第29話 令嬢メイド

――――【エリーゼ目線】


 ついにやりました!


 憧れのノルドさまの側でお仕えできるなんて……。


 もう二度とお会いすることができないと思っていたノルドさまと再会できたうえに同じ勇者学院で同級生として学べるようになるなんて思ってもみませんでした。


 本当はいい人なのに妙に悪ぶろうとする姿がかわいく私の母性をくすぐってきて、堪らないんです。


 私のマグダリア家とヴィランス家は対立するいわば政敵同士。


 貴族の娘を助けたりしたら、見返りを求めてくるのがふつうなのに、彼はなにも求めてきませんでした。


 たぶん彼は私たちが結ばれてはいけない関係だったのだと知っていたからだと思います。


 両親にそれとなく訊いてみたのですが、ヴィランス家の名を出した途端、いつも柔和な笑顔を浮かべているお父さまの顔色はみるみるうちに眉間にしわを寄せた不機嫌さを表してしまっていたのです。


『我が娘をヴィランス家の者にやるくらいなら、一家心中したほうがマシだ!』とまであの優しいお父さまが言うくらいですから、両家の溝は相当深いのだと知りました。


 ですが!


 私の家は没落してしまい、もうノルドさまの側にいることを反対する者はおりません。



 ああ! ついに禁断の恋が許される……。



 ノルドさまのことを考えるだけで私の身体はふわふわと宙に浮いているような気分に……。


 あ、知らず知らずのうちに浮いておりました。



――――【ノルド目線】


 エリーゼは俺に丁寧に頭を下げた。


「不束者ですがどうかよろしくお願いします」


 それじゃまるで嫁入りまえのご令嬢といった雰囲気を漂わせながら……。それに着ている服がそもそもおかしい。


「俺は別にメイド服に着替える必要はないと言ったはずだが?」

「長らく私のメイドを務めてくれたリンが私に譲ってくれて、せっかくだと思ったのです。それにとても動きやすいんですよ」


 メイド服自体は言うほどえちえちではない。


 だがエリーゼが着るだけでこんなにも変わってしまうのかと驚きを隠せないでいた。


 まるで俺の好みに合わせたと言わんばかりの銀髪のツインテールがどちゃくそかわいい……。おまけにテールの根元には黒のリボンが結ばれ、銀髪とのマッチングはTKG卵かけごはん並みに素晴らしい。


 そもそもノルドにNTRされたときはそんな髪型じゃなかったし。


 着丈こそ合ってはいるものの、エリーゼの豊満な乳房のためにブラウスがぱっつんぱっつんになってしまっている。


 それに白いストッキングにも拘らず、まったく太さを感じず、スカートから覗くエリーゼの美脚でありながらむちっとした肉感を際立たせている。


 それに履き口のレースとスカートから伸びるガーターのベルトがクソエロい……。ガーターベルト着用時のおパンティ、上から穿くのか、下から穿くか……由々しき問題だ。


 ちなみにノルドに寝取られるまえのエリーゼはガーターベルトのうえからおパンティを穿いていた。それだとガーターベルトとストッキングをつけたまま、おパンティを脱げるからな。


 蔑むような目でノルドを睨みつけながら、顔を赤くして、下着を脱ぐエリーゼの表情が思い出されてしかたない。


 『成勇』ファンからは歩く性女と呼ばれるだけはある恵体だ。そんなエリーゼがうれしそうにカテーシーをすると俺に屈託のない笑顔を向けてくる。



 しまった!



 俺に精神攻撃をしかけてくるとは……おかげで股間が腫れてしまったじゃないか。これが俺を欺くためのぜんぶ演技だとしたら、大した役者だ。


「ノルドさま、なにかお仕事はございませんか?」

「あと気になっていたことがある。そのノルドさまというのは止めろ。俺とおまえは同じ貴族。気を遣う必要はない」


「ですがノルドさまは私のご主人さま……。ご主人さまに対して、呼び捨てなどできようはずがありません」

「分かった、分かった……。おまえの好きなように呼べ」


「はい、ノルドさま!」


 エリーゼは俺に満面の笑みを向けていた。


 ノルドに向けるヤンデレ顔とケインに向ける優しげな微笑み……。


 ノルドを刺殺し、ハッピーエンドと迎えたときにケインへ向ける眼差しとそっくりで俺は微笑み返すことすらできないでいる。


 俺は大きな机のまえに座っていたが、エリーゼが側に寄ってくるので座る場所を移した。


「なぜそこにいる」

「はい、いつでもノルドさまのご命に応じられるようにと」


 俺がエリーゼから距離を取ろうとベッドに腰掛けると向こうから寄ってきて、エリーゼは俺の隣にちょこんと座ったのだ。


「座るのは許可しよう……だが近いぞ」

「はい、近いほうがノルドさまがなにを思っていらっしゃるのか、感じ取りやすいと思いまして」


 このままだと俺はエリーゼにずっと監視され続け、それにより集中力を切らしたときにズブり……と殺られるんじゃないかと警戒した。


「そうか、なら教えてやろう! 俺はおまえに無理難題を言ってやるから、応えてみろ!」

「はい! よろこんで!」


 居酒屋の店員以上に屈託のない笑顔で返事されるので堪らない。


「俺はおまえを犯したくてたまらない! ずっとこの部屋に留まれば、おまえは俺に貞操を奪われ他の男と婚約などできない傷物になってしまう。どうだ、恐ろしいだろう! そうなりたくなければ、早々に俺の部屋から……」


「それはノルドさまが私と一夜を共にしてくださると解釈してよろしいのでしょうか? 私のように没落してしまい、なんの取り得もないのに女として見てくださるんですよね。私、ノルドさまのお顔も、そのいつも自信に満ち溢れた態度も、身上の方々にも屈しない強さも、すべて憧れてしまいます。私にないものをノルドさまはすべてお持ちなのですから……」


 ……して、許して……。


 エリーゼのなかの俺の評価が爆上がりしていて、なにを言ってもいいようにしか取られない……。


 仕方ない、こうなったら身体検査するしかねえ!


「だったら、ここで服を脱いで裸になってみろ!」

「えっ!?」


 エリーゼは俺の無茶ぶりに戸惑ったのか、口に手を当てて戸惑いの表情を見せていた。


 さすがにヌードになれ! なんて言えば、嫌われてもうこの部屋に来ないだろう。


 それでいい。


 俺の学院生活は平穏に戻ってくれるのだ。


「本当に私の身体を見てくださるのですか? ち、乳房など膨らんでしまい見られるのが恥ずかしいんです……でもノルドさまが見てくださると言うなら、よろこんで……」

「は?」


 おかしい! おかしいって!


 ふつうこういう場合は髪の生え際から目元にかけて、縦の集中線が入り、ドン引きされながら、まるで汚物を見るかのように蔑まれるはずなんだよ!


 それがどうだ? 


 顔だけじゃなく、白雪のように美しい肌を桜色に染めて、恥じらい艶めかしい肢体をもじもじさせてるとか……。


「他の男の子はおろか、お兄さまにも見せたことないんですよ……初物の私の裸をご覧ください……」


 焦らしているわけじゃないと思うのだが、恥じらいからか白いエプロンの紐を解く仕草がたどたどしい。


 はぁ……はぁ……。


 なんて姑息な戦法を……。


―――――――――あとがき――――――――――

読者の皆さま、裸エプロンはお好きですか? 作者は大好物です! 本来は玄関先でご主人さまをお迎えし、「ご飯にします? お風呂にします? それとも……ワ・タ・シ?♡♡♡」というテンプレをなさねばなりませんwww

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