第31話 演出

 そんなこと思っている間にも、俺がいま最も見られたくない人物であるエリーゼは縮地でも身につけたのかと思うほどの速さで俺のまえに立っていた。


 ふつうならば、ご主人さまを心配して危ない道中を気にも留めず、必死になって追いかけてきた健気なメイドの頭を撫で撫でして、ほめてやりたいところだが、そんな甘いところを見せるわけにはいかない。


「俺は危ないからついてくるなと言っただろう……まったくなにを考えているのやら……」

「はい、私が考えているのはノルドさまのことばかりです……朝も昼も夜も……もちろん寝ているときもです」


 は?


「ノルドさま……私を置いて、お一人で出かけてしまうなんて、酷いです……」

「俺の彼女気取りとは呆れて物が言えん」


「彼女なんてとんでもございません。なんと言えばよろしいのでしょうか? 私はノルドさまの性のご奉仕をするメイドなのです……」


 エリーゼはもじもじと内股をすり合わせ、ぽっと頬を赤らめながら、恥ずかしいことを言ってしまう。


「おまえに性処理されるほど、俺は女には困っていない!」


 というほど俺がノルドになってからは経験人数はひとりなんだが……。


 エリーゼから嫌われるように下衆いことを言ってみたのだが、彼女はなにか勘違いをしているようだった。


「ではノルドさまとの夜伽を務める際は期待してもよろしいのでしょうか? はぁはぁ♡」


 なんの期待だよ……。


 経験人数に起因するえっなテクニックについてか? 確かにノルドはエリーゼを即イキさせてたけど。


「ところでノルドさま、そのうしろに隠されているものはなんでしょうか?」

「な、なんでもない」


 くそ、聖剣という名は伊達じゃなく、俺の隠蔽魔導【秘匿の影ハイドシャドウ】の黒霧が霧散してしまう。


「も、もしやそれは伝説の聖剣エクスカリバーなのでは!? お兄さまですら抜けなかったというのに……やっぱりノルドさまは最優の勇者さまなんじゃ……」

「なんでもないただそこに落ちていた棒切れだ」


 盛ってるくせして、エリーゼはきっちり隠した性剣セクスカリボーじゃなかった、聖剣エクスカリバーに気づいてしまった。


「あっ!」

「危ない!」


 聖剣を隠した俺の後ろに回り込もうとしたエリーゼはつまづいてしまい、転びそうになって……、



 ドタ~ン。



 二人で絡み合って転んでしまった。


 暗黒騎士と言えども騎士の端くれ。たとえ近い将来に俺を殺しに来ると分かっている淑女でも守らねばならない。


 気づくとエリーゼの左手で頭を抱え、腰を打たないよう右手でおしりを覆っていた。


 間近で見るエリーゼの顔。


 お互いの吐息がかかり、呼吸を感じ、鼓動は密着した身体から伝わる。


 エリーゼの髪は陽の光を浴びて銀色に輝き、香水とは違う彼女由来の良い香りが漂ってくる。


 透き通るようなブルーの瞳からは彼女の芯の強さが、白桃のような肌は俺と間近に接していることでほんのり赤く染まっていて艶っぽい。


 唇はグロスなんて塗っていないのにさくらんぼのようにぷるんと弾力と艶が際立つほどの美しさだ。


「ノルドさま、そんな大胆な……」

「ち、違う! これは押し倒したのではなくてだな……」


 エリーゼが転ぶときに偶然俺のつま先に引っかかってしまったのを足払いで倒したとでも勘違いされたのかもしれない。


「良いのです……ノルドさまは言葉はお強いですが誰よりもお優しいことは私がいちばん理解しておりますから!」


 いやむしろ俺をいちばん理解していないのはエリーゼだよ! って言いたくなる……。


「知った口を……。俺のなにを理解できているというのだ?」

「失礼いたしました。ならばノルドさまに私を理解していただきたいのです」

「理解だと?」


 エリーゼは俺に頭を抱かれたまま、こくりと頷いた。


「……私、学院の図書館で学んだんです」

「なにをだ?」

「はい、こういうお外で男女がまぐわうのを“青姦“と称するということを……」


 うちの学院の馬鹿野郎ーーーーーーーーーーッ!


 マジいらぬ知識ぃぃぃぃーーーー!


 次期聖女と目されるエリーゼに破廉恥極まりない知識を与えてどうするんだよ!


 まさに破廉恥学院……いやエロゲ世界だからおかしくはないんだが……。エリーゼは思春期真っ盛りの男子中学生がエロワードを検索して、ムフフな妄想しているようだった。


「その本の名を教えろ」

「ノルドさまも読まれるのですか?」

「いや禁書にしてやる!」

「なるほど! 私たちだけの秘密にするのですね。さすがノルドさま、素晴らしいお考えです♡」


 どうしてそうなる……。


 俺たちが大地に臥して抱き合っていた、そのときだった。


「なっ!?」

「えっ!?」

「あ、いいから、いいから。そのまま続けて。あたしさ、こういうエッチシーン見るの、200年ぶりだから楽しみなんだよね~」


「誰だ! おまえは?」

「あ? あたし? あたしはエックス。聖剣の精だ。みんなはセイバー・エックスからセッピースって呼んでる」


 ふと手元にあったエクスカリバーが無くなっている。


 おい、誰だ? 


 このいきなり猥談をぶちかます美少女の封印を解いたのは!


 あ、俺だった……。


―――――――――あとがき――――――――――

えっと……まだ12月1日ですよね?(現実逃避)

なぬ、もう大晦日? 嘘だと言ってよ、バー○ィ!

まだ今年終わるなという読者さまがいらっしゃいましたら、フォロー、ご評価お願いいたします。


衝撃の事実に狼狽しておりますが、また新年もお付き合いしていただけましたら、よろしくお願いいたします。それでは良いお年をお迎えください。


新年開始はノルドとエリーゼが姫始めをするところからかもwww

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