第30話 聖剣の儀

 ごくり……。


 ブラウスのボタンをひとつひとつ外してゆくエリーゼの姿がラブホで一戦交えるまえに服を脱いでいる女の子に見えてならない。


「着ろ!」

「えっ!?」

「おまえのやる気が本気が試してやっただけだ」

「では合格ということでよろしいのでしょうか?」

「仮採用って奴だ。変な気を起こせば即解雇だ」


「ありがとうございます!」

「抱きつき禁止だ!」


 俺をまるで大きなクマのぬいぐるみとでも思ったのか、エリーゼは無邪気に笑いながらひしっと抱きついてきていたのだった。



 エリーゼを渋々雇い入れて数日後。


「ノルドさま、おはようございます」

「ああ……今日も早いな」


 エリーゼは毎朝、幼馴染ポジションよろしく通い妻のように俺の起こして欲しい時間に起こしに来る。寝起きの悪いことも多々ある俺だが、彼女に起こされると不思議といつも快調になっていた。


 俺に向ける優しげな眼差し。


 さすが聖女候補といったところか……。



 だが、なぜだ!?



 なぜ、エリーゼはケインでなく、俺のところへやってくるんだ?


 そうだ、ケインは弱すぎるんだ。


 エリーゼの言っていた言葉を思い出す。


【私、ノルドさまのお顔も、そのいつも自信に満ち溢れた態度も、身上の方々にも屈しない強さも、すべて憧れてしまいます。私にないものをノルドさまはすべてお持ちなのですから……】


「ノルドさま、お茶が入りました。毒味の必要はありますか?」

「いや、その必要はない」


 ハーブの良い香りが鼻腔をくすぐり、俺のために淹れてくれた紅茶を無性に飲みたくなってしまい、口をつけた。


 エリーゼに絆されたわけなんかじゃない。ただ喉が渇いていたからだと自分に言い聞かせた。


 とにかくだ。ケインを強化しない限り、エリーゼは俺のところに来続けてしまい、いずれは……。


 ぶるるっ。


 彼女が慣れない手つきで淹れてくれた紅茶で身体が温まっているというのに、彼女にノルドが刺殺されたときのヤンデレ顔が浮かんできて、全身に寒気が走った。


 ちなみに【毒検知】したところ、まったく反応しなかった……。


 じわじわ弱らせて、止めを刺す作戦じゃないのか?


 まあいい。


 いずれ、馬脚を現すことだろう。そのときは……。


「お口に合いましたでしょうか?」

「ん、まあな。味は悪くない」

「よかった! ノルドさまに気に入っていただけて光栄です」


 飲み干したカップをソーサーに置くと、エリーゼはトレーを胸に抱き、不安そうなに訊ねてきたので、無難な答えを返すと堅く閉じていた蕾が開いてたんぽぽのように明るい笑顔を咲かせていた。


 いちいち俺に見せる笑顔がかわいいが、ノルドと違って、俺はその程度では欺かれたりしないぞ!



 もうそろそろ俺とケインは初対決を迎えることになる。確実に俺がケインに負けるためには彼に聖剣を入手してもらわないといけない。


 俺がわざとらしく負けても、エリーゼが絶対に俺が負けてなく、手を抜いたとか言い出しかねないのだから……。


 おそらく俺たちを戦い抜かせて、ノルドが無様に死んでいく姿を見たいのだろう。そうならないためにもケインにはエリーゼを射止めてもらい、彼女を引き取ってもらわないと。

 


 これからケインはエリーゼの発案で聖剣を引き抜く儀式を行う。


 なぜなら聖剣を獲得するとふざけたクイズ番組で最終問題だけポイント2倍みたいな、いままでの努力を灰燼かいじんに帰す力があるのだ。


 ふつうならまったくやってらんねえぜ、となるのだが、それなら俺がケインに負けても言い訳が立つと踏んだ。


 「ケイン! おまえが強いんじゃない、聖剣が強いだけだ!」とちゃんと悪役らしい捨て台詞もすでに考え、計画としては控え目に言って完璧。


 不慣れながらも一生懸命入れてくれた紅茶を啜りながら、エリーゼへ伝える。


「エリーゼ、俺は出かけるところがある。危険が伴うから絶対についてくるなよ」

「は、はい……ですが、ノルドさまでも危険な場所があるだなんて、二人で行ったほうがよくありませんか?」


 くっ、ド正論だ……。


「そこまで危険じゃない。すくなくともエリーゼに足を引っ張られてしまっては成功するものも、失敗してしまう」

「分かりました。ノルドさまの邪魔はしたくありません。ここで大人しくしていようと思います」


 いつもなら、ごちゃごちゃと俺に反論してくるのに、今日のエリーゼはやけに素直だった。



 学院の裏には伝説の聖剣が刺さった丘があり、そこで告白した男女は永遠に結ばれるらしく、学院7不思議のひとつとなっている。


 10分ほど歩くとアーサー王伝説よろしく巨大な岩に聖剣が刺さっている光景が見えてきた。


 ちなみにノルドの終焉の地なんだけど……。


 ヘタレのケインのことだ。ちっとやそっとじゃ聖剣は抜けないだろうと考えて、抜け易いように手助けしておいてやろうと思ったのだ。


 俺自身は暗黒騎士なのでまさかと思うが聖剣は引き抜けないだろう。


 『成勇』のなかじゃ200年ほど抜かれてなかったらしいが、どういうわけか分からないが刃は錆ひとつなく光輝いていた。


 俺は柄に手をかけ、両手で力の限り引いてみる。



 ググッ!!!



 両手に伝わる確かな手応え。だが刃が岩から抜け出てきた様子はない。少し力を抜きすぎたみたいなので本気を出してみた。



 ごぼっ!!!



 は?



「そんなのありなのか!?」


 俺は目の前の光景をまえに目を疑った。


 ぬ、抜けてる……。


 いや正確には聖剣が刺さった巨岩ごと大地から引き抜いてしまった……。


 誰にも見られていないうちに元に戻さないと!


 俺は急いで聖剣の刺さった巨岩を大地に戻したときだった。


 慌ててたためか、勢いよくメイスのような、ハンマーのような形になってしまった聖剣を大地に叩きつけてしまい……。



 ピキッ、ピキッ、ミシッ、ミシッ……。



 パカッ!!!



「はあぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」


 最後まで巨岩から抜けなかった聖剣だったが俺が勢いよく戻してしまったために巨岩は大地にぶつかり、聖剣の刺さった部分から亀裂が入り、真っ二つに割れてしまっていた。


 俺は図らずも聖剣をまったく違う形で手にしてしまったのだ……。



 いやどーすんの、これ。



 聖剣を掲げ、「俺、なんか抜いちゃいました」をやってしまった。


 甘栗剥いちゃいました、てへっ♡ って詰まらんギャグをかましてる場合じゃねえ!


 誰にも見られないうちに戻しておかないと……。


「ノルドさまぁぁぁーー、どちらにいらっしゃるんですかぁぁーーっ?」


 んげ!? あの声はエリーゼ!?


 俺が棚ぼたで抜いてしまったエクスカリバーを手にしているところなんて、見られでもしてみろ、エリーゼは『ああっ! ノルドさまがやっぱり真の勇者さまだったのですね!』とか言い出しかねない。


 そうなってしまえば、ケインは完全にお払い箱だ!!!


 俺は苦し紛れに慌てて、聖剣を背に隠していた。


―――――――――あとがき――――――――――

ということで性剣をシュポっと抜いちゃいましたwww 性剣だけにえっなのかどうかは、また明日にでも。面白ければ、フォロー、ご評価お願いいたします。

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