第40話 毒親の鼻を明かす

 俺たちが家へ戻る途中、魔物たちに蹂躙されたであろうショタっぽい奴を見つけた。


 その転がった死体を棒でつつく。


「返事がない。ただの屍のようだ」

「死んでない!」

「おお!? 生きてた……」


 そういやグラハムの奴がケインの体力をゾンビ並みにしたとか言ってたか。


「ヴィランス家の領内になんのようだ? そのように全裸でいるとそれこそ魔物と間違われ、殺されても知らんぞ」


「うるさいうるさい! ボクのエリーゼを大切にしないばかりか、村の女の子たちを手込めにするなんて、おまえは勇者学院にいて、いい奴じゃない!」

「俺はエリーゼに任せている。彼女が俺の部屋に来るのは彼女の意志に過ぎん」


 だって、彼女に「来るな!」つっても勝手に来ちゃうんだもん。もう、どうしようもねえよ。


「嘘だっ!」

「ククク……俺よりもおまえのほうが村娘を襲っているみたいだぞ。俺を嘘つき呼ばわりするまえに、粗末なモノを隠せ。おまえの愛しいエリーゼがこちらを向けないでいる」


「はっ!?」


 俺が股間を隠すハンカチを放り投げてやると慌てて、まえを覆う変態勇者。


 薄布をまとう股間戦士にお節介ながら、道中で拾った武器を押し付ける。


「真の勇者であるなら、簡単に自分の得物を奪われるな。せっかく俺がレプリ……げふんげふん」


 ノルドが勝手に聖剣のレプリカを渡したというネタバレをしそうになったので、慌てて口を塞いでせき払いした。


 こんな面白いことをパラしてしまっては……もったいなさすぎ。


 そう思った俺は内実ノルドよりも性悪なのかもしれない。


 来なくてもいいのにエリーゼが馬車からわざわざ降りてきて、ケインに向かって指を差した。


「ケイン! あなたがノルドさまを悪く言うのは許しません! ノルドさまは自らの命を顧みず、1000万もの魔物の群れを相手して、黒の勇者となられたのです!」


 エリーゼぇぇぇぇーーーーーーーーーー!!!


 ホントの成果はお子さまラーメン程度なのに、二郎ラーメン全マシマシくらい盛りに盛っちゃった……。


 しかも黒の勇者が固定化されてるし。


「嘘ダァァァァーーーーーーッ!!!」

「正真正銘本当のことです」


 いや嘘です……。


 嘘! 大げさ! 紛らわしい!


 BPO放送倫理・番組向上機構が異世界にも存在したら、こってり絞られるやつだ。


 俺を賞賛してくれるのはいいが、ジローゼには参ってしまう……。


「さあノルドさま、戻りましょう!」

「……」


 あ? え? 彼置いていっていいの?


 エリーゼは俺の手を引き、馬車へ乗り込むと勝手知ったる我が家のメイドと言った感じで「お願いします」と御者に声をかけて、あ然とする俺をよそに馬車は走り出してしまう。


「エ、エリーゼ……ボクを置いていかないでくれーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」


 ズデンと転んで、泥まみれになるケイン。だが彼女はケインに一瞥もくれることなく、まえを見ていたが、俺は馬車を薄布一枚で追いかけてくるケインが不憫でならなかった。


 

――――ヴィランス公爵家の正門前。


【家に帰るまでが遠足です】


 目の前に広がる光景に思わずそんな言葉が湧いてくる。


「なにをしている、おまえは?」

「ミャオーン♪」


 わざと泳がすように逃がしたが、まさかここまで露骨だと苦笑いすら起きない……。


 馬車があと数百メートルで正門へたどり着くといったところで、白いケモミミと白と黒の縞のしっぽの獣人であるマオがいたのだから。


 しかもマオは捨てられた猫のように身体がすっぽりはまる木箱に入っており、


「魔王軍を辞めてきた!」


 俺が憐れみを含んだジト目でマオを見つめていると、彼女はあっけらかんと言い放つ。


 どうして、俺のところには管理職をほいほい辞める奴が集まってしまうんだろう……。


「おまえ、そうやってかわいそうな振りして、俺の気を引くつもりだろう!」

「ぬ、抜けない! 出して、出して! ノルドったらぁぁ!」


 箱がおしりにすっぽりはまって、取れない魔王軍の元四天王。


 こいつは控え目に言って、アフォだろう……。


「俺はおまえみたいに残念な奴と真剣にやりあったことを深く後悔したい……」



――――俺の部屋。


 エリーゼはマオを見て何者か量りかねているようだったが、魔王軍四天王だったのに妙にフレンドリーな彼女に戸惑っている。


「俺の古い友人だ」

「そうそう」


 俺の適当なことを言って、お茶を濁しておいた。


 エリーゼはもちろんのこと、家人の誰ひとりとして、マオの正体を知る者はおらず、知ったら知ったで一大事になることは間違いない。


「なに? 俺の強さを伝え、援軍を要請したら、指を詰められそうになっただと?」

「そうそう。ノルドの強さはおかしい! あいつ魔王でも勝てないって」


 指詰めって、どこの組なんだよ……。


「それにしてもおまえ、猫の獣人の割りに強いほうだよな」

「猫じゃない! 虎! しかも白虎だから」

「はい、猫缶!」

「みゃっ!?」


 銀製の皿に白身魚のすり身を入れたものを投げるとマオは華麗に口で咥えキャッチしていた。


「猫じゃねえか……」

「猫じゃないにゃ……うまうま」


 魔王から足抜けしたマオは碌に食べてなかったらしく、猫餌を平らげると銀の皿のまえで両手を合わせた。


「マオよ、おまえは社会を舐めてる。一度くらい上司に叱責されたぐらいで簡単に職場放棄するなどあり得ん! 戻ってやりなおして来い!」


 正直俺が前世でどれだけ上司に詰められたか、こいつに延々と説教してやりたい気分だ。


「やだ。ノルドに飼ってもらうまで居着いてやる」

「ああ! もう! どいつもこいつも俺に飼われたいとかおかしいだろ!!!」


 呆れて、叫んでいるとワルド付きの執事がやってきて、俺に告げる。


「ノルドさま、旦那さまがお呼びです」

「分かった、すぐ行く。マオ! 俺が戻ってくるまでおまえの処遇はあとだ。それまで待ってろ」

「はぁぁぁーーい……」


 ふて腐れたようにマオはしぶしぶ従者たちに従い、来賓用の部屋へ送られていった。



――――ワルドの書斎。


「魔物が大挙して襲来だと?」

「ああ、すべて処理したがな」

「そうか。だがノルドよ、調子に乗るな。あの程度の寒村を守ったところで、ヴィランス家にはなにも影響を及ぼすことはな……」


 児童労働をさせておいて、これである……。


 くどくど、ねちねちとワルドのお説教が続きそうな雰囲気を醸し出すなか、急にワルドの執務室のドアがノックされる。


『ワルドさま、急報です』

「なんだ? いま愚息を叱っているところだ!」

『ノルドさまにも関わることですので!』


 ワルドはふんと鼻を鳴らしたあと、従者に入室を許可する。従者は一旦立ち止まり、俺たちに一礼したあと、バルコニーの扉を開け放ち端に避け跪いた。


「御覧ください! メタミン村からの貢納にございます!」


 従者が差し出す手のひらの先にはメタミン村から引き上げてきた馬車の車列が途切れることなく、公爵家の資財庫へと運ばれてゆく。


「な!? なんだと!? まさかおまえがやったというのか?」

「ああ、この程度……俺に取っては朝飯……いや、断食明けでも余裕だな」


 くっ! っと劣等感の固まりであるワルドが強く歯噛みしたのか、神経質そうな顔が歪む。


 あとアホな魔王軍の幹部マオを拘束したが、俺の人生最大の汚点になりそうなので黙っておいた。


  だが当初帰宅するつもりはなかったが、ワルドの顔を見て分かったことがあったので、戻ってきて良かった。


 魔物の襲来の話をしたとき彼の表情を見る限り、本気で驚いていた。


 ワルドの本来の目的は村娘たちを犯させて、村を焼くという領主としての非情さを身につけさせたかったのだろうと予想できた。


 じゃあ誰があんなに魔物たちを呼び寄せられたというのか?


「悔しいがおまえの功績を認めざるを得ない……。おまえの顔など見たくもない、しばらく私のまえに現れるな! バカンスにでも行って来い」

「言われなくても行ってやる」


―――――――――あとがき――――――――――

久々に出てきたケインは真っ裸でしたw

バカンスと言えば真夏のアバンチュール♡ いよいよエリーゼと年貢の納め時か? えちえちぐいぐい来るエリーゼが見たい読者さまはフォロー、ご評価お願いいたします。

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