第39話 これが修正力というものか!

 ――――魔物の群れだぁぁぁーーー!!!


 村人と思しき者の叫び声が村中に響いた。



 窓から外を見るとひとりの村娘がゴブリンの群れに囲まれ、恐怖のあまり腰を抜かして動けないでいる。


「ひ、ひぃ、こ、来ないで、来ないでったら……」


 ――――ギギギギ、おんな、おんな、犯す。


「砕け! ガリアヌス蛇腹剣っ!」


 俺は枕元に置いていたガリアヌスを手にすると窓のまえから振りかぶる。すると鎖でつながれた剣身が分かれ、ゴブリンたち向かって伸びてゆく。ガリアヌスは大蛇キングアナコンダのごとく這いよりゴブリンたちに巻きついた。


「締め上げろ! ガリアヌス!」


 ――――アギャァァァァ!!!


 俺のひと声で伸びた鎖が一気に縮まり、剣身に絡まったゴブリンたちを締め上げ、数十匹の身体が緑色の鮮血を散らして肉塊へと化していた。


 手元に収まったガリアヌスの血振りをしたときだ、どこからともなく現れた魔物の群れに村は取り囲まれていた。二つの川に挟まれたメタミン村の両の対岸にはおびただしい数の魔物がおり、すでに逃げ場はない。


「なにをしている。早く家に入れ!」

「あ、ありがとうございます。あなたさまは……」

「ノルドだ。見て分からないか?」


 って、【魔闘外皮アームスーツ】着たままだったわ……。ニチアサのヒーロー物のライバルキャラみたいな変身スーツを着たままお外にでて、恥ずかしさが急にこみ上げてきた。


 俺には到底人前でコスプレはできそうにない。


 あれだけのモンスターの数だ。場合が場合だけにそんなことを言ってられない。


 もしかしたら、俺がここにいると知っている人物の誰かの差し金なのかもしれないという疑念が湧いてくるが、それよりも今はエリーゼと村人たちの安全が先決だ。


「エリーゼ、おまえはここに残り村人たちを守れ」

「ノルドさまは?」

「俺は魔物どもを狩ってくる」

「私もノルドさまと……」


 俺の告げた言葉を今生の別れみたいに勘違いしたのか、エリーゼは俺の手を取り、離れたくなさそうにするが……。


「うぬぼれるな! いくらおまえが俺に次ぐ成績を上げようとも足手まといなのは間違いない! 俺とともに戦おうと思うなら、いまの百倍は努力するんだな。分かったら、とっとと愚民どもを集めて隠れていろ」


「ですが、ノルドさま……」

「俺が負けるとでも?」


 エリーゼはぶんぶんと大きく首を振って、俺の問いに仕草で応えた。


「どうかご武運を」

「もちろんだ。今晩はおまえと愚民どもにドラゴンステーキを振る舞ってやろう」

「はい!」


 たとえ数万の魔物だろうが俺ひとりなら相手にならない。


 が、村人たちの命と彼らが大切にしてきた土地を蹂躙されないというミッションが加わると難易度が格段に高くなる。


 村の男たちとモランに守らせていたが、数が数だけにいつまでも持ち堪えることは難しいだろう。


 まあ、ちょうどいい。


 このところ勇者学院で実力をセーブしないといけないことだらけだったので、ストレスが溜まってたところだ。


 俺は村の見張り台に飛び乗るとスキルを行使する。


魔眼ヘルズアイ


 俺の左目の虹彩に魔導陣が浮かび上がり、スコープのように焦点が絞られ、対岸の様子が手に取るように分かる。


「ふん、猫の獣人か……」


 先頭でモンスターたちを率いる猫っぽい耳をした女の獣人の姿を俺の魔眼が捉えた。


 俺は奴を知っている。


 フラノア大陸の魔王リゼル配下の四天王のひとり、マオ。


「なになに? ふむふむ。オオグンタイアリ ハ クンデ ハシヲ ツクレだと」


 読唇術でマオの口元を見るとそんなことをモンスターたちに指示していた。


 なるほど、悪くない。


 主力の陸上型モンスターを素早く対岸に展開させるには打ってつけの作戦だろう。


 俺が相手でなければ、の話だが。


 大きさが子犬ぐらいもあるオオグンタイアリがまるで梯子のように仲間のアリを踏み台にして上へ上と積み重なってゆく。


 出初め式で使うような長い梯子が組み上がると奴らは一気に倒れ、オオグンタイアリの身体でできた橋がかかってしまった。

 

 するとゴブリンやコボルトなどの小型モンスターたちが飴色の橋に飛び乗って、駆け出している。


 ――――にんげんども狩る!


 最初の一匹が対岸に足をついたその瞬間、


「残念だったな。この川の渡し賃はおまえらの命だ」


黒円弧ブラックプロミネンス限界突破リミットバースト


 村側の堤防のうえに急に出現してやり、斬撃に魔導を重ねて撃ち放つ。


 水面が飴色の橋で覆われ渡河中のモンスターは身体を両断されながら黒焔で焼かれ、また焔は他のモンスターへと飛び火していた。


 それだけに止まらず、俺の斬撃は対岸の堤防を切り裂いている。


「ふはははは! S級魔物が雑魚のようだぁぁ!」


 まるでアフリカのバッファローが大群で渡河しようとして、流される映像が浮かんだ。多くの魔物が海へ続く川の濁流に飲み込まれ、ドナドナされてゆく。


 ワイバーンやグリフォンなど飛行型の魔物が辛うじてマオを含む地上型の魔物を掴んで引き上げていた。


 一気呵成。


 膨大な魔導力と禍々しいまで冴える剣技で敵を瞬時に殲滅するのがノルドの得意とするところ。


 俺もそれに倣い……、


「山を崩し、海を斬り、空を穿つ。とくと味わうがいい黒よりくらき【暗闇の波動メメントス】を、な!」



 ズッギューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッッッッッ!!!!!!



 俺から放たれるコロニーレーザーすら凌駕する巨大で漆黒のビーム。僅か数秒足らずだったが、上空に向けぐるりと凪払うと空を覆う魔物たちは次々と蒸発していった。


 【暗闇の波動】が魔物たちを食い、真っ黒に覆われていた空には元のさわやかな蒼さが戻った。


 浮かせて落とす。


 これ基本だよな。


 古臭い格ゲーのセオリーでも異世界なら現役って感じ。俺の有り余る力の余波はアッカーセン王国ごと凪払ってしまうので、この作戦がいちばんだと思われた。


 敗残した魔物が逃げてゆく。


 やった勝ったぞ! 村もちゃんと守れたし。


 しかし、またノルド語を発してしまった俺……。


「痴れ者どもが! よく聞け! 俺を倒したくば10万など数のうちに入らんな。最低でも100万は持ってこい。しかも飛び切りの精鋭を揃えてな!」


 なんで余計な煽り入れちゃうの!?


 だめだ、これ絶対に死亡フラグだよな……。


 俺が頭を抱えているとエリーゼが息を切らせて、俺の下へと駆けてくる。


「ノルドさまーーーーーーーーーーーーっ!!!」

「あの程度の魔物、せっかく身につけた俺の剣技が鈍ってしまうな」

「ですが逃げ出した魔物たちは放っておいてよろしいのでしょうか?」


「ククク……俺が刃向かった者どもをただで生かしておくとでも? 奴らに【追跡因子マーカー】を埋め込んでおいたのだ。蟻の子一匹たりとも逃がしはせん」


 エリーゼの心配をよそに俺は額に手を当て、その指の隙間から彼女を見て、言い放ってしまっていた。


 どうも戦闘で高揚して、厨二ノルド病の発作が出てしまったらしい。俺とエリーゼの会話を聞いていた村長が感嘆の声を漏らした。


「おお……なんと頼もしい……。やはり我らの見立ては間違ってなかった。ノルドさまはまさに黒の勇者と呼ぶにふさわしいお方です」


 え?


 なんすか、その黒の勇者って?


 俺まだ勇者学院を卒業してないんですけど……。


 それにそんないらない称号つけたら、ケインは嫉妬するし、魔王軍に狙われちゃうし、平たく言ってヤバくない?


―――――――――あとがき――――――――――

あとがき書くのを忘れて、あとから書いてます(真顔)。作者、NTR物ばかり書いているせいか、とんでもない物に手を出してしまいました。


ガールズ&パンツァー 戦車道大作戦! 西住 しほ[大洗女子]


家元がセーラー服着て、おへそ出してるヤツです。なお家元は二児の母www (作者、二児は未所持)

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