第28話 伯爵家の没落
――――【エリーゼ目線】
「えっ!? リン、それは本当なのですか?」
「はい……私も本日を持ちまして、旦那さまからお暇をいただくこととなりました」
突然もたらされたメイドのリンからの報告に私は戸惑うばかりでした。
「でも、お父さまはスッター商会を信頼を寄せて、投資されていたはず……なのにどうして……」
「彼らは、はじめから旦那さまを騙すつもりでいたのでしょう。残念ですが、旦那さまが領地もお屋敷も担保に入れ、商会に投資されたうえで夜逃げされてしまった以上、どうすることもできません……」
度がすぎるほどお人好しと言えたお父さま。私はそんなお父さまのことが好きでしたが、そんな人を疑わないところを彼らにつけ込まれてしまったのかもしれません……。
「リン……あなたはこれからどうされるのですか?」
「私ですか? そうですね、故郷へ帰り親の手伝いをして過ごそうかと」
リンは深々と私に頭を下げたあと、
「エリーゼお嬢さま、いままでお世話になりました。お嬢さまと過ごした日々は本当に楽しかったです。ずっとごいっしょに過ごせればどれほど良かったか……」
「それは私も同じです。私はリンを姉のように慕っておりました。
メイド服の着の身着のまま、衣装かばんひとつだけ持って、私の下にお別れのあいさつに来てくれた彼女を見ると不憫でならなくて……。
「待って、リン!」
私は彼女に持てるだけの身銭を渡しました。
「お嬢さまっ! こんなにも……でもこちらは受け取れません……こんなことを言うのは申し訳ないのですが、お嬢さまも、もう明日の生活すらも苦しい身なのですから」
「大丈夫です! 私はなんとでもなります。それに……運命の人のお側に寄り添えるチャンスでもあるのです」
――――【ノルド目線】
「と言うわけなのです……」
「で俺におまえを雇って欲しいと」
「はい……」
「なるほどな、事情は分かった」
気が早すぎるエリーゼに俺は額に手を置いて、呆れていた。
エリーゼはまだ俺が雇うとも言っていないのに、えちえちへそ出し制服からメイド服に着替えて、わざわざ俺の部屋を訪れてきたのだから。
「ホントですか!? では私をこちらでノルドさまの専属メイドとしてお雇いいただけるのですね!」
エロゲ内ではノルドを汚物でも見るかのような目で蔑み、蛇蝎の如く嫌っていたエリーゼが小公女セ○ラばりに不幸のどん底にあるにも拘らず、キラキラした瞳で俺の返事を待っていた。
「エリーゼよ、俺はおまえにひとつ訊ねたい。なぜ、俺に雇われるのが最優先なのだ? 伯爵家ともなれば他に貴族もしくは裕福な親戚縁者はいるだろう」
「私は親戚に頼るよりも自ら働き、生きたいのです! どうか私の願いを……じゅるる……」
15歳で自活しようなんて、異世界では貧しい人たちはそうしてるが、貴族ではなかなかいない。たいそうご立派な決意なのだが、とろんと蕩けた目で俺を見て、口角の端からよだれを垂らすのはどういうことなんだろう?
待て! これはエリーゼの罠だ!
俺を油断させ、ケインと仲の悪いふりをして寝込みにズブッとナイフを突き立てるということも考えられなくはない。
「ダメだ、ダメだ。俺が雇うより良い働き口はいくらでもある。なんなら親しくしているギルドに紹介してやっても構わん」
「えっ!? 私……ノルドさまの下で働けないのですか? お兄さまはノルドさまの傍にいられたというのに? もしかして、ノルドさまはお兄さまとそういうご関係だったのですか? ノルドさまがタチでお兄さまがネコとか……いえ、意外と逆だったり……ふふっ」
腐っても令嬢のプライドは持ち合わせていると思ったがいつの間にか腐女子になっていたのか?
俺に断られたことでエリーゼがBL妄想モードに入ってしまい、変なうわさを学院内にふれ回って歩きかねないので、仕方なく話を聞くことにした。
「断じて違う。まったく令嬢というものはそんな不埒な思考しかないのか。とにかくだ、おまえも没落してしまったとは言え、貴族令嬢の端くれ。伯爵家の令嬢をメイドとして雇ったりすれば、公爵家の名に傷がついて、どんな悪い噂を流されるか分かったものじゃない」
「私はまったく気にしません! むしろ役得というかぁ……」
「俺は気にする! ええい、仕方ない。おまえがちゃんと学院を卒業できるようリリアンの奴に掛け合ってやるから、待ってろ!」
「ああっ……やはりノルドさまはお優しいです。でも私は卒業よりもノルドさまにお仕えする方が……いいえ、卒業後永久就職というのもいいかも……」
「なにか言ったか?」
「いえ……なにも……」
優しさから来るものじゃなく、エリーゼにずっと傍に居られて、いつ寝首をかかれる分からないような生活を送りたくないだけだ!
――――学院長室。
「で、エリーゼを特待生にしろ、と」
「そうだ。話が分かったなら、すぐに認めろ」
「エリーゼは成績優秀、品行方正、眉目秀麗ともう非の打ち所のないいい生徒よ。でもね、そうなると困ったわね~。うちの決まりで特待生は一学年にひとりなのよ。いまはケインがそうね。エリーゼに特待生を変えると彼が外れちゃうの」
なんだって!?
「いいじゃない。エリーゼを雇ってあげたら。ヴィランス家の財力なら召使いのひとりやふたり雇うなんて、鼻をかむより簡単でしょ?」
「ぐぬぬ……」
「ありがとうございます、リリアン学院長!」
「いいのよ、エリーゼは私のかわいい生徒だから」
くそう! リリアンの奴、俺に勝ち誇ったような顔をしてやがる。エリーゼのためなんかじゃなく、俺の嫌がることを熟知して俺にエリーゼを押しつけやがったに決まってる。
「じゃあ、特別にエリーゼの部屋は令嬢寮から令息寮に移れるように取り計らってあげる。確かノルドの隣が空いていたわよね」
「なんだと!?」
「わぁっ! リリアン学院長、私、先生のこと大好きです」
まさかエリーゼとリリアンはグルだったのか!?
エリーゼと抱き合いながら、俺の方を向いてニチャァァァと笑ったリリアンがマジむかつく!
―――――――――あとがき――――――――――
いや~外堀から埋めてこられましたw
俵級にぶっといノルドの
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