと跳ね上げた。


「うっわぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!」


 ハンスの叫び声が途絶えたところで奴の取り巻きたちがひそひそと話し始める。


「おい、あんなに強力だったか?」

「い、いや、吹っ飛ぶくらいだったはず……」

「ど、どうしよう」

「おれは知らない」

「ぼくも知らない」


 手をかざし、上空を見上げるもハンスが地上に戻ってくる様子はない。まだ5分経っても戻ってこないところを見るとほぼ決着がついたようだ。


「ノルドさま……なかなか戻られませんね」

「だな」


 って、しれっと俺の隣にはエリーゼが寄り添っており、びっくりした。


 まあ俺は予測がついてたんだけど、ハンスとその仲間が昨晩からご苦労なことにも夜なべして、地面に地雷式魔導陣を仕掛けていたので、俺は超強力なものへ書き換えておいた。


 ハンスの実力では俺を倒せそうになく頃合いを見て、俺が踏むつもりだったんだが、俺ではなくハンスが踏んでしまったのだ。


「ククク……勝ちを急いで自爆とは……」



――――ノルドの教授室。


―――――――――――――――――――――――

 親愛なるメイナへ


 俺は元気にやっている。メイナは元気か? ワルドたちになにかされていないか? もしそんなことがあれば、すぐ伝えてくれ。勇者学院など捨てて、おまえをすぐ助けに戻る。


 先日詰まらぬ者の挑戦を受けたが、本気を出すまえに終わってしまって実に悲しい。修行しすぎるのも考えものだな。

―――――――――――――――――――――――


 どうしたものか……。


 現地語は完璧にマスターしたはずが、どうしても文書すらノルド語に変換されてしまう。


 ドンドン……。


 俺がヴィランス家にいるメイナに手紙をしたためようとしていると……。

 

「ノルド! たいへんだよ、ハンスが見つかった」

「聞いて驚くなよ! あいつ、オイラーン帝国にまで飛ばされて、全裸でいたところを拿捕されたみたいだ」


 ハリーとグレンが俺に伝えにきてくれていた。


「ククク……それはちょっとした珍事だな、全裸だけに」


―――――――――あとがき――――――――――

新年会忘年会シーズンですので皆さま、どうぞ深酒にはご注意して、全裸で寝ることのないようにお過ごしください。さすがに作者は全裸で路上に寝てたことはないのですが、終電に間に合わず夜通し歩いて帰宅したことがありますorz

これから飲むぜ! という読者さまはフォロー、ご評価を忘れずにお出かけ、飲酒をお願いいたします。

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